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「なーんーで梨沙子がこんなとこにいるんだよっ」

アイドルモードを一時停止させた、少々ドスの効いた声のももちゃんが、ずんずんと大また歩きでこっちに迫ってくる。
ステージではぶりぶりっこで、顔立ちの幼さを最大限に駆使したパフォーマンスを繰り広げているというのに、アイドルの舞台裏ってこえええ・・・。
薄桃色の可愛らしい衣装とのギャップも相まって、なかなかにホラーな光景だ。

「ここ、関係者専用口じゃないんでしょ?だったら、私がどこにいたって別にいいじゃーん。関係ないじゃーん」

だけど、りーちゃんは全然ビビッていない。さすがもぉ軍団。
むしろ、「ももふぜいがあたしに注意とかwww」みたいなテンションで、ますますももちゃんのほっぺたが紅潮していく。


「ももちゃん・・・ステージは?」
「ん?大丈夫。今アンコール前の休憩中だからね」

おざなりながらも、一応質問に答えてくれるももちゃん。だけど、その視線はガッチリりーちゃんにロックオンされたままで・・・

「前半、最前で楽しそうにしてたくせに。何で急にいなくなるの?もぉのステージング、ダメだった?」
「そんなことはないわ。今日のももちゃんのパフォーマンス、とても素晴らしいと思うわ。千聖はしっかり見ていたもの。でも、すぎゃさんは夏焼のファンでいらっしゃるから、その、ももちゃんのことは・・・」
「そうそう、もともと別に梨沙子もものことは大して見てなかっただろうし、気にすることないって!はいドンマイ!」
「・・・貴様ら」

・・・うわ、出た熊井ちゃん。これはうっとうしい事になりそうだ。
千聖も熊井さんも、天然で人を凹ませる天才なもんだから、ももちゃんもがっくしと肩を落としてしまった。


「あれー?もしかして梨沙子に見て欲しかったのに、居ないから怒っちゃったのー?あはは、でもでも、どーせ梨沙子はさぁ」
「・・・熊井ちゃん、その辺で勘弁してあげなさいって」


須藤さんの制止は一歩遅かったようだ。
ももちゃんはすっかりいじけてしまって、マンガのようにうずくまって床にイジイジと文字を書いて撃沈している。

「・・・ふんっ、どーせもぉの頑張ってる姿なんて、どーでもいいんだろうけどっ!でもねもぉだって一生懸命やってんのにさ、団員が見てないとかどーゆー仕打ちなの?これ」

・・・あ、ちょっと可愛い。
ぶりぶりももちゃんじゃない状態を知っているからこそ、こういう素の状態で子供っぽくなっている姿は新鮮だと思う。

「もも、大丈夫!ウチはちゃんと見てたよ、ももがオープニングの曲でワンテンポ遅れたとことか、その次の次の曲の大サビで声裏返っちゃったのもわかったし」
「ムキー!!」

大爆発を起こすも、熊井ちゃんはニヘニヘと笑って流しちゃうもんだから、全然怖い雰囲気にならない。ちょっと面白くなってきてしまったのか、千聖なんてうつむいてぷるぷると肩を震わせている。


「もも・・・ごめんね」

すると、りーちゃんが両手でももちゃんの手を取った。

「私、夏焼先輩が大好きだから、やっぱりどうしても夏焼先輩の方ばっか見ちゃうのね。
でも、ももが頑張ってるのもちゃんと見えてたよ?(微妙に)
歌声も、可愛くてすっごく響いてた!(気がする)
MCも、さすがももって感じで、面白かったし!(多分)
だから、全然見てないなんてことはないから。ね?」


――こ、こ、こ、この女・・・結構やりやがるな・・・!

℃変態とともに「サトリ」呼ばわりされちゃうぐらい、人の気持ちをエスパーできちゃう私には、長い睫毛をはためかせて可愛く甘えるりーちゃんの、言外にある本音がとってもよく伝わってくるのだった。

「・・そーお?まあ、見てたならいいけどぉ」
「いいのかよ」

・・・本当、来年はトリオ漫才でもやったほうがいいんじゃないの、もぉ軍団。

「・・・ま、でもね。何となくわかってるから。梨沙子がどうしてここにいるのか。みやのことでしょ」

ふと、ももちゃんが真顔になる。

「みやが今日、気合い入ってるのが気になって、探り入れにきた感じ?」
「ももぉ」
「さすがみやのガチファンだね。・・・まあ、ちょっと開演寸前にいろいろあってさ。長年の心のつかえがいきなり取れたもんだから、みやも上手く心の制御が出来なくなってるの」
「いろいろって?夏焼先輩の心に引っかかってたのって?」

りーちゃんは必死に詰め寄るけれど、ももちゃんは涼しい顔でそれを受け流す。

「それはみやにしかわからないことだからね。ウフフ
でも梨沙子、考えてごらん。逆に、こんな浮かれたみやを見られるのは今年だけかもしれないんだよ」
「今年だけ・・・」
「そう。梨沙子は超レアな状況に遭遇してるっていうのに、こんなとこにいていいの?もったいなくない?」

・・・なるほど、うまいな。
ももちゃんからの説得を受けて、りーちゃんは「そうだよね」とつぶやき、いきなり立ち上がった。


「そう、そうだ!あたし、何血迷ってたんだろ。
今年の夏焼先輩には、今年しか会えないっていうのに!」
「そうだよ梨沙子!」
「こうしている間にも、夏焼先輩の体内では新たな細胞が分裂や収縮を繰り返しているわけで」
「う・・・うん」
「1秒先の夏焼先輩は、1秒前の夏焼先輩とは違うんだもんねっ。なんてもったいないこと!こうなったら、アンコールは最前でオペラグラス使うから。皮膚の質感から頭皮の水分バランスまで徹底的に目に焼き付けるもん!」

――先日、栞菜が読んでた高校生向けのファッション雑誌に、こんなことが書いてあった。
“何かに夢中になってる女の子って、とっても素敵!ひたむきでポジティブな恋するオーラが恋愛運を(ry”

「どこが素敵やねん」

引きつった顔の須藤さんと目が合う。ももちゃんも失笑気味。熊井ちゃんに至っては飽きてウトウトしだしているこの状況の中、なぜかキラキラした瞳でりーちゃんに駆け寄る子犬、1匹。

「すぎゃさんっ」
「おう!」

お得意のちょっとむかつく(キリッ)顔で、千聖は声高に語りだす。

「すぎゃさんの雅さんへの愛情、とても深く胸にしみこんだわ」
「おう!」
「さあ、今度はその暖かなお気持ちを、観覧席から雅さんへ届けましょう!お名前を呼びながら、席へ戻るのよ!すぎゃさんっ」
「おう!」
「ちょ、おま」
「みーやび!オイッ!みーやび!オイッ!」
「みーやび!オィッ!みーやび!オイッ!」


「「みーやび!オイッ!みーやび!オイッ!」」


「呼んだ?」
「ひぎぃ!」


コント番組のように、りーちゃんが横っ飛びで床に崩れ落ちる。

――アカン、もうグダグダやでぇ・・・
視界の隅っこで、須藤さんが天を仰いだ。



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