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お嬢様は、名前をちさとさんというらしい。
この近くの林道の奥に住んでいて、パパが管理している寮に、ここの生徒さんが住んでいて、ほぼ一緒に暮らしている状態だとか。

「えっ、じゃあ、やっぱり家にすごいお庭とかあるの?(お嬢様だし)」
「お庭・・・そうね。庭師がきれいにしているお花の広場と、寮の皆さんと遊ぶ噴水前の広場と、寮とお屋敷の間にも・・・」
「すごい!じゃあ、メイドさんはいる?コックさんは?」
「ええ、どちらも。頼りになるスタッフが、いつも千聖の家を守ってくれているのよ」
「は~・・・」

すごい、すごすぎる。ありえない。
冗談半分で聞いた事が、ちさとさんにとっては全て当たり前のことらしく、淡々と、夢見たいな生活について語ってくれる。


「さき、ちさとさんみたいなおねーちゃんが欲しかったな」

会話の合間、ふとそんなことをつぶやいてみる。
別に、お金持ちそうだからっていうんじゃなくて、こんな素敵なお姉ちゃんがいたら、って単純に思うから。
自慢じゃないけど、私はいい人と悪い人を見分けるのがかなり得意。

もっと私のことを知ってほしいし、ちさとさんのことも知りたい。


「まあ、本当に?」
「うん・・・さき一人っ子だから。お姉ちゃんとかおにいちゃんとか憧れるな。・・・だから本当に、ちさとさんがおねーちゃんならいいのに」

そう言いながら、考えてみれば、私って年上の友達のほうが多いのかもと思った。
もしかしたら無意識に、甘えさせてくれる人を選んでいるのかもしれない。

「ウフフ。さきさんにそう言っていただけると、とても嬉しいわ」
「なんで?」
「実はね、私、ちょうど今朝、妹と喧嘩をしてしまったの。それで、落ち込んで此処に来て、神様にお話を」
「えーっ!ちさとさんでも、喧嘩なんてするの?」

こんなに穏やかそうで、大人しそうな人なのに、全然イメージができない。
私の大げさなリアクションが面白かったのか、ちさとさんはまた目を三日月にして話を続ける。

「あら、そんなに意外かしら?
私ね、結構頑固で子供じみたところがあるの。妹はとても大人びているから、私の融通の聞かない性格が嫌なのだと思うわ。
“もっと大人なお姉さまがほしかったわ!”なんて言われてしまってね。
だめね、私。ちゃんと周りを見れるようにならないと」
「えー、そんなことないと思うけど・・・」

ほぼ不審者状態の私に、ここまで親切に接してくれる人が、自分を卑下するみたいなことを言うのは何かやだ。
上手く言葉に出来ないから、手を握ると、ちさとさんはまた少し微笑んでくれた。

「さきさんはね、少し、私の妹と雰囲気が似ているみたい。だから、さっき初めてさきさんをお見かけしたとき、とても驚いてしまったのよ」
「んー、でもさ、妹さんは大人っぽいんでしょ?私は全然だよ。今日だって、バスではしゃいでたら “お前は小学生か!”なんて先生に怒られちゃった。
彩花・・・えっと、今日はいないんだけど、さきの友達で、生徒会に彩花って子がいて、いっつも私と騒いでるんだよ。すっごいウケるの。
あとね、花音っていう子は、うちらと一緒にふざけてるとなぜか一人だけ怒られたりして、運がないって感じ。すぐいじけるし。
で、憂佳って友達もいるんだけどね、パッと見おとなしい感じなんだけど、実は結構はっちゃけてて・・・」


いろいろ教えてもらったお礼に、私も大好きな友達のことを、モノマネつきで紹介してみる。
するとちさとさんは「いやだわ、さきさんたら」なんて言いながら、声を上げて笑った。
嬉しくなって、彩香の宇宙人っぷりとかをいっぱい話してみると、そのたびにちさとさんは楽しそうに聞いてくれる。
そうしてひとしきり話が済んで、ちょっと間が空いた頃、ちさとさんはふっと真顔に戻った。

「さきさん、お友達の素敵なエピソードをたくさん教えてくださってありがとう。では・・・そろそろ、行きましょうか。時間が」
「ん?どこに?」
「あら、生徒会室よ。お礼に、私の大切な方たちも紹介してさしあげたいわ。
さきさん、今日は、生徒会の親睦会でいらしたのでしょう?あちらの学校の、生徒会の方なのよね?その、腕章・・・」
「・・・あーっ!!!」

ちさとさんの一言で、すっかり頭の中からすっぽぬけていたことがよみがえる。
・・・私、別に校内見学に来たわけじゃなかったんだった。
“生徒会書記”と書かれた腕章が、急にズシッと重く腕に食い込んでくるようだった。


「どうしよう!花音がぁ」
「かのんさん?さっきのお話の?」
「だってね花音ってしっかりしてるけど結構ヘタレだし、打たれ弱いしシンデレ・・・あー、花音っていうのは、うちの会計でぇ・・・どうしよう、ちさとさん!」

自分が怒られるのは慣れっこだし、別にどうでもいいんだけど、花音が私のせいでクレームをつけられてしまったらと思うと、身がすくむ。
どうして私はこう、すぐに周りが見えなくなっちゃうんだろう。子供っぽいにもほどがある。

「落ち着いて、さきさん」

そんな半泣き状態の私を優しく宥めてくれるちさとさん。

「大丈夫よ。ちさとがいるから」
「でも」

食い下がる私の唇の前に、ちさとさんは指を立てて笑う。
深い茶色の目でじーっと見つめられると、また不思議と心が落ち着いた。

「これでも、生徒会の正規メンバーですから。私から御説明申し上げれば、皆さんだってわかってくださるはず」
「あ・・・そうなんだ。ちさとさんも生徒会入ってるんだ。お嬢様は、そういうのやらないのかと思ってた」

「ウフフ。いつもね、舞・・・友達からも、ぼんやりしてて危なっかしいと注意されてしまうけれど、頑張ってお勤めしています」

得意げに胸を張る仕草が子供っぽくて、ついにやにやしてしまった。やっぱりなんか可愛いな、ちさとさんって。

「此方の生徒会はね、親切で温かい方ばかりですから、さきさんのこともきっと・・・」
「ねえ、さきさんじゃなくって、さきって呼んで」

調子に乗ってそんなお願いをしてみたら、ちさとさんは目をまん丸にしてパチパチと瞬きをした。

「さき、まだ中等部だし、さんづけじゃなくていいから」
「そうね。せっかくお友達になれたのだから、」
「ううん、友達じゃなくて、妹。
ちさとさん、さきのおねえちゃんになって。お願い」

仲のいい花音たちには言えない、素直な言葉がぽんぽんと飛び出してくる。

「いいでしょ。・・・ちさとおねーちゃん。生徒会室いこ、一緒に。案内してくれるんでしょう?ね、行こう!」
「もう、さきさん・・・さきったら、ウフフ。そんなにひっぱらなくても、大丈夫よ」


腕を絡めてぐいぐいひっぱりながら、お姉ちゃんとともに廊下を進んでいくと、通り過ぎる生徒さんみんなが、ハッと顔色を変えて、私たち・・・いや、おねえちゃんに会釈をしている。


「ち、千聖様!ごごごきげんよう」
「ごきげんよう、部活動ですか?お励みになってくださいね」
「は、はい!ありがとうございます!」

――ここで「おはげみ?おハゲ?ぷぷっ」とか思っちゃうところが、私とちさとおねーちゃんの差なんだろうな。
絶対口には出さないけど。

それにしても、やっぱりすごいんだ、ちさとお姉ちゃんって。学園の中では、きっとおトップクラスの有名人なんだろうな。
そんな人がおねーちゃんになってくれるなんて。後で花音たちにめちゃくちゃ自慢してやろっと。


“もっと大人なお姉さまがほしかったわ!”


ふと、私に似ているらしい実の妹さんが言ったという、信じられない暴言が頭をよぎる。
思い出したらちょっとむかむかしてきて、顔も見たことないその子に、文句を言ってやりたい気持ちになってきてしまった。


「・・・いらないなら、さきにちょうだいよ」
「え?」
「なんでもなーい!!」

私なら、絶対にそんなこと言わないもん。
本当の妹さんより、ちさとおねーちゃんを大事に出来る自信がある。
コセキジョウ(?)ってやつでは無理かもしれないけど、私のほうがいい妹って思ってもらいたい。そのためにはもっともっと、私のことを知ってもらって、仲良くならないと。

ほしいものを我慢できない性格だなんて、言われ慣れてるけれど。
より強く“必要だ”って願って、競争に勝った人が目的のものを手に入れられるのって、当然のことじゃない?それがシホンシュギってやつでしょ?よくわかんないけど!

そういうわけだから、負けないよ、ホンモノの妹さん!

「ちさとお姉ちゃんの家、遊びに行きたいな。そうだ、今度はさきの学校にも来てね。あとねー」
「ウフフ、さきはお話が好きなのね。あとでゆっくりお喋りしましょうね」
「はーい!」

思いがけない出会いで、とても可愛くて綺麗なおねーちゃんに出会えた私は、もうすっかり有頂天になっていた。


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