今日は放課後のことを考えると授業中も上の空で全く頭に入らなかった。
午後3時すぎ、ホームルームが終わるやいなや高校を飛び出して、向かうはいつもの学園の通学路。
下校時間に何とか間に合った。帰り始めた学園の生徒さんたちがちらちらと通り過ぎる。
だが、生徒さんが次々通り過ぎていくその中に、待てども待てども舞ちゃんはやってこなかった。
もう帰ってしまったのだろうか。いや、そんなことはないはず。ずっと待ち伏せ(!)していたのだから。
間違いなく、まだ舞ちゃんは通っていない。
むなしく時間だけが過ぎてゆく。気持ちはあせるばかりだ。
舞ちゃんへの誕生日プレゼント。明日じゃダメなんだ、今日渡せないと意味がない。
もうすっかり暗くなってしまった。万事休すか。
そこへ神様のお助けか、向こうから一人の知っている生徒さんが歩いてきた。
逆光のシルエットの中から登場した長身の生徒さん。外套を羽織ったその制服姿は、息を飲むほど美しかった。
歩いてきたのは舞ちゃんのお姉ちゃんだった。
かくなる上は、お姉ちゃんに託すしかない。
だが、そのあまりの美しさに僕が声などかけていいものか逡巡する。
が、もうこれが最後のチャンスなんだ。逃す訳にはいかない。
決意と実行。僕は意を決して、美人の上級生に話しかけた。
「は初めまして。あ、あのこれ今日が、た誕生日だと聞いたので、う受け取ってください」
「え!? ええ?? なんで今日が誕生日だって知ってるんですか?」
緊張のあまり噛みまくりだ。うまく舌がまわらない。
そして、超絶美人さんに問い詰められて完全にテンパった。
「いや、あの、おじょ、ある人に聞きまして。こ、これ誕生日のプレゼントなんですけど、是非あの渡したかったんですけど、会えなくて・・・ お、お願いします」
「そうですか・・・ ありがとうございます」
お姉ちゃんはとまどいながらもニカッと笑って受け取ってくれた。何て爽やかな人だろう。
間近でお姉ちゃんを見ることができたのだが、お姉ちゃんはきりっとした美人さんで本当に美しい。
姉妹だけあってふたりとも目力が似てるなあ。舞ちゃんも力強い感じの目をしてるけど、お姉ちゃんはやさしさの中に意志の強さを感じる目をしていて、さすがに大人っぽい。
こんな人が将来僕のお義姉さんになるなんて本当に(ry
プレゼントを小脇にかかえて歩いていくお姉ちゃんは後ろ姿も凛々しかった。かっこいい人だなあ。
後から考えてみたら、舞ちゃんに渡して下さいということを言い忘れてる・・・
でも、「誕生日プレゼントです」ということは伝えられたから、今日が誕生日の妹に渡して欲しいものだとは伝わっただろう。
大仕事を終えた心地よい達成感を感じつつ、足取りも軽く家路についたのだ。
今日はいい1日だった。
「お、おじょじょ、お嬢様! 遅かったじゃないですか!心配してたんですよ」
「舞と寄り道して2人でクレープを食べてきたの。美味しかったわ」
「お嬢様!下校時に寄り道することは禁止されています! まぁ、今日だけは特別ですよキュフフ」
「あー! 舞美ちゃんどうしたのそれ! ポッチャマのぬいぐるみ、いいなー」
「学校の帰りに貰ったんだよ。誕生日だからって」
「舞美は本当にファンの人が多いよね。学外の人からもプレゼント貰うとは大した人気者だね」
「ねー、これ舞にちょうだい」
「あら、それは舞美さんが頂いたプレゼントなのよ?」
「いいじゃん、お姉ちゃんは別にポッチャマとかどうでもいいでしょ」
「まぁ、舞。プレゼントというものはね、贈る方のお気持ちなのよ」
「まぁまぁ、お嬢様。舞の大好きなぬいぐるみなんですから。じゃあこうしよう、私のものだけど普段は舞の部屋に置いておいて舞の自由にしていいってことにしよう。ね、これでいいでしょ。お嬢様」
「ウフフ、舞美さんは本当に舞には甘いのね」
最終更新:2011年10月06日 22:11