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お姉ちゃんが変わった。

あの日のことは、今でもはっきりと覚えている。
キュートの仕事の時に、お姉ちゃんが階段から落ちて頭を打ったという話を聞いて、パパママと一緒に病院へ行った。
受付には矢島さんたちキュートのメンバーとマネージャーがいて、検査が終わって異常がないので家に帰れるというような話をしていた。
「よかったぁ。」
でも、そのわりにみんな微妙な顔をしていた。暗いというわけじゃないけれど、何か言いたいような言いたくないような、おかしな雰囲気だった。
「えっと、お姉ちゃんは大丈夫なんですよね?」
近くにいた鈴木さんに聞いてみる。
「へえ?ああ、・・・・うん。大丈夫、だよね?」
「そう、だよね?」
「うーん?」


やっぱり反応が変だ。誰も私と目をあわそうとしない。
「何かひどい怪我とかあったならちゃんと教えてください!」
「怪我っていうか。」
うつむいたままの萩原さんが喋りだした。

「おかしくなったかも。頭が。」

・・・・・・・・・・・え?

「それ、どういう」
「お待たせしました、ご家族の方、入ってください。」
もう少し詳しく聞こうとおもったら、看護師さんが呼びにきた。

頭おかしくなったって。
お姉ちゃんは時々幼稚園児みたいなこと言い出すから、私もバカとか言ったりすることはある。
でも何か、他の人が言うのはちょっとむかつくかもしれない。
別にたいしたことなかったら、お姉ちゃんに言いつけてやろうかな。


「岡井さん。入りますよ。」
検査室に入ると、おでこに大きい湿布を貼ったお姉ちゃんが振り向いた。
顔もぶつけていたみたいで、右のほっぺたもちょっと赤くなっている。
「ちょ、ちょっと平気?ここ打ったの?」
思わず湿布に触ると、お姉ちゃんが「キャァッ」と短い悲鳴を上げた。
「痛いわ、明日菜。たんこぶができているのよ。」



―お姉ちゃん、今何て。

キャア?痛いわ?のよ?

「何でふざけてんの!みんな心配してるのに!」
「明日菜。」
文句を言おうとしたら、ママに肩を引かれた。少し顔が青ざめている。

「お父様、お母様、明日菜。心配をおかけして、ごめんなさい。特に異常は見当たらないとのことですから、一緒に帰れるみたいです。」
お姉ちゃんは真面目な顔で、私達に深々と頭を下げた。
お嬢様ごっこか。
よくお姉ちゃんが「愛理の真似ーぶはは」って笑いながらやるモノマネの声に似ていた。
パパもママもぽかーんと口を開けてお姉ちゃんを見ている。

お医者さんが、しっかりしたお嬢さんですねとか言っている。
違うのに。お姉ちゃんはこんなんじゃない。
こういう場合なら、ちょっと半泣きで「ごめんねごめんね」って謝ってくれるはずだ。
こんなに心配して駆けつけたのに、いつまでくだらない演技を続けるんだろう。

「ねーもう本当にそのキャラやめて。キモいから。」
「明日菜!いいから黙って。千聖、大丈夫なら家に帰ろう。」
もっといろいろ言いたかったのに、ママに遮られてしまう。
どうして?私たちだけじゃなくキュートのメンバーだって、お姉ちゃんを心配して病院まで来てくれてたのに、こうやってふざけるのはいけないんじゃないの?

「今日はお姉ちゃん、疲れてるんだよ。そんなにカリカリするな。」
そういいつつもパパは動揺しているみたいで、廊下で2回も転びかけた。

「ちっさー!」
病院の玄関のあたりで、矢島さんと萩原さんが待っていた。
「ちっさーのおじさん、おばさん、ごめんなさい、私が千聖ちゃんとふざけていてこんなことに」
「舞美さん、あれはただの事故ですから。私は大丈夫です。そんなふうにおっしゃらないでください。」

「ちっさー・・・」

もう遅い時間だから、他のキュートのメンバーは先に帰ったらしい。
2人は責任を感じて残っていたみたいだった。

お姉ちゃんに体の調子をしきりに聞いてる矢島さんとは裏腹に、萩原さんは少し離れたところから、黙ってお姉ちゃんの顔を見つめている。
とても厳しく、怖い顔をしていた。
相方って言われるぐらい仲良しだから、返って、責任を感じているのかもしれない。
別に、萩原さんのせいじゃないのに。そんなに気にすることはないのにな。

私の視線に気づくと、少し眉を寄せて、さっさと中庭の方へ歩いていってしまった。
「あ・・・・」
なぜか追いかけてはいけない気がした。みんなお姉ちゃんを構うのに夢中で、気づいてもくれない。
「お姉ちゃん、萩原さんが」
呟いた声は、誰にも届かなかった。


どうしても変なキャラをやめてくれないお姉ちゃん。
そのことについて何も言わないパパとママ。
お姉ちゃんに一言も声をかけないで、どこかへ言ってしまった萩原さん。


私にとって当たり前だったたくさんのものが、静かに壊れ始めているような気がした。



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