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赤に、緑に、ピンク。
煌々と照らしつけるライトのその下で、アンコール用のドレスを纏った主役達が、お客様に向かって深々と一礼をしている。
ロックをコンセプトにした本編では、チェック柄やミニ丈のスカートが主だったけれど、アンコールでは、あえてシンプルな衣装を用意させてもらった。

パニエをスカート部分にあしらっただけの、其々のイメージカラーのサテン地のワンピース。
イヤリングやネックレスといった装飾品もすべて外してもらった。・・・これは、私からのアイデア。
3人のシンプルな美しさを、皆さんに見ていただきたかったから。

観客席は、どんな反応だろうか。
ドキドキしながら袖から盗み見たお客様は、皆さん一様に、うっとりと3人に見入っているようだった。


「よかった・・・」

自然に、安堵のため息が漏れた。

先程まで、不思議なダンス(それはヲタ芸でしゅよちしゃと)や振り真似、地鳴りのような声援で立ち見席を盛り上げてくださっていた男性のお客様方まで、今は口を閉ざして、ステージに心を向けていらっしゃるようだ。

少し後ろの方の生徒会専用席には、舞美さん、えりかさん、なっきぃ、栞菜が座っている。
ひょっこり顔を出している私を発見したえりかさんが、指で円を作って、“良かったね!”とサインを送ってくれた。

生徒会席には行かず、一般観客席へ戻った茉麻さんは、お隣の千奈美さんとともに、デジカメでステージを写しながら、楽しそうに笑っている。
その後ろの佐紀さんは、ダンス部の皆さんと一緒に、「せぇーの・・・3人とも、可愛いよー!」なんて声援を送ってくださっている。

視線をさらに前方へ滑らせていくと、めぐとすぎゃさんのコンビが目に止まる。

めぐったら、腕を組んで、つんでれ(?)のような態度を取っているけれど、隠しきれない笑みのせいで、ほっぺたに可愛らしいえくぼが浮かんでいる。



すぎゃさんは・・・よかった、もういつものすぎゃさんのようだ。
西洋人形のように美しい双眼をカッと見開いて、食い入るようにみやびさんに見入っている。
半開きの唇からは、判読できないけれど、何か言葉を紡いでいるようだった。前の席の方が怯えていらっしゃる。・・・よかった、のよね?



「みなさぁーん!お待たせしてすみませんでしたぁ!」

ほどなくして、3人の挨拶が始まった。
ももちゃんの明るい声は、少し緩んでいた観客席の空気を盛り上げ、耀くしてくれる。

「本日のステージ、いかがだったでしょうかぁ?たにょしんでいただけてたら、嬉しいなぁ~」

ふにゃふにゃした、それでいて力強い愛理の声が、お客様に優しい笑みをもたらす。

「あと2曲でラストになりますが、来年も来てくれるかなー?って、来年できるとしたら、愛理と2人組だけどねっ」
「ちょっとぉ!もぉ参加するからね!大学から駆けつけるから!」

みやびさんとももちゃんのやり取りに、笑いとともに拍手が巻き起こった。
本当に、素晴らしい。
トークも、ダンスも、歌も完璧にこなしているのは、天性の才能によるのもあるだろうけれど、奢らずたゆまぬ努力を続けていった結果だろう。
こんな素敵な人たちのステージに携わる事ができて、私は幸せ者だと思う。


――もうすぐ、終わる。
まばゆいBuono!のステージが。どんなアイドルよりも素敵な、3人のステージが。

「ウフフ・・・」

名残惜しい気持ちもあるけれど、私の心は、満ち足りていた。


「お嬢様、ステージガン見だね!」

大きな熊さんが、私の頭にそっと顎を乗っけて、ぽわんとした声で話しかけてくれた。

「ええ。だって、一秒も見逃したくはないもの。千聖はスタッフだけれど、Buono!のファンでもあるのよ」
「うん、わかるわかる!超かっこいいよね!あのももが!」

体に声の振動が伝わって、くすぐったい。
私がクスクス身を捩るのが面白いのか、大きな熊さんは「ワレワレハウチュウジンデアル」と可笑しなセリフを頭上から降らせてきた。

「ウフフ、くすぐったいわ」
「あははは・・・でも、お嬢様。真面目な話さ、うちら、裏方頑張ってきてよかったよね。いいステージだったよね」
「ええ、そうね」

思えば、大変なこともいっぱいあった。
書類関係や先生方との打ち合わせは、舞が引き受けてくれたけれど、他にもすることがたくさんあり、毎日てんてこまいだった。
Buono!はもちろん、衣装係さんや音響係さん、広報係さんや会場スタッフさんたちとの打ち合わせに、スケジュールの管理。買出しの手配。
最初は私だけ、あまり業務に携わらせてもらえなかったりもしたのだけれど、勇気を出して、いろいろ意見をいう事で、少しずつ仲間に入れてもらうことができた。
時には不手際を注意されたり、落ち込んだりもしたけれど、本当にいい経験をさせてもらったと思う。

私ももう、子供じゃないのだから、自分が奇異の目で見られ、過剰な気づかいを受けてしまうのは、ある程度仕方のないことだと理解している。
それでも、他の皆さんと同じ目で見て欲しいと願うのならば、・・・それはもう、自分で何とかするしかない。
どれだけ失敗したとしても、私には、私を抱きとめてくれる大切な人たちがいっぱいいるのだから、怖くない。

「千聖お嬢様」

そっと、肩に手の感触。
振り向くと、姉妹校の生徒会長の真野さんが、微笑んで立っていた。

「えへへ。何か私まで緊張してきちゃいました」
「まあ、真野さんも緊張なさることがあるのね」
「こう見えてあたし結構、ビビリなんです」

そんなことをいいつつも、真野さんはいつもどおり凛々しくて頼もしい雰囲気を漂わせている。
知り合った当初は、清楚で大人しいキャラクターを作り上げていた、真野さん。
あの頃の彼女も魅力的だったけれど、今のように、円陣を組むのが大好きな、活発な真野さんも素敵だと思う。


「私ね、最近よく思うんです。生徒会長やってよかったなぁって。
自分の学校でも、いろいろな経験ができたし、・・・こうやって、こっちの学校で、お嬢様たちみたいな素敵な人々に出会えて・・・」
「あら、真野さんったら。私たちこそ、真野さんのような方と親しくさせていただいて、とても嬉しいわ」

私たちの視線は、自然とステージの方へ戻っていった。

「・・・だから、私、精一杯やりますね!少しでも華を添えられるように」
「ええ、宜しくお願いします」

最後のMCが終了し、ももちゃんが背中越しに合図を送る。


「行ってきます」

いつもどおりの濃紺のセーラー服で、真野さんは背筋を伸ばしてステージ上へと歩いていく。
衣装を用意させていただこうと思っていたのだけれど、これでいい、と真野さんから強い要望があった。
Buono!のステージなのだからあくまで目立たないように、という配慮と、ご自身の学園への愛情がそうさせたのだろう。
まっすぐで凛々しい、真野さんらしい御決心だと感じた。


「はーい、ではここで、アンコールのマル秘ゲストを紹介しまぁす!真野ちゃん、出ておいでっ!!」



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