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舞ちゃんが千聖の腕に手を絡ませて、なっきぃがそれを引き剥がそうとしていて、舞美ちゃんが少し離れたとこから笑っている。
いつもどおりの光景。
普段なら私は、マイペースにそれを見守るところなのだけれど、ちょっと今日はソワソワしている。


(千聖、一人にならないかな・・・)


そんなことを思いつつも、まさかあの集団の中から、千聖を引っ張り出すなんてとてもできそうにない。
舞ちゃんとか、絶対尾けて来ると思うし。


「ウフフ、舞さんたら。でもね、昨日、明日菜も言っていたのだけれど・・・」

本日はお嬢様仕様の千聖、黒く染めた長い髪をいじくりながら、楽しげに談笑している。・・・まだまだ、時間はかかりそうだ。

私も特に、どうしても急いでいるというわけじゃないから、ひとまず学校の宿題に手をつけることにした。
パラパラとページをめくって、ペンをノートに一行分滑らせたところで、ふと視界に影が出来た。


「ん?」

顔を上げると、可愛らしい二つの三日月目が、私を見下ろしていた。


「千聖だぁ」
「ええ、千聖よ。ウフフ」

私のおかしなリアクションにも、お嬢様の時の千聖は優しく応えてくれる。
隣に腰をおろした千聖は、至近距離で私の顔をじっと見ていた。


「あれ?いいの?」

チラッと背後に目をやると、舞ちゃんはすごい表情で私のほうを見てるけど、なっきぃはもう興味が移ったらしく、修理したてのアイフォンのアプリを舞ちゃんに見せようとして、シカトされている。

「舞さん、またあとでね」

普通の人ならオシオキキボンヌしてしまいそうな舞ちゃんにも、千聖は柔和に微笑み返す。

「うん、絶対戻ってきてよ」
「ええ」

最近わかってきたことだけど、お嬢様の千聖は、私が考えていたよりずっと、“元の千聖”寄りの性格をしている。
物腰は柔らかいし、穏やかで知的だけれど、何ていうか、それだけじゃないというか・・・。


「それで、どうしたのかしら、愛理」
「えっ」
「だって、千聖に御用があるのでしょう?」

別に、何か声を掛けたわけじゃないのに。

ごく当たり前のようにそう言われて、私は半笑いのまま、ボーッとそのお顔を見返してしまった。

「すごいなあ」
「ウフフ」

千聖は次の私のアクションを待つかのように、大きな黒目をキラキラさせながら、黙ってニコニコしている。
そろそろ舞ちゃんから牽制されちゃうかな、なんて思ってみたけれど、不思議な事に、舞ちゃんはあいかわらず一定の距離から近づいてこない(目つきは殺戮ピエロさんのそれだけど・・・)

決して、私を気づかって、というわけじゃないと思う。
おそらく、さっきの千聖の“あとでね”を忠実に守っているのだろう。

舞ちゃんに限ったことじゃない。千聖はいつでも、人に判断を委ねているようなフリをして、自分の手の中で何もかも掌握している。
もしかして、世の中の大抵の物事は、千聖の意のままに進んでいるんじゃないか、なんて時々真剣に考えてしまう。

現に私も、今こうして深い色の瞳で見つめられていると、一体自分が千聖に何を言いたかったのか、うっかり忘れてしまいそうになる。

「愛理?」

・・・いや、ダメダメ!ぼんやりしてる場合じゃないぞ、愛理よ!


「・・・今日さ、レッスン終わってから、2人で会える?」
「ふふ、そう言ってくださると思った。もちろんよ。私も愛理とお喋りしたいわ」
「ですよねー。そう言ってくれると思ってた。実は、もうお店も予約してあったりして」

まあ、用意周到なのね、なんて笑う千聖。あんまり驚いている様子もない。
私だって、千聖相手じゃなかったら、こんな強引な方法は取らない。私と千聖の関係じゃなければ、ありえない。
舞ちゃんやなっきぃのとはまた違うけれど、私と千聖には、一寸特殊な絆が芽生えているのだ。


「ねー、千聖ぉ。さっきの話の続きー」
「ええ、今行くわ。・・・愛理、」
「うん」

どんどん、言葉を介さなくなってくな、私たち。私にとってはすごく嬉しいことなんだけど。
舞ちゃんのほうへぴょこぴょこ去ってく背中を尻目に、私は広げっぱなしのテキストに手をつけ始めた。



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