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「・・・という意識を常に持ち、業務に勤しむ事が、岡井家にお勤めする執事としてあるべき姿であり・・・」
「はい・・・はい、申しわけありませんでした」

朝のお説教タイムを胃の痛みと戦いながらやり過ごし、人気のない裏庭の隅っこで密かにため息をついた。

・・・なかなか、執事という仕事も大変だ。
勤め始めて数年が経過しているし、ぼちぼち新しい業務を任されることも増えてきているけれど、ベテランの執事の皆さんにはやっぱり敵わないわけで。そりゃ当たり前だけど。
昔働いてた会社では、超体育会系上司に「グオルアァァ!」みたいなノリで叱り飛ばされまくってたわけだが、ここではあくまで優しい口調で、自分の至らなさを懇切丁寧に訥々と諭され、それは真綿で喉を締め付けられるような、じわじわと追いつめられるような・・・

「・・・うぅ」

ヤバイ、また胃痛が。

まだまだ執事として向上したい気持ちはあるものの、果たして僕のような草食系()に向いている仕事なのだろうか。
むしろ、見た目からして肉食系()なメイドの村上さんとかのほうが適していたりして。

「うへへへ」

屋敷に侵入してきたテロリストを、指一本でバッタバッタと薙ぎ払っていく背広姿の村上さんを想像したら、ちょっと笑いがこみ上げてきた。

(夢羅神)<この指をぬいてから3秒後にてめえは死ぬ。その3秒間に自分の罪深さを思いしれ

「ドゥフフw」
「・・・あら?」

そんな妄想に明け暮れていると、物陰から制服姿の女の子がぴょこんと顔を出した。

「うわっ!すすすみません!」

「あはは。いえいえ、お気になさらず~。・・・大丈夫ですか?具合悪そう」

エキゾチック、という形容がふさわしい美貌を眇めて、その人――梅田さんは僕を見つめた。・・・ドキがムネムネしちゃう。
一見、キツそうな印象だったりもするけど、僕みたいな一執事なんかにも気をかけてくれて、とても優しい人だ。

「こんなじめじめしたところにいたら、もっと性格まで暗くなっちゃいますよ?」

・・・さすが、隠れ天然。もっと、って。笑顔でサラリとひどいこと言う。
とはいえ、普通の生活じゃとてもお近づきになれないような美人と接する事が出来るのも、ここでの仕事の大きなうまみ。
まあ、僕も健全な男ですから(キリッ)。普通に、可愛い人や美しい人を見れば心が躍って張り切ってしまうのは当然のことです(キリキリッ)。

お嬢様も相当にお美しく、またどこかあどけなくて可愛らしい方だと思う。が!隣接する寮の皆さんも、たまにお嬢様を訪ねてくるお友達(オオキ・ナクマさん?スギャ?さん?モォさん?)も、総じてお顔のレベルが高・・・失敬。


「あはは、何か元気になったみたいですねぇ。じゃあ、ウチはこのへんで」
「は、どうも」

立ち去る後ろ姿を眺めつつ、しばし執事モードから解放されて考え込む。・・・いや、でも本当に、マジで、美少女しかいないお屋敷って、すごくないか?
執事頭とかには秘密だけど、オフの時、たまに年の近い執事仲間と微妙にけん制しあいながら、そんな話をすることもある。だって、なかなかないだろ、こんな職場は。

明るくてスポーツ万能で天然という、少年漫画のキャラみたいな矢島さん。
優しくて華やかで、お姉さんなのに泣き虫な梅田さん。
しっかりものと思いきや、結構ヘタレでいじられキャラな中島さん。
清楚で物腰柔らかく、お嬢様ぁなオーラがそこはかとなくただよう鈴木さん。
愛らしい外見の中に、超明晰な頭脳と天性のサディズムを隠し持った萩原さん。
℃変態の有原さん。

全員キャラの違う美少女たちとの同居生活とか、どう考えてもギャルゲーの世界だろjk。せめて僕が、水島○ロのようなイケメン執事だったらあるいは・・・。などとくだらない妄想に身をゆだねてみる。
おこがましいが、そうだなぁ。僕だったら、この中で一人選ばせていただくとするなら、ムフフ、やっぱり、可憐で大人しそうな鈴・・・


バサッ


「な、なんだ!?」

突然、視界が真っ暗になる。

「ビニール袋・・・?」
「ああ・・・なんだ、粗大ゴミと間違えちゃったかんな」

袋の口を手繰り寄せ、慌てて顔を突き出すと、氷の微笑を浮かべた℃・・・いや、有原さんが仁王立ちしていた。


「あのー、えりかちゃん、見ませんでした?」
「え?粗大・・・?え?あ、いえ、あの、さっき、中庭のほうへ」
「ふーーーーーーーーーーーーん、そうですか」

・・・ヤバい。これは、どうしたものか。また内臓に素敵な負荷がかかり始めた。

「もうすぐ春だかんな」
「はぁ」
「・・・この辺も、お嬢様のお部屋も、寮も、そろそろ虫除けの薬を焚かなきゃならないかんな。悪い虫対策に」

OH・・・

これが、ヤンデレという奴か。いや、デレてない。全然デレてないよ。違うよ、全然違うよ。
なまじ顔は美形なだけに、無表情で僕を見下ろす迫力は形容しがたい迫力が備わっている。

「・・・ま、それは今度めぐぅに頼むからいいか」

しばしの沈黙の後、有原さんはふっと表情を緩めて、やっと可愛らしい顔で笑ってくれた。

「はは・・・」
「あ、そうそう。一応言っておきますけど。・・・いいですかーぁ。このぉ、寮のぉ、美少女はぁ、みんなぁ、私のぉ、大切なぁ、俺の嫁ぇ、だかんなぁ」

なぜか、某戦場カメラマンの口調で詰め寄ってくる有原さん。・・・何だ。一体なんなんだこの人は。
・・・待てよ。何で僕が頭の中で考えてる事がわかるんだ?
そりゃあたった今、執事としては行き過ぎた空想をしていたことは否めないが、決してそれを口に出したりはしていない。

「まさか・・・」
「ったくこれだから男は。てやんでぇこんちきしょうめ。オメー、さっきの私の脳内プロフィール修正しとけよ。だかんな」


*****

「おーい。・・・大丈夫ですかー?」
「はっ!」

軽く頬を叩かれる感触で、我に返ると、大きな目をらんらんとさせながら、村上さん、と有原さんが目のまえに座っていた。

「あばばば」
「スタッフミーティングなのに戻ってこないから、探しに来たんです。皆さん心配してますけど」
「あ・・・あぁ、すみません。何か疲れて」
「よかった、とっても心配したかんな。偶然通りかかった私も、これで一安心だかんな」
「ど、どうも(何だその説明口調は)」

・・・ん?あれは、夢だったのかな。ははは、そうだよな。まさか、人の頭の中に侵入できるとか、SFの世界じゃあるまいし。

大体、こんな親切に声を掛けてくれる人に、僕はなんて失礼なことを!

「めぐ、私お嬢様のとこいくからこの辺で」
「あ、はいはい。どうぞいってらっしゃいませ。ほらほら、私たちもそろそろ行かないと」

村上さんに急かされるがまま立ち上がり、有原さんとすれ違う刹那、グイッと腕を引かれた。

「えっ」
「デンデデデッデテデ・・・頭の中を、見抜いて欲しい・・・見抜いて欲しい・・・見抜いて欲しい(エコー)」


なぜか矢島さんそっくりの声で、どっかで聞いたような都会っ子純情なメロディーに合わせ、有原さんは呪詛のような言葉を発し、そのままどこかに去っていってしまった。


「うおお・・・」
「もう、胃痛とかいいから!キャベツでも食ってろ!行きますよ!」

夢だけど、夢じゃなかったんだね!本当にサトリはいたんだね!なんて恐ろしい・・・。お嬢様に無理やり見させられた、何とかアクティビティとかいうホラー映画よりもよっぽど怖い。っていうか、次回の主役になれるだろ、有原さんなら。
・・・考えてみれば、いつぞや萩原さんにも、お嬢様を可愛いって思った時に同じ攻撃を食らった気がする。

なんなんだ。お嬢様に対してアレな人は、何か脳の特殊なアレがアレする傾向があるとでもいうのだろうか。
なんにせよ、目をつけられてはいけない人からの注目をまた浴びてしまったことは間違いないわけで・・・。

よもや、お嬢様をお守りするとかいう名目で、あの2人がタッグを組んだりなんかしたら、僕なんか即【大勝利】執カス終了のお知らせ【ざまぁw】状態になるだろう。

今度こそ田舎の両親へ遺書を書くときがやってきたのかもしれない。だが、仕事を休むわけにもいかない。
胃と頭を痛めながら、前を堂々とふんぞり返って歩く村上さんを追って、僕はミーティングルームへと向かうのだった。



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