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足場の悪い崖の下を、千聖に導かれながらゆっくりと進んでいく。
波が爪先を掠めるたび、心臓がキューッと縮んだ。
こんな怖いこと、絶対一人じゃできない。
千聖は私の方を気にしながら、器用に足を進めている。
お嬢様の千聖は普段はふわふわしていて頼りないけれど、長女なだけあって、いざという時はキリッとしたかっこいい顔をしている。
どんなに不安な時でも、この横顔を見ているだけで、何の根拠もなく大丈夫だって思える。
恥ずかしいから絶対に千聖には言わないけれど。

「舞さん、大丈夫?ここから入って。」
体を盾にして、私を先に洞窟へ誘導してくれる。彼氏か。

「はー、すっごいね。よくこんなとこ見つけたね、千聖。」
そこは2人で寝っころがったらもういっぱいぐらいのスペースだったけれど、十分波も風も防げそうないい場所だと思った。
「舞さんのためだと思ったら、張り切ってしまったわ。」
千聖はごろりと横になる私の隣に腰掛けて、ちょっと大きめのため息をついた。
「疲れた?」
「ええ、さすがに。」

千聖は隈が出やすい。ちょっと青ざめた下瞼に触ってみる。
「ちょっと、本当に大丈夫?」

よく見たら、何だかけっこう大変なことになっていた。素足で走り続けたから足はアザとすり傷だらけで、可愛らしいスカートは砂にまみれて汚れている。

こんなに頑張ってくれたんだ。
舞のくだらないわがままのために。

「いいのよ。私がしたくてしたことだから。」
柔らかい指が、私のおでこを軽く撫でた。
「もぉ何っ・・・お姉ちゃんぶるなよぉ」

恥ずかしくなって、千聖に体当たりをかましてみる。
「やーだ、舞さんたら。」
前の千聖だったらこのままプロレス突入だったんだろうけど、お嬢様は私をふんわり抱きとめてしまった。

「ふふ」
「へへへ」

私が突っかかっても、今の千聖はうまくかわして和ませてしまう。悔しいけれど悪い気はしなかったから、そのまま千聖にもたれかかった。


「ここ出たらさ、年齢ごまかしてどっかでバイトしてみる?2人で働けばアパートとか借りられるかもよ。」

何をバカなこと、と自分でもちょっと思ったけれど、2人一緒ならどうにか生きていけるような気持ちになっていた。

「いいわね。楽しそう。」
「本当?でも、そしたらみんなに会えなくなっちゃうんだよ。えりかちゃんとか、愛理とか・・・・」
「えりかさんと、愛理?」

何だ。私気にしないとか言いながら、二人のことライバル視していたみたいだ。
千聖の顔をちらっと見てみると、少しほっぺたを赤くしていた。
こういう時、千聖は嘘をつけないタイプだ。
本当になんかあるんだ。きっとやらしいことだな。栞菜の勘はすごい。
でも私はそれ以上この話を広げるのは怖かった。

「舞の知らないところに行かないでよ・・・」
胸に顔を埋めて甘えていたら、ちょっとしんみりしてしまった。

「嫌だわ、ここにいるじゃない。ずっと一緒にいてくれるんでしょう?」
「千聖ぉ」

何となくその場の雰囲気で、微笑んでる千聖の唇にキスをしてみた。
勢いあまって歯がぶつかる。
「ま、舞ひゃん?」
前歯がめちゃくちゃ痛い。でも千聖の唇はぷにぷにで気持ちが良かった。

「ま、舞だってキスぐらいならしてあげられるから。他のことは無理だけど!」
「もう、舞さんたら。」
私達は微笑みあって、その後また何回か唇をくっつけた。
日が落ちて完全に暗闇に包まれても、千聖のぬくもりを感じていれば安心できた。



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