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「愛理、いこっ!」

ダンスレッスン終了後、早々私服になった千聖が、まだ着替えも済んでない私の手を取った。

「うへへ」

今日のレッスンではものすごい集中力を見せていた千聖、精神力(?)を使いすぎたのか、お嬢様状態から元の人格に戻っているみたいだ。

「愛理と出かけるとか、久しぶりじゃない?」

目はらんらんと輝いていて、鼻歌どころか大声で僕らの輝きを口ずさんでる千聖。
喜怒哀楽をハッキリ出してくれるから、喜ばせがいもあるというもの。
こういう千聖だからこそ、いつでも絶えず人が周りに集まって来ているんだな、なんてわかりきったことを改めて実感した。

「わはは~、でも私、この格好じゃ逮捕されちゃうよぅ」

ほぼ何も身につけてない自分の上半身を指さして言うと、また弾けるような笑い声。
頗る機嫌はいいようで、安心した。
千聖にはいつでも笑っていてほしいと思ってるけど、その思いは今日は一際強い。なんと言っても・・・



「・・・は~、愛理、何かおしゃれなお店知ってんだねぇ。しかも予約とか、マジ大人」

ところ変わって、レッスンスタジオから3駅離れたレストラン。
着替えを終えて、舞ちゃんの監視を潜り抜けて来たここは、以前家族で訪れた、私のお気に入りの場所だった。
半個室で照明を落とした、大人ならデートに使えそうな落ち着いた店内を、千聖はせわしなくキョロキョロを見渡している。

「ん、でもさ今日あんましお金持ってないよ、私。妹のオモチャとか買ってさ、おこづかいピンチなんだよね」
「あ、いいよいいよ、私がおごるから」
バッグから取り出した長財布を軽く振って見せると、「あ、それダメ」と千聖は真顔で開いた手を突き出してきた。

「子供同士がおごったりおごられたりしちゃだめだって、ママが」

・・・なるほど。
自由なように見えて、きっちりルールの敷かれている岡井家らしい。

「でもね、今日は特別だから。千聖のお母さんも許してくれるはず」
「ん?」

私がそういうと同時ぐらいに、店員さんが仕切りのカーテンを開けて入ってきた。
その手には、小ぶりなホールケーキ。


「んんんん?」
「千聖、お誕生日おめでとー!!・・・はっぴばーすでー、とぅーゆー♪」

気を利かせてくれた店員さんと、私からのバースデーソングが千聖へと降り注がれる。


「・・・はっぴばーすでー、とぅーゆー♪・・・おめでと、千聖!さー、ロウソク消して!」

手で急かしてみるも、千聖はあっけに取られたように口をぽかーんと開けて、私とフルーツいっぱいのケーキを見比べるだけで、ほとんど動かない。


「ちーさーとちゃんっ」
「・・・え?あれ?ええ??」

千聖はもたもたとした動きで、ポケットから携帯を取り出した。
そのまま着信を知らせる小窓に目を滑らせて、眉を下げて私を見る。

「あいりん・・・千聖の誕生日、明日だから」

自分が間違えてるのかと思っちゃった、とかいいながら、綺麗にマニキュアを塗った指で、ケーキの端をちょんと突付く千聖。

「それはもちろん知ってますとも。・・・あ、そか、それならお誕生日おめでとう!じゃなくて、もうすぐお誕生日おめでとうにすればよかったね!ケッケッケ」
「あいりん何言ってんのー?ウケる!」

千聖は独特のグフフフっていう声で笑うと、テーブルの隅に揃っておかれたフォークを渡してくれた。

「ま、でもそんなのいっか。ありがとね、食べよっ」
「あ、切り分けるよ?」
「いや・・・あえてのじか食いがしたいです、愛理さん」
「・・・ほー、あえての、ね。ケッケッケ、そうしましょうか、岡井さん」

生クリームの塗られたスポンジを、遠慮なく掬い取って口に運ぶ千聖に習って、私もフォークを突き立てる。

さっきの奢る奢らないの話じゃないけれど、私の家だったら、ホールケーキをこんなふうに食べるなんて許されないようなことだと思う。
千聖といると楽しいのは、こういう環境の違いみたいなのを否定しあわずに、いろいろ共有できるからなんだろう。

「・・・おいしい。でも千聖、今ブタ期に入ってるからなぁ。やべー」
「大丈夫!ここのケーキ、野菜も使っててヘルシーだからね。私も最近、若干ふとももがやばいからぁ」
「うっそ、そんな細いのによく言うわ!」

他愛もない会話が重なるのが、とても楽しい。
しばらく、こんな風に2人で話していなかったな、なんて今更実感する。

「愛理さ、でも、ありがとね」
唇にチョコをくっつけたままの千聖が、少し真顔になる。

「何?」
「今日誘ってくれたの、あれでしょ。テレパシー」

年に合わないような、妙に大人びた表情で、千聖はニヤッと笑った。



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