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舞ちゃんの夢を見ていた。

夢の中の舞ちゃんは、いつもにっこりとした微笑みを僕に見せてくれる。
見ているだけで癒されるその柔らかい笑顔。まさに天使。
そんな笑顔を僕に向けてくれるなんて、舞ちゃんもやっぱり僕のことを・・・

その笑顔を見ているだけでもう僕は無条件で世界一幸せな気分になれる。

「舞ちゃん・・・ムフフ」

目の前に舞ちゃんの顔があった。
あどけない顔の、その大きな目には好奇心が満ちているようなその表情。こうやって見るとやっぱりまだ幼い顔立ちだなあ。
でもなんか、夢にしては妙に現実感がある。


・・・!? え??
はっと目が覚めた。

「ま、舞ちゃん!?」

それは夢の中の出来事では無かったのだ。
視界の端に舞ちゃんがいる。本当に!?そんな幸せなことが!?
早く現状を認識したいのに、ゆっくりとしか覚醒しない脳味噌がもどかしい。
ピントが合ってきた僕の視界の中、彼女は確かにそこにいたのだ。

「ま、舞ちゃ、舞ちゃん!!マイマイ??舞様!!!あばばばば!!」

信じられない光景を前にして、僕は混乱のあまり盛大にあばってしまった。
これは本当に夢の中の出来事ではないのだろうか。
夢の中ならそれでもいい。もう少し覚めないでいてくれれば。
でも、タイガーショットを食らった腹筋の強烈な痛みがしっかり残ってる。ということは、やっぱり。
どうやら、これは本当に現実の出来事のようだ。まだ信じられない。


「あ、起きた」

座っていた舞ちゃんが読んでいた本を閉じて、その可愛らしいお顔を僕に向けてくれている。

舞ちゃんから初めて(恫喝でない)言葉をかけてもらえた。

だが、そのとき僕の背中には冷たい汗が流れていたのだ。
昨日の熊井ちゃんとの教室での騒動がまっさきに頭に思い浮かんでいたのだから。
さらに、栞菜ちゃんにその場を取り繕うためにお嬢様にとっての一番が栞菜ちゃんだということに同意してしまったこと、あれも非常にマズいと思います。

が、それらのことで冷たい視線とともに罵詈雑言を浴びせられたり、もっといえば暴力的に例えば足蹴にしてもらえたりしたら、それはそれでかなり嬉しいな・・・なんて変な期待感を持ってしまったりもして。
そんなことをされたら嬉しいかもなどと思ってしまうなんて、僕はちょっと感覚が異常なんだろうか。

でも、昨日の教室での出来事などはまだ舞ちゃんの耳には入っていないのか、見たところ怒っているとかそんな感じには見えない。
それどころか、とても穏やかな優しい顔だ。
彼女がこんな優しい顔を僕に向けてくれるのは、もちろんこれが初めてだ。

嬉しい。
けど、どうしてこんなに優しい顔をしているんだろう。

どうして、だって? 

・・・違う。

今わかった。
この顔が舞ちゃんの本当の素顔なんだ。無邪気な笑顔の等身大中学生の、この舞ちゃんが。

じゃあ何か? 普段の舞ちゃんが本当の素顔じゃないとでも?
そういうわけではないけれど、いつも舞ちゃんは何か自分を演じているような気がして。そう簡単には本当の自分を見せないでしゅよ、って。
そのために、その場に合った自分の演じるべきキャラを瞬間的に作っちゃってるんじゃないだろうか。
周りが舞ちゃんのキャラを勝手に決め付けてるのに合わせている、というのもあるのかもしれない。
思うに、彼女は相当に頭の回転の速い子なんだろうな。それも常人レベルではなく、それこそほとんど天才的なほどに。

そもそも“本当の素顔”ってどういうことをいうんだろ。人間は誰だって“自分”というキャラを演じているようなものだ。本当の素顔なんて、そんなの何を持って“本当”ってことになるんだろう。

でも僕にはわかった。本来の舞ちゃんの素顔はこのかわいらしい顔だ。絶対、間違いない。
舞様の顔をすぐに思い浮かべる人は本当の舞ちゃんを知らないんだよ、それは!

・・・って、誰と闘ってるんだろう。

なんか、ついムキになってしまった。
だって、いま目の前にいる舞ちゃんは、ムキになってそれを全肯定したくなるほど、それほどかわいらしい顔をしているんだもの。

ついに舞ちゃんに会えた!
舞ちゃんに話しかけたい。でも、話しかけられない。やっと会えたのに。
いきなりやってきた幸運に頭が混乱してて気持ちの整理が追いつかないのだ。

いったい、何を話せばいいんだ?

(今日は天気も良くて最高のお日柄ですね!)
まずは天気ネタって、お見合いじゃないんだから。
(あの、決して怪しい者じゃないんですけど、僕と握手してもらえますか)
思いっきり怪しいだろ。それは。
(ところで、お嬢様は今どちらにいらっしゃるんでしょう?)
バカか、おれは。お嬢様のこと聞いてどうするんだ。
心の準備なしにいきなり舞ちゃんを前にして、頭の中はパニックになってしまった。

「あ、あの、舞ちゃ・・・」

もう頭の中は真っ白だ。
そんな固まってしまった僕に対して、舞ちゃんは、

「寝返り打ったとき落っこちそうになってたでしゅよ」

無邪気な顔で楽しそうに一言そう言った。か、かわいい・・・
そして、手にしていた本を再び開いて読み始めた。
ドラッカー「マネジメント」? 分厚い本だ。またずいぶん難しそうな本を読んでるんだなあ。

舞ちゃんは、本に目を落としたまま、僕にこう言った。

「ここは舞専用の場所だから。昼寝が済んだんなら、さっさと出て行って」

昼寝が終わって起きるのを待っていてくれたのかな。舞ちゃんの縄張りに入り込んでしまった僕をすぐには追い出さずに?
ということは、これは非常に好意的な方向に解釈できるんではないでしょうか!

嬉しくなって僕は舞ちゃんを見つめるが、彼女はもう読んでいる本から視線を僕に移してくれることは無かった。

「ありがとう、舞ちゃん」

何がありがとうなのか、彼女には意味不明としか受け取れない発言かもしれない。でも、それが今思った僕の偽らざる気持ちです。だって、初めて舞ちゃんが僕に(恫喝でない)優しい言葉をかけてくれたのだから。
舞ちゃんはそれに対して返事をくれることもなく特に反応もなかった。
それでも僕は幸せな気分でいっぱいだ。
もっと話しかけたりもしたかったけれど、今はこれでもう十分お腹一杯です。そんな最高の気持ちで給水塔から下りることにした。
やっぱり僕たちは出会える運命だったのだ!! だから、またすぐに会えるさ(キリキリッ)

この場所、舞ちゃんがホントの自分を出せるほどリラックスできる所なのか。
これはいい場所を知る事ができた。
僕がそうそう来る事が出来ないところなのは残念だけれど・・・
それでも舞ちゃんの特別の場所を知っているというだけで、秘密を共有したようなそんな高揚感が!

舞ちゃんを後にして給水塔から屋上に降りる。浮き立つような気分に思わず天を見上げ鼻歌を歌ってしまう。

♪大きな空に自慢したい(マイマイ!) あの(マイマイ!) 夢が(マイマイ!) 輝いたと(マイマ-イ!!)

やっと舞ちゃんに会えた!
学園祭、いま最高の思い出ができました。


  * * *

校舎の中に入って階段を下りかけたとき、背後から声が聞こえた気がした。

「オメー、そこは本来かんな4連コールだかんな」

振り返ってみても、そこには、誰もいなかった。





その時お嬢様の夢を見ていなくて本当に良かった・・・と、思い返すたびに冷や汗が出るのれす





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