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「紗季ー?どこ行くの?」
「探検してくる!すぐ戻るからー」
「もー、うちら遊びにきたわけじゃ・・・ねーってば!勝手なことすると私が怒られるんだからねー」

咎めるような花音の声を聞き流して、ピカピカに磨かれた廊下を小走りに進む。

「いいなぁ、綺麗な校舎!」

清潔感が保たれているだけじゃなく、建物全部がかっこいいデザインのこの学校。すっごくわくわくする。

今日は、姉妹校の生徒会との交流会に、会計の花音と一緒に来た。
花音曰く、生徒会の運営に関する情報を交換したりする真面目な会らしいけど、さっきから浮き足立っている。
今年から書記をやっている私にとっては、今日が始めての訪問。
昨日の夜までは結構緊張していたんだけど、放課後になったらだんだんテンションが上がってきて、さっきもバスの中で騒いで、引率の先生に怒られてしまったところだ。


「こんにちはー」
「あ、どうもどうも。えへへ」

通りすがりの生徒さんたちからの挨拶に、でへでへとアホっぽい笑顔で対応してみる。
見慣れない制服の私にもわざわざ挨拶をしてくれるなんて。さすが、ハイレベルなことで知られる学校だ。
校舎もオシャレだし、おっきめリボンの制服は可愛いし、心なしか生徒さんたちのルックスレベルも高く見えるし、まさに別世界って感じ。

でもでも、うちの学校だって、そりゃあボロだけど、生徒会には結構可愛い子いっぱいいるんだから。彩香とか、憂佳とか、花音とか。卒業しちゃったけど、前の生徒会長さんの真野さんも美人だったし。
それに、このオーソドックスな紺色のスカーフのセーラー服だって、あんまりオシャレじゃないかもだけど、私は結構気に入ってたりする。お母さん世代には好評なんだから!


「ん?」


ふと、窓の外に目を向けると、中庭に小さな家みたいな建物があった。
ステンドグラスの小窓で、屋根のとこには十字架がついている。ということは、教会・・・かな。
そういえば、キリスト教系の学校だって話だったっけ。会議中はいっつもラクガキして遊んでるから、真面目に聞いてなかったけど、多分そうだった。きっと。うん。

何となく興味がわいて、私は上履きのまま、そっと外通路に出た。

「ちょっと、紗季ってばー」
「ごめ、後で行くから!先に会議やってて!」

    • ・あーあ、あとで、めっちゃ小言言われそう。
でも、私は一度楽しげな事を見つけると、どうにも周りが見えなくなってしまうタイプで、今はもうカッコイイ外観の教会に夢中。
日が暮れかかった、人のいない中庭のど真ん中にどーんと存在しているそこのドアをゆっくりと開けてみる。


「うぉー、ちょーきれい」

まず目に入ったのは、天井まで聳え立つようなパイプオルガン。
両脇に並ぶ長机と椅子は綺麗に磨かれていて、校舎とおんなじで、ここもすごく大事に扱われているんだなっていうのがわかる。
思ってたより小さめの空間だったけど、こんなに素敵なとこなら、卒業生が結婚式とか出来そうな雰囲気だ。

「・・・げっ」

そのまましばらくキョロキョロと辺りを見渡していた私は、正面に視線を止めたまま固まってしまった。

正面にあるパイプオルガンと、さっき外から見た色とりどりのステンドグラスの下。とても小さな背格好の生徒さんが、丁度跪いてお祈りを捧げているところだったから。・・・てゆーか、私、空気読めてない。?

栗色の長い髪が、窓から差し込む光を受けて、独特な色合いを帯びている。
それはとても神秘的で、荘厳で、現実感のない、不思議な光景だった。

邪魔しないように、とっとと退散すればいいのに、なぜか足が凍りついたように動かない。
小さいけど、制服が青のチェックだから、ここの高等部の人なんだな、なんてどうでもいいことが頭をよぎった。

「あら・・・?」

やがて、その人はゆっくりと顔をあげ、こちらを振り返った。

「ど、どうもー・・・あはは」
「まあ・・・」

その、夢でも見ているかのように、ぼーっとしていた目つきが、私を見ながら、ゆっくりと力を取り戻していく。

美少女、っていうより、めっちゃ整った顔だなって思った。
女の子っぽい綺麗さじゃないっていうか。こういうの、花音ならうまく表現してくれそうなんだけどな。

とおった鼻筋に、ちょこんと小さい唇。
何よりも印象的だったのは、私を見つめる子犬っぽいその目だった。
黒目しかないんじゃない?ってぐらいに存在感のある茶色い瞳には、まるで魔法みたいに人を金縛りにさせる効果があるみたいだ。
吸い込まれそうな瞳っていう表現が、こんなに似合う人も珍しい。

「・・・」
「えーと、あのー・・・?」

その人は、私の顔をまじまじ見たまま、全然動かない。
おっきい音とかにビビる小動物みたいなリアクションだな、なんてちょっと思ってしまった。

そんなことを考えていると、その唇がゆっくりと開いた。

「あぁ・・・ごめんなさい。ちょっと驚いてしまって・・・。ごきげんよう。あの・・・中等部の方かしら?えと、姉妹校の・・・」
「あっ!はい、そうです!あの、しみゃいこうの!はい!ごきげんよう!ございます」

顔立ちからは想像できないような、舌たらずでふにゃふにゃした喋り方。
それでいて、口調はすごく丁寧で・・・一体どんなキャラなんだろ、この人。大人か子供かよくわからない。

思わずテンパッて元気すぎるぐらいの返事をしたら、口元を押さえてウフフなんて笑われてしまった。

「あの、なんかすいません」
「え?」
「お祈りの邪魔しちゃったみたいで。てか、びっくりさせちゃって・・・」
「いいえ、こちらこそ」

手前の椅子を軽く引いて、その人は上品な仕草で腰掛ける。
慌てて隣に腰掛けると、ふわっとバニラみたいないい香りがした。
長い睫毛を儚げに揺らして、軽いため息をつく仕草が色っぽい。

・・・うう、どうしよう。そわそわする。
私みたいな庶民でも、いや、庶民だからこそわかる。この人、多分、すっごいお嬢様だ。
立ち振る舞いや言葉遣い以前に、何かもう全然違うもん。放っているオーラが。


「・・・お名前を、お伺いしてもいいかしら」
「はいっ!え、えと、小川紗季です!」
「まあ、サキさんというの・・?ウフフフ」

なぜか、背中を揺らして笑う。

「ごめんなさい、私ったら。生徒会にも、サキさんという名前の方が二人もいるから、つい楽しくなって」
「はあ・・・」

お嬢様のツボというのは、なんだかよくわからない。
話題を変えようと、私は口を開いた。

「あの・・・キリスト教徒さんですか?」
「え?」

言ってから、ヤバイ!と私は口を押さえた。
たしか、初対面の人には政治と宗教の話はどうたらって花音が言っていたような。変なこと聞いちゃったかも。

「えと、何か、お祈りしている姿がキレイだから、マリア様みたいだなって思って・・・てか、ここ、ないんですね、マリア様とかイエスキリストの像とか!」

話せば話すほどわけがわからなくなって、墓穴を掘っている気がする。
こんな失礼な奴が生徒会メンバーだなんて・・・頭の中で花音が、アチャーって頭を抱えている姿が想像できた。


「・・・サキさんは、面白いのね」

そんな私を興味深そうに観察したお嬢様は、目を細めてまた笑った。・・・あ、可愛い。
笑うと目がなくなっちゃって、三日月みたいな形になるんだ。

「私は、特別に信仰をもっているわけではないのよ。
ただ、心を静めたいときに、此方で個人的に祈りを捧げているの」
「へー・・・」


それからお嬢様は、私に色々な話をしてくれた。

ここの学園は、キリスト教でぷろてすたんと(?)だから、マリア様とかの像がないとか、学校の中にある教会は、礼拝堂って呼ぶこととか。
とても優しく丁寧に教えてくれて、集中力のないこの私が聞き入ってしまった。
綺麗で優しくてお嬢様だなんて、漫画の中の人みたいだ。まさか、こういう人と関わることがあるなんて、つい数十分前までは考えもしなかった。



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