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「あれ、紗季、それどうしたの?」

放課後、生徒会室で書類を整理している最中。
花音の声に顔を上げると、「ふふん」とか言いながら、耳をこちらに突き出している紗季の姿が目に入った。

ピンクゴールドのチェーンの先で、黄緑色の小さな星がキラキラ揺れるデザインのイヤリング。

「可愛いね、それ!彩も今イヤリング探しててー」
「・・・てか、そーゆーの、つけてきちゃいけないんだよー」
「いいじゃーん。先生の前では耳出さないようにしてるし!」

ずるい!私のは没収されたのに!とか叫ぶ花音のリアクションが面白くて、みんなの笑い声が生徒会室に響く。

「大体、紗季はさぁ!生徒会最年少だからって、甘やかされすぎだよっ!怒られるのだって、いつも私ばっか!」
「あは、ほんと何かタイミング悪いよね、花音ちゃんって。このまえもさぁ・・・」
「あ・・・でもそのイヤリング、どうしたの?自分で買ったの?」
「これはねえ」


花音の顔が目に見えて不貞腐れてきたから、私はあわてて話題を変えてみた。
幸い、イヤリングのことは紗季の大きな関心事だったみたいで、嬉しそうな顔でのってきてくれた。


「可愛いけど、紗季の趣味とは少し違うかなって。なんか大人っぽい」
「ふふ。これね、おねーちゃんにもらったんだぁ。先に私がネックレスを贈ったから、お返しプレゼントだけどね」

テンションが上がってる時限定の、目がなくなっちゃうぐらいのニコニコ笑顔の紗季。


「・・・えー?お姉ちゃんできたの?おめでとー?」
「てか後からおねーちゃんできるわけないじゃん!どういうこと?・・・あーわかった!!姉妹校の!いたーい!」

興奮して大げさにのけぞった花音が、後ろのコルクボードに頭をぶつける。

「なにやってんのー!?」
「ウケるー!」

――ムフフ。
テンパッてる花音って、実はすっごく面白いと思うんだけど、紗季と彩花ちゃんが爆笑しているから、ここは私は我慢する事にした。

「大丈夫?」
「もー・・・優しいの憂佳だけだよー」

・・・いえ、めっそうもございません。たくさんちょこっと面白がってました。

「でね、花音の言うとおり!姉妹校の人だよ。お姉ちゃんって思っていいって許可もらってるし」
「えー!いいなぁ~」

思わず声を上げると、みんながいっせいに私を見た。

「えー、何か、憂佳ちゃんがそーゆーこと言うのって珍しいね」
「そ、そうかな。だって・・・」

みんなが話題に出している、姉妹校。
私は心の中で、“アイドル学校”なんて呼んで憧れている。
まだ、直接赴いたことはないのだけれど、まず、校舎が綺麗。偏差値が高い。制服が可愛い。そして、生徒さんも綺麗な人ばっかり。
その頂点と言ってもいい生徒会の方々なんて、こっそりうちの学校の新聞部が記事にしちゃうぐらい、ハイクラスな人たちがそろっている。

私なんか、日頃の生徒会としてのFAXやメールでのやりとりでさえ緊張するというのに、紗季ったらあいかわらず怖いもの知らずだ。ちょっとうらやましかったり。

「で?誰といつのまにそんなに親密になったのよ?紗季、うちらがあっちの生徒会の話で盛り上がってても、全然乗ってこなかったじゃん」

あちらに“推しメン”さんが2人もいる花音としては、少々不服だったらしい。
いじけた感じで紗季に詰め寄るも、「待って、彩が当てる!」なんて張り切る彩花ちゃんに遮られてしまう。

「えーとぉ、あのめっちゃ身長の高い?熊・・・犬?なんだっけ」
「んーん、どっちかっていうと、ちっさいよ?」
「じゃあ、めっちゃ℃Sの萩島さん?」
「ちょっと!私の人間としての推しメンの名前間違えないでよ!」
「んーん、全然℃Sとかじゃないよ。すっごく優しいもん」

「・・・もしかして、岡井千聖、さん?」

みんなの推理に間が空いたところで、私はふとそう切り出してみた。
別に何か根拠があるわけじゃないけど、とりあえず、話題に混ざっておこうと思って。

「えー、まさかぁ」
「それはいくら紗季ちゃんだってねえ」

案の定、“彼女”の人となりを知っている2人からは、またまた御冗談を、的なリアクション。
ツッコミ入れてもらうの前提で、あえて一番紗季から遠そうな人の名前を出したから、その予想通りの反応はちょっと嬉しい。

「だって、岡井さんと言ったら・・・」
「あ、うん。紗季のおねーちゃん、千聖さん。岡井千聖さんだよ。やっぱ有名人なんだぁ」
「でしょー?・・・って、ええええええええ!?」

顧問の先生が怒鳴り込んでくる前に、慌てて花音の口を手で塞ぐ(彩花ちゃんはなぜか足を押さえ込んでいた)。
可愛らしい目をカッと開いた、驚愕の表情と至近距離で目が合って、私は思わず苦笑してしまった。

「なんで、いつのまに。ありえないありえないありえないありえない」


押さえた口の端から、もごもごと言葉が漏れる。まるでホラーマンガみたいだ。


「こないだ、交流会であっちの学校行った時、礼拝堂で知り合ったんだよ。迷子になってたら、親切にしてもらえた」
「なにそれ、聞いてないんだけど!私あの時、紗季がいなくなっちゃったから一人でガチガチになってたんだからね!」
「だって花音、機嫌悪そうだったし。余計な事言わない方がいいのかと思ったんだもん」

ちょっと空気が悪くなってきた2人の間に、彩花ちゃんがニコニコしながら割って入る。

「あ、でも花音ちゃんもあっち行ったんでしょ?友達はできなかったの?一人も?」
「ちょ、彩花ちゃん」

それ、逆効果。
慌てて止めてみたけど、とき既に遅し。
なんとも無遠慮なその質問に、花音はすっかりいじけてしまって、若干目に涙すら溜まっていた。

「ふん・・・私みたいに緊張して話せないのが普通だもん。どーせ私なんて、みんなで騒いでたら一人だけ怒られるし、いつも肝心なとこで失敗するし、すぐ泣くし、わがままだし、」
「そんなことないよ!彩、花音ちゃんのそういうとこ好きだよ!逆に、いい意味で!」

・・・さっきから、全然フォローになってないよ、彩花ちゃん。

「でね、そんなことより聞いて!千聖お嬢様って、すごいお城みたいなお屋敷に住んでるんだって!あと、召使いさんがいてぇ」
「もー!!私、泣いてるんだからもっと労わっ@ao a3ぇpd2a;c!!!!何でいつも(ry」

ついに花音火山が噴火を起こしたところで、私はそっと席を立った。
落ち着いたときに差し出せるよう、花音の大好きな苺のラテを購買へ買いに。

それにしても・・・まさか、あの千聖さんと、紗季が。
少し、面白くない気分なのはなんでだろう?
嫉妬してるのかな?でも、果たしてどっちに?

みんながてんやわんやな状態だったから言えなかったけれど、実は私は、彼女と面識がある。
いろいろ事情があって、難しい関係だったりもするんだけれど・・・。あの引きつった笑顔を思い出すと、今だにちょっと気が滅入る。
いつみんなに打ち明けよう?
花音の大騒ぎする声をBGMに、私は一人黙々と考えながら歩いていった。


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