※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

前へ



「千聖さぁ、もうやめようと思うんだよね」

地方でのコンサートの合間の時間。
ポッキーゲームに興じるなっきぃと私を見ながら、千聖がつぶやいた。

「へ?ひゃにが?てかストップ!」

おかまいなしに顔を近づけてくるギョカイさんを片手で制してると、オホンと咳払いをして千聖は姿勢を正した。

「うーん、まあ、何ていうんだろ。ちょっと言いづらいんだけどさぁ」
「えっ!ま、まさか℃-uteを辞めちゃうとか!ちっさー!」

その煮え切らない雰囲気に、メイクを直していた舞美ちゃんがいきなりガタッと席を立ってやってきた。

「千聖・・・?」

偶然耳に入ったのか、愛理までメイクさんとの談笑をやめて、真顔をこちらに向けてくる。

「嘘っやめてよ!千聖、どこにも行かないで!ほら、これあげるから!!」

気が動転してるんだろう。なっきぃは半泣きで、私から分捕ったポッキーを千聖の口にねじ込もうとした。

「やめろギョカイ!お前!喉に刺さる!」
「岡井?何で?」

状況を察したスタッフさんたちも顔色を変えて、みんな私たちのところへやってくる。

「何か悩んでるなら、ちゃんと話して?力になるし」
「落ち着こう、千聖。結論を急いだって、いい事はないよ」
「うっうっ・・・ど、どーじでなっぎぃに何にも話じでぐんながっだのぉ・・・ちさどぉ・・・」

奇妙に優しい面々、そして顔を真っ赤にして泣きじゃくる約1名を、千聖はアホの子みたいにぽかーんと口を開けて見渡している。

「ほら、ル○ンドあげるから。コーラもあるよ」
「は?え?何で?いらないし!・・・いや嘘、いるけど。いただきますけど。あざまーす」

大袋入りのお気に入りのお菓子を抱え込んで、尚も千聖は不可解そうな表情を深めていく。
もう、仕方ないなあ。

「だからね、みんな、千聖が℃-ute辞めるって言い出したと思ってるんだよ」
「は・・・」

それでやっと状況を把握したのか、千聖も今頃になってフガフガと騒ぎ出した。

「え?嘘、私仕事辞めるの?じゃなくて、別に辞めないよ!何言ってんの!?」
「だ、だっでさっぎ、やめるっでいっでだじゃん」
「誰も仕事のことだなんて言ってないじゃん!」

その一言を聞いて、あー、はいはい、撤収。みたいな感じに、スタッフさんたちは千聖の手からお菓子をもぎとって仕事に戻ってしまった。・・・大人って、ゲンキン。

「あーっ!ちょっとぉ!・・・もー、なっきぃのせいでもらいそこねたじゃん」
「あだじのせいかよっ」
「千聖ぉ・・・でもさ、うちら、ちょっと辞めるっていう言葉にはナーバスなんだよぅ。もうちょっとね、そういうのは」

わかるでしょ?とばかりに首を捻る愛理に、神妙な顔でゴメンって謝る千聖。
ま、確かにそれはそうだ。
いいことか悪いことかは別として、ここ数年、私たちは仲間とのお別れに何度か接してきたわけで。

「ごめんね、なっきぃ。みんな。千聖が悪かった」
「・・・いいよ、もう。℃-ute辞めないなら、それで」

舞美ちゃんに背中をさすってもらったなっきぃは、真っ赤な目をにっこり眇めて、やっと笑ってくれた。

「あー、まあそれはそうと、何かトイレ行きたくなっちゃったなあ。舞、付き合って」

そんな様子を見て安心したのか、千聖は軽く伸びをすると、私の手をひっぱった。

「え、舞?いいけどぉ。いきなりじゃない?」

千聖からの連れション要請なんて珍しい。
大体いつも、私からさそってついて来てもらうパターンなのに。


「・・・ねえ、でもさ、何を辞めるっていう話だったの?」


洗面所の鏡でメイクを直しつつ、私は個室の中の千聖に聞いてみた。

「てかさ、さっき一人だけあせってなかった、舞」
「ん?」

私の声を遮る千聖。
先を促すつもりで数秒黙っていると、またモゴモゴと喋りだした。


「なっきぃはあんな泣いちゃうし、みんなして千聖のこと辞めないでー、って騒いでくれたのに、舞だけ超醒めた顔してんだもん、千聖笑いそうになっちゃった」
「当たり前じゃん、そんなの」

何を今更。私はグロスを唇に重ねながら、鏡越しにドアを見つめた。


「当たり前なんだ」
「うん。千聖が私に何の断りもなく、℃-ute辞めるわけないじゃん。そんなの許さないし」

おお、我ながらなかなかの舞様発言だ。

だけど私は、さっき本当にはっきり確信していたのだ。千聖が、いきなりいなくなるはずがないって。
千聖は自由じゃなきゃ生きられない人だと思うけれど、今はちゃんと“この場所”を愛してくれている。
万が一離れたいと願うことがあったとしても、あんな風に唐突に、無神経に決断を突きつけたりしない。

だから、冷静でいられた。それどころか、自分がみんなと違って慌ててないことに、優越感すら感じた。

「何年、ちさまいやってると思ってンの」

私は千聖が考えてるよりずっと千聖のことをわかってるし、信じてもいるのだ。千聖がどうだかは知らないけど。

「舞、すごいね」
「まあね」

水が流れる音とともに、千聖が個室からのっしのっしと歩いてきた。
そのまま、ガバッと後ろから抱き付いてくる。

「まーいー」
「ちょっと、千聖!手ぐらい洗ってよ!」

嬉しいんだけど、嬉しがってるって悟られるのは癪だから、体を捩って抵抗してみる。
でも、明らかに自分の声は喜んでいて、鼻をくすぐるシャンプーの匂いに、心臓はドキドキと高鳴っていた。


「あのね、千聖は千聖なりに、最近いろいろ反省してたわけよ」
「うん」
「だから、辞めようと思ってさあ。んで、今、やっぱり千聖の決断は正しかったと思しいししいらされたわけよ」
「言えてないし。てか、だから、結局何を辞めるの?」

グフフと笑う声とともに、千聖のぷにっとした腕が、さらに強く巻きついてくる。
耳をくすぐる熱い吐息。何度こういう色仕掛け(?)でだまされても、ちっとも免疫がつかない。

「決めたから!千聖、もう浮気しまくるのやめるねっ」



TOP