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舞さん、こっち。

口パクしながら千聖が前方の絶壁を指差す。
「無理無理もう無理。あそこは登れないよ。」

日に焼けた小柄な背中を追いかけてかなり走り続けたけれど、体力が限界に近づいてきた。

もうみんなの声は聞こえないぐらい、遠くに来ていた。
泳いでる人も、歩いてる人も、誰もいない。
目に映るのは、羽でも生えてるかのように軽やかに走る千聖の後ろ姿だけだった。
段々と足がもつれてきて、私は地面に膝をついた。

「信じらんない、普通スカートでそんなに早く走れないから。もー疲れたよ。」
駆け寄ってきた千聖に寄りかかって文句を言ってみる。

「あら、舞さんたら。それなら、皆さんの所へ戻ります?」
軽く目を細めて、挑発するように口角を上げる千聖。
「はぁ?戻らないよ。ちょっとつまずいただけだし。」
「そうよね。2人で逃げるって約束ですものね。」

うわ、ムカつく。本当にこういうところは前の千聖と変わっていない。
私の闘争本能を上手く操るんだから。

「・・・どうせもうみんな追いつかないよ。歩いていこう。」
手を差し出すと、千聖は笑って指を絡ませてくれた。

気づけばもう夕暮れだった。太陽が海に近づいてきて、千聖の横顔もセピア色に染まりだしている。
私達はひたすら歩き続けた。喋りたくなったら喋って、歌いたくなったら歌う。時折無言の時間も訪れたけれど、その沈黙すら苦痛なものではなかった。

「海ってさ、全然終わらないね。」
「終わらない?」
「だってこんなに歩いたのにまだまだ海が続いてるよ。不思議じゃない?」
「そうね。」
眩しそうに目を細めて、千聖が微笑む。

その顔を見ていたらしみじみと、千聖は美人になったなあなんて思ってしまった。
お嬢様になったからとかじゃなくて、どこか気だるいような、大人の憂いみたいな色気を感じる表情をするようになった。
直接の原因は知らないけれど、えりかちゃんと愛理が何か関わっているんじゃないかと栞菜が言っていた。(そういえば、愛理と千聖がすごい表情でヨレヨレになって一緒にトイレから出てきたことがあった。)
あの2人と千聖の間に秘密があるのか、単なる思い過ごしなのかはわからない。
私は特に追求するつもりはない。
誰とどうしていても、千聖はこうやって私を選んでくれると知っているから。
「千聖。もし、このままうちらが」



“おぉーい、舞、ちっさー?いないのー?うおーい”



・・・・・・・・・・嘘でしょ。


いきなりだった。
よく聞きなれたあの人の声が、私の言葉を遮るように、風に乗って響いてきた。

「舞美さんね。」
千聖の手に緊張が走る。

「ありえない。舞達結構歩いたのに。もう近くまで来てるってこと?」
「舞さん。とりあえず、隠れられそうなところに。」
少し先に、ポッコリと海に突出している大きな岩がある。
身を縮めながら走って、死角になりそうなところから2人で息を潜めて様子を伺った。
声がどんどん近づいてくる。
「・・・・こっちにいるっていう確証もないのに、迷わずに進んできてるわ。」
「まあ、舞美ちゃんだからね。」
「そうね。」

千聖の心臓のドキドキが、繋いだ手を通して伝わってきた。スカートの裾を握る手は、力を込めすぎてうっすら血管が浮いてしまっている。
「大丈夫、大丈夫」
どちらともなく小声で囁きあう。

「おーい、ちっさー?あれー絶対こっちだと思うんだけどなあ。舞ー?」
大きな独り言とともに、長い黒髪を風にたなびかせた美人が姿を見せた。



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