繁華街にある賑やかなファッションビル。その日、僕はそのビルにある大型書店に参考書などを買いに行ったのだ。
本を買い終わってその帰りがけ、フロアの隣りにあるアクセサリーショップの前を通りかかったら、不意にその店のなか陳列棚のかげから声をかけられたんだ。
「あら、あなたは・・・」
そこに立っていたのは、なんと、お嬢様であった。
お嬢様!? な、なんでこんな俗世界へ??
「お、おじょじょ、お、お一人でこんなところへ?」
「いいえ。めg、メイドが一緒なのですけれど。あら、どこに行ったのかしら。」
想像もしていなかった人物がいきなり現れたものだから、思わずどもってしまった。恥ずかしい。
そういえば今、初めて私服姿のお嬢様を見ることができましたが、ふわふわした白いワンピース。上品で美しいです。すっごく。もう、この瞬間にも意識が飛びそうです。生お嬢様の脅威。
それから、お嬢様のそのお姿を拝見して、その何というか、そのー、意外とお胸が豊かである、ということに僕は気付いてしまった。うわあ、ドキドキする。
そんな下品な思いをなんとか押さえつけつつ、美しいお姿に見とれていたら、お嬢様は思いがけない事をおっしゃったのだ。
「あなたも舞の誕生日プレゼントをお探しにいらっしゃったの?」
なんですと!!舞ちゃんの誕生日だって!? これは非常にプライオリティーの高い情報だ。何としても聞き出したいぞ。
でもストレートに聞くのも無粋だし、そんなすぐには妙案も思い浮かばなかったので、ちょっとカマかけてみようかなと思ってこう答えてみた。
「ええ。もうすぐですもんね、5日でしたよね」
「あら、5日なのはなっきぃよ。その日に寮の皆さんで合同の誕生パーティーをするのだけれど、舞の誕生日は7日だわ」
「あっそうそう、7日でした」
あっけなく誕生日の情報ゲット。ありがとうお嬢様。
お嬢様は人のことを疑うとかそういう思考とは無縁なんだろうなあ。心がきれいな証拠だ。
誕生日のみならず、いろいろな情報も入ってたな。寮ってこの間もどこかで寮の話し聞いたような気がする、なんだったっけそれ。あとは、なっきぃって誰だろう。
お嬢様の情報提供はまだまだ続いた。お嬢様がしみじみとつぶやく。
「舞も、もう14歳になるのね・・・どんどん大人になっていくわ」
なんと!!舞ちゃんって中学2年生だったのか・・・
あれだけしっかりした子に見えるのに、まだ14歳なのか!? いつものグループの中で一番貫禄あるようにも見えるけど、まだ中学2年生!? あの風格はいったいどこから出てくるのだろう。
確かに幼く見えるときもあるけど、それはお嬢様もそう。幼く見えたり妙に大人っぽかったり。女の子って本当不思議だよな。
それにあれだ、お嬢様は、その、お胸が(ry
「お、お嬢様も14歳にしては大人っぽく見えるじゃないですか」
「ウフフ、大人っぽく見えますか? でも千聖は14歳ではなくて15歳です」
お嬢様は3年生でしたか・・・ ふたりはあまりにも仲がいいからてっきり同学年なのかと思ってた。舞ちゃんの方が年下だったとは。
それにしても、少し照れた表情をして上目遣いで僕を見るお嬢様。この夢のような状況に僕はすでに現実感がなくなりつつあった。そんなに無防備な顔をされたら僕は、どうすればいいか分からないよ・・・
それにしても、気になったことがひとつある。
「あの、ひとつお聞きしてもいいですか? どうして僕が舞ちゃんへのプレゼントを探していると思ったんですか」
「どうしてって? あなた、舞のことをお慕いしてるでしょう。何となくそう思ったの。ウフフ、どうやら図星だったみたいね」
どうして? どうして知ってるんだろう・・・ ひょっとして、そんなにわかりやすく態度に出ていたのだろうか。ちょっと恥ずかしくなってきた。
「・・・・・・」
「ウフフ、それはもう。だって、あなたいつも舞のことばかり見ているんだもの」
言葉に詰まってしまった僕の心中が見えているかのように、お嬢様が言葉を続けた。
お嬢様にはばれてたのか・・・
だが、待てよ。今まで特別に舞ちゃんにがっついたこともないし、そりゃもちろん舞ちゃんに見とれてることは多いけど、つとめて態度には出さないように意識していたつもりなんだけどな。
(舞様には「ちしゃとばかり見やがって」と完全に誤解されているみたいなのに何と言う皮肉)
そうか、たぶんお嬢様は人の心の機微というものに特別に敏感なんだろう。心が豊かでやさしい人は、人の気持ちを察することが出来る能力も高いんだって聞いたことがある。
お嬢様とお話ししていると、こちらの心も豊かな気持ちになってくる。もっともっとお話しをしていたい、そう思わされてしまう。これが社交術というものなのだろうか。
つい話しを膨らませてみたくなるこの雰囲気。気になったことを衝動的に聞きそうになった。
(舞ちゃんに好意を持っている男子を、お嬢様としてはどうお思いなんですか)
もしお嬢様に好意を持つ男子がいたら舞ちゃんは絶対に許さないみたいな感じだけど、その逆だったらお嬢様としてはどうなんだろう・・・
だがしかし、何となく身に危険が迫ってきているような悪い予感を感じる。お嬢様に男が接触しているっていうのにそれを放置しているのって、これはちょっと異常なことなのではないか、と思ったのだ。
ひょっとして、これは何か罠なのかもしれない。よく、甘い罠に気をつけろ、っていうじゃないですか。ここは長居は無用だ、と脳内に警報が鳴り響いてる。
「お話しできて、とても嬉しかったです。お買い物のお邪魔になってはいけないので、これで失礼させていただきます」
「そうですか。それではまた。ごきげんよう」
そして、別れ際の笑顔を期待していたら、その期待に見事に応えてくれたお嬢様。
笑顔で「また」って言われた事に有頂天になりつつ、その場を後にした。
お嬢様とこんなに親しくお話しができるなんて・・・嬉しすぎる!! 今日がこんな最高の1日になるとは、朝起きたときには夢にも思わなかった。ひょっとして、僕とお嬢様の間には引き付けあう何か運命的なものがあるのではないだろうか。
(じ、冗談ですよ、舞様)
帰り道、有頂天ではあったが何か恐怖感を感じて何度も後ろを振り返りつつ歩いた。
黒スーツに黒サングラス姿の怖い人系、みたいなお嬢様専属ボディガードが現れ拉致されて消されたりするんじゃないか、という妄想に支配されてしまったからだ。
ひょっとして今の会話も通信衛星とか使用して監視されてたのかもしれない、などとネガティブな妄想は膨らむばかり。
これはやっぱりお嬢様と違って僕の心はヨゴレてるのかなあ・・・
最終更新:2011年10月06日 22:10