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「でね、めぐ。聞いて!」

夏焼先輩の声はまだまだ弾んでいる。

「この、梨沙子ちゃんが、みやの一番のファンなんだー。特別なんだよ」
「ぎえええ」

おおよそ女の子らしさとは外れた、不気味な奇声が飛び出た。
さっきからトクベツ、トクベツと何度も言ってもらってるけれど、こればっかりは一向に慣れない。

「ふーん」

浮き足立ってる私とは正反対に、メイドさんは特に表情を変えることもなく、私のつま先から頭のてっぺんまでを観察するようにじっと見る。
・・・うう、なんか服装検査みたい。てきぱきした喋り方は先生っぽいし、こんな怖そうな人が、夏焼先輩のスペシャルな人だなんて、不思議な話だ。

「えーと、みやび。それで、私たちは一体どうしたら。・・・ちょっと、勝手に写真撮らないでください!」

ピリッとした声で、周りの不届き者たちを一括するメイドさん。
別に悪いことしてないのに、私まで縮み上がってしまう。

「怖い声ださないでよー。あのね、めぐ。今からのアンコールをね、2人一緒に見てほしいなって思って」
「なんで?」
「梨沙子ちゃんには、今日は悲しい思いをさせちゃった。だから、どうして今日の私があんな状態だったのか、ちゃんとわかってほしいの。めぐの隣にいれば、きっと何か感じてもらえると思うし」
「・・・・・・あのさ、みやび。昔から言ってることだけどさ、人に何か説明するときは、自己完結しないで、誰にでもわかるような言葉で丁寧に」
「あー、もう時間ないし!というわけで、よろしくね!」

メイドさんのお説教もなんのその、夏焼先輩は私の背中をポンと押して、今来た通路へと引き返していってしまった。

「・・・」
「・・・とりあえず、隣、空いてるんで」
「あ、はい!ごめんなさいっ」

促されるままに隣に座って、手持ち無沙汰に夏焼先輩のうちわをそっと指で撫でた。
こんな大騒ぎの後で、周囲の人の注目は私たちに集まってるっていうのに、メイドさんはあいかわらず、涼しい顔して、ほんのり茶色く染めた髪の毛の先っぽをいじくっていた。

ほんと、綺麗な人だなあ。凛々しいって表現がよく似合う感じ。
熊井ちゃんとか岡井さんも、黙ってればかっこいい顔なんだけど、あれは見かけ倒しだからね。中身はとんでもなくぽえーっとしてるし。


「・・・スギャさん、でいいんでしたっけ」
「はいっ」
「あ、ごめんなさい。私、梨沙子さんの名字を伺ってないなと思って。・・・もう、そんなびびらないでくださって。あはは」

びくびくしまくってる私がおかしかったのか、メイドさんは意外なほど明るい声を出した。さっきまでの超怖いイメージとのギャップがすごい。
一緒に笑っていいのかよくわからなくて、下を向いて「・・・スギャじゃなくて、すがやといいます」と小さな声で答えてみる。


「あ、そうなんですか。お嬢様がスギャさんとおっしゃるし、愛理・・・さんに聞いたときも、スギャシャコちゃんですよーなんて言ってたんですけど」
「それは・・・2人とも、かつぜつがヤバいから」
「あー、たしかに」

メイドさんはまた楽しそうにプッと吹き出したから、今度はいいかな、と思って、「イヒヒヒ」と調子を合わせてみた。
少しずつ、空気が柔らかくなっていくのがわかる。

「北欧系のハーフかクオーターで、スギャさんって言う名字なのかと思った。すごく色白で、綺麗な顔だから」
「あばばばあありえないれす!まさか!」

自分の顔が、耳まで真っ赤になっているのを感じて、私は夏焼先輩のうちわで顔を隠した。

「みやびが梨沙子さんのこと、トクベツだっていうの、なんかわかるなぁ」
「え・・・」
「あの子、メンクイだからね。むふふ。美人とか可愛い人を、すーぐえこひいきして特別扱いしたがるの」

・・・えーと、ということは、同じく「特別」と言われている御自分のことも、美人だってしっかり認識してるってことか。普通言わないぞ、そんなこと。すごい人だ。自分に自信があるんだろうな。
そういう態度って結構、引いちゃうものだと思うんだけど、メイドさんに関しては、ちっとも嫌な感じはしなかった。
この人は自分というものをしっかり持っていて、いいものはいい、悪いものは悪いと言える人なのだと思う。
私のことだって、可愛いと思ったから可愛いって言ってくれたんだろう(多分・・・)。

なんとなくだけど、私は夏焼先輩が、メイドさんを特別だと言う理由がわかったような気がした。


「みやびのこと、好き?」
「もちろんです!」
「あは。だよねー、そのハッピ」

私の着ている、夏焼先輩のお顔がプリントされたハッピを楽しそうに眺めて、メイドさんはふと表情を変えた。


「・・・私とみやびは、中学の同級生だったんだけど」
「は、はい」

そのまま、唐突に語りだすメイドさん。視線は誰もいないステージにぼんやりと向けられている。


「本当に大切な友達だった。毎日一緒にお弁当食べて、一緒に帰って、門限ぎりぎりまでずーっとお喋りして。
もうね、・・・月並みだけど、大好きだったの。この私が、自分を見失うぐらい夢中になってた。
友情とか、恋愛感情とか、そういうカテゴリーを越えて、いつでもみやびが心の中にいた。
もしかしたら、みやびもそう思ってくれてたかもしれない。私たちは、ずっとずっとこのまま、大人になっても一緒だって信じていた。でも、それを私が壊した」
「待ってください、あの」


私はメイドさんの腕を握った。
視線が、私の方に移ったのがわかる。

「あの、」

心臓がズキズキと痛くて、泣きそうになっていた。
どうしよう。続きを聞くのが怖い。

この人は今、とてつもなく大切な事を、私に話そうとしている。


「あ・・・そか、みやびのファンなのに、あんまそういう話聞きたくないですよね」
「違います。そうじゃなくて・・・、それって、わ、わたしなんかに話していいようなことなんですか?」

そう聞くと、メイドさんは小さく首をかしげた。

「なんで?だって、梨沙子さんはみやびの特別なファンなんでしょ?」
「い、いちおう」
「だったら、私にとっても特別な人ってことになるし。ここに梨沙子さんを招いたってことは、ちゃんといろいろ話しといてねって意味だと思うし」


・・・
・・・・・
――ああ、何か。

全然敵わないな、この人には。

夏焼先輩の価値観を無条件に肯定して、夏焼先輩の認めたものなら自分も認める。
それが当たり前なんだろう、メイドさん・・・いや、2人にとっては。

「・・・わかりました、じゃあ、続きを聞かせてください」

私はイヒヒと笑って、メイドさんの手を取った。

不思議と、悔しいとかっていう気持ちはわきあがってこなかった。
だって私はファンだもん。
一番の願いは、夏焼先輩が笑顔でいてくれること。
こんなにも夏焼先輩を理解して、支えになっているメイドさんなら、認めてあげてもいいもん。


「・・・やっぱ、梨沙子ちゃんは間違いなく、みやびの一番のファンだねっ」
「えへへへ」
「それじゃ、さっきの話の続きだけれど・・・」

そう、これでいいんだ。
再び唇を開いたメイドさんをまっすぐ見返しながら、私の心は晴々としていた。



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