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こんばんは作者です
本日は短編で
こちらの裏ということで




一体、この人は何を言っているんだろう。

「ちさとおねーさまのこと、いらないならサキにちょうだいよ」

蔑むような表情で私を見下ろす彼女は、冷たい目をしていた。
おそらく、今朝の私とお姉様とのケンカの話をしているのだろう。

“もっと大人なお姉様がほしかったわ!”

それは、たしかに私がお姉様にぶつけた言葉・・・。だけど、なぜ、名前も知らないこの人に、そんなことを言われなくてはいけないのか。


「あ・・・あなたに、私とお姉様の何がわかるっていうの」

声が震える。
ふわふわしていて、綿菓子みたいに頼りないお姉様と違って、私はかなり気が強い方だと両親に言われる。
だけど、実のところ、学校のお友達とだって、ひどい言い争いなんてしたことがない。私は、ケンカの仕方なんて、お姉様や弟以外には知らなかった。

そんな私の動揺に勘付いたのか、目のまえの彼女は小ばかにするようにふふんと笑った。

「だって、いらないんでしょう?」
「私のお姉さまを、物みたいに言わないで頂戴」
「何言ってんの?物扱いしてるのは、そっちでしょ?」

・・・どうしよう、どうしよう。
背中を嫌な汗が流れ落ちる。
お姉様をいらないなんて、本気で思っているわけじゃない。それは姉妹ならではの、他愛もないやり取りで・・・。
だけど、そんなことを、見ず知らずの彼女に一から説明するのは嫌だったし、そこをうまくぼかして説明するような技術を私は会得していなかった。

「明日菜。」

すると、彼女の後ろからお姉様が現れ、そっと肩を抱いた。
2人は優しい顔で見つめ合っている。

「ごめんなさいね、明日菜」
「え・・・」

いつもどおりの、ちょっと困ったような笑顔でお姉様が口を開いた。

「私、明日菜の望むような“大人のお姉様”には、なれそうにないわ。今まで、苦労をかけたわね」
「サキは今のままのちさとおねーさまがいいから。これからは、サキが妹になるよ。お疲れ様」
「さあ、私たちの家に帰りましょう、サキ」


体が、金縛りにあったように動かない。
口が虚しくパクパクと開閉を繰り返して、私はただ、黙って遠ざかっていく二つのシルエットを眺める事しかできなかった。

どうして?どうしてこんなことになったんだろう。
千聖お姉様は、私のお姉様なのに。お姉様のことなんて、何にも知らない彼女に、どうして取られなければいけないのだろう。

どこからともなく漂ってきた黒い霧が、2人の姿を隠していく。
取り残された私を押しつぶすかのように、ゆっくりと周りを侵食していって・・・


「お姉様!!!」


ビクッと体が反応し、私は勢いよく体を起こした。


「・・・いやだわ、私ったら」

ヒンヤリした空気が肌を刺して、軽く身震いをする。
独り言も“この場所”ではやけに大きく響いて、なんだか気恥ずかしい。
寝ぼけ眼の私の目の前には、聳え立つパイプオルガン。・・・中庭の礼拝堂のテーブルに伏せたまま、どうやら私はうたた寝をして、夢を見ていたみたいだった。

1時間ぐらい前、この礼拝堂には、千聖お姉様がいた。
姉妹喧嘩をしてしまった日は、お姉様は大抵ここにきて、神様とお話をしている。
私はそれを知っていたから、今朝の喧嘩のことを謝るタイミングをみつけようと、物陰からお姉様の様子を伺っていた。
すると、突然姉妹校の制服を着た、知らない生徒さん――さっきの夢の中の彼女、がここに入ってきたのだった。

話しかけるタイミングもわからない私の目の前で、2人はどんどん仲良くなっていく。
“千聖さん”って呼んでたのが、“千聖お姉様”になって、お姉様もとてもうれしそうにそれを受け入れていた。

「いらないなら、サキにちょうだいよ、ですって」

生徒会室へ向かう途中に、ポツリと彼女がつぶやいた言葉。
あの時、お姉様には聞こえてなかったみたいだけれど、私の心には深く突き刺さっていた。
それで、あんな夢を見たのだろう。

まだお姉様のコロンの香りが、かすかに残る隣の席。私はそっと指で触れて、ため息をついた。

「なにも、いらないなんて言ってないじゃない。ただ、千聖お姉様は子供っぽいから」

そう言い訳してみても、一向に心は晴れてくれない。
きっとお姉様を傷つけた。それは自分でもよくわかっているから。

お姉様の腕に手を絡めて、はしゃいでいる彼女・・・とても無邪気で明るそうな人だった。
どうしよう。お姉様が、私よりも素直なあの方を、妹にしたいと本気で望んでしまったら、私は・・・。

今からでも間に合うだろうか。
生徒会室へ行けば、お姉さまに会えるはず。だけど、仕事中だって拒まれてしまったら?
今夜、お姉様のお部屋に添い寝をしてもらいに行くのは?でも、栞菜さんと過ごしたいと言われてしまったら?

「どうしたらいいの、私・・・」

“ちさとおねーさま”と呼ぶ、彼女のはしゃいだ声と、はにかんだお姉様の横顔と、さっきの悪夢の余韻で、私は立ち上がることができなくなってしまった。


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