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小鼻を膨らませて、どうだまいったか!とばかりの得意げな顔を見せつけてくる千聖。・・・だから、何年ちさまいやってると思ってんだ、この単細胞め。

「・・・・・ふーん」
「えっ!なにそのリアクション!もっとよろこぶべきじゃない?」
「はあ?今までの行い振り返ってみなよ。舞がそう簡単にだまされるとでも思うの?はぎさんは何度ちしゃとの悪行に泣かされてきたのかな?ん?
今回のだってどうせ思いつきで言ってるんでしょ?」

私が詰問口調でそういうと、千聖はだって、とかでも、とかフガフガいいながら、上目づかいでこっちをうかがってきた。
やばい、楽しくなってきた。好きな子いじめて興奮するとか、私って本当に舞様だ。何だそれは。

「すべては、えりかから始まった。君たちは未成年の癖に、あっちこっちでいやんばかんズッコンバッコン」
「だからそれはぁ」
「そして愛理とも何かやらかしたでしょ。知ってるんだから。栞菜はどうだったかな?」
「違うって全部お嬢様のちさとが」
「はーい言い訳禁止。ギョカイはまあ、あれは未遂だから許すかな。
あとは、今現在は舞美ちゃんか。どこまでなさっているのか舞は知りませんけども。それに今、みやびちゃんのことだって狙ってるんでしょ」

みやびちゃん。
その名前を聞いた瞬間、千聖の目がパァッと輝きを増した。うわ・・・これだからキモヲタは。

「いいえみやびちゃんは神なので性欲の対象にはなりません(キリッ)」
「うわ、キメぇ・・・。」
「つか、舞だって、そんなに千聖のこと調べ上げてキモいじゃんか!ストーカーじゃん!」

な、なんだと!
自分の浮気癖、そしてキモさを棚に上げて私を攻撃しようとするそのふてぶてしい態度。
いくら最愛の嫁だからといって、私のS心がそれを許すはずもなく、徐々に自分がヒートアップしていくのがわかった。

「うるさいな。そんなこと言ったって、どーせみやびちゃんに誘われたらついてっちゃうんでしょ!千聖、ヤろうよとかいって」

「は、みやびちゃんはそんなこと言わないし!」
「でも言われたらするんでしょ!するかしないかで言ったらするんでしょ!」
「ああ、するさするさ!わかったよ、みやびちゃんとバコーンだよ千聖は!毎日が勝負パンツだからな!」


――ガチャッ。


その時、ちょうどタイミングよく、奥の個室のドアが遠慮がちに鳴った。


「・・・ケッケッケ」

細く開けた扉を閉じたり開いたりしながら、細身の体がじょじょに外へと押し出されてくる。


「あ・・・あいりちゃーん・・・」
「え、いたの!?あいりん!」

お得意のカニ歩きだかカッパ歩きだかよくわからない動きで、私たちの後ろを素通りしていく愛理。
い、いつからいたんだ。最初からか。あんな大声で揉めてたんだから、全部会話は聞こえてたことだろう。今更冷や汗が首筋を伝った。

「あのさ、愛理」
「あ、大丈夫大丈夫。私は何も聞いてないよ。歌の練習してたからね。」
「全然歌ってなかったじゃん・・・」

まあまあ、いいじゃないか。とか言いながら、愛理はマイペースに手を洗ってメイクの確認。
でも大丈夫だろう。愛理は基本的に揉め事を嫌うし、なっちゃんみたいに、大問題だケロ!とかほざいてスタッフさんとかにチクッたりはしないはず。

「グフフフ。あいりんったら、今日も可愛いねぇ~」
「あらあら、岡さんこそ~」

うまくウヤムヤにできそうと踏んだんだろう、お調子者の俺の嫁も、さっそくにやにやしながら愛理とほっぺをつつきあってはしゃいでいる。

ま、いいか。
一部愛理の話が出たとはいえ、我らがエースはそんなに狭量じゃない。
ちしゃとの子供じみた主張なんて、鼻で笑ってくれることだろう。

「あ。でもねちさとさん」

・・・と、思っていたのだけれど、愛理はいきなり、千聖の手首をガシッと掴んだ。そのまま、顔をずいっと近づけて、千聖のおでこに軽く頭突きコンボをくらわす。


「痛い痛い!あいりん!」
「・・・・・みやは許さぬ!!」

なんとも形容しがたい、ドスの効いた声で一言そう吐き捨てると、またいつものふにゃーっとした笑顔に戻った。

「ケッケッケ」
「え・・・へへ?」

頭をなでなでされた千聖が、目を白黒させながらも若干ちょっと嬉しそうなのは気のせいだろうか。・・・何て恐ろしい子、愛理!
“こっち側”の人間であることは前から理解していたものの、私みたいな単調なプレイではなくて、いろいろ趣向を凝らすんですね、参考になります。

「あー・・・そうだった、あいりんもみやびちゃんヲタだった。うかつだった」

なぜか楽しげに、リズムを取りながら去っていく愛理を見ながら、千聖がつぶやく。

「てかそれ以前に、ウチらJKとしていろいろ終わってたよね。さっきの会話」
「ですよねー」

もっとこう、スイーツの話とか、お洋服の話とか、恋愛の話にしたって目が合っただの会話しただのと初々しい話をするべきじゃないか、アイドルとして。
それが、浮気でバコーンとか、どうかしてるぜ、ちさまい。

「・・・で?どうなの」
「何が」

愛理様の介入により、テンションが下がった(というか正気に戻った)千聖は、めんどくさそうに頭をかいた。


「浮気しないっていうの、信じていいの?」
「あー、うん。うん。大丈夫っすよ」
「ねえ、もっとちゃんと答えてよ!大事な事なんだからねっ」

わかってはいるんだけど。
最初に千聖が“もう浮気しない!”って宣言したとき、もっと喜んであげてれば、こうもめんどくさい事にはならなかっただろうって。
でも私にだってプライドはあるし、今までのことをまるっきり許せるほど大人じゃない。
まあ、私も過去に千聖には、手錠掛けてムニャムニャとかそこそこひどいことはしちゃったけどさ・・・


「もー、やめようぜ、不当な争いは!」
「不毛でしょ」
「とにかく、舞は千聖を信じてついてくればいいんだよ。黙って俺について来い!みたいな」
「なにそれ・・・」

ま、甘いなあとは思うんだけど。
そうやってニヒヒヒって笑う顔をみてると、結局許せちゃうのは私の悪いとこ。

「そろそろ戻ろう、打ち合わせ始まっちゃうし」
「えー、ちさ・・・」

渋る私の頭を、千聖がグッと引き寄せる。
何事かと思っているうちに、唇に少し湿ったような感触が押し付けられた。

・・・やりやがったな、千聖。

「うへへ」
「舞、メイク直したばっかりなんだけど」

私の赤いグロスの色が移った唇が、満足げに吊り上げられた。

「これでもまだ、千聖のこと信じられない?」

低音ボイスも、目力こめた表情も、いっそすがすがしいほどにうさんくさい。なのに、なのに、ああ、なんと私の心根の弱いこと!
“舞様”な自分なんてどっかに吹き飛んで、私は無意識に大きくうなずいていたのだった。




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