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いま世の中はサッカーのワールドカップ一色。毎日が楽しすぎる。
僕も久しぶりにボールを蹴りたくなって、ここの公園にやってきた。

この公園はとてもいい公園なんです。広い敷地には自然がたっぷりで、散策するのに持って来いだし。
そして何といっても、この公園にはよく手入れされた芝生のピッチがあって、しかも自由に使えるからお気に入りなのだ。サッカーするのに土のグラウンドでは膝への負担がきついんです。だから、この芝生を目当てに、この公園にはよく来ることがあるんだ。


(*執∀事)<お屋敷から近いこの公園は、戦前までは岡井家の敷地の一部でした。戦後しばらく占領軍に接収されていましたが、返還される際にその一部を公園として寄付されたのだそうです。以上、執事長に叩き込まれた岡井家の豆知識でした。


つま先でボールを拾い上げる。そのままリフティングを開始。

そういえば、リフティングといえば思いだすなあ。

あれは小学校の時の話、こうやってリフティングをやってるときのこと。
あの時は調子が良くっていい感じに続いてて、記録を大台まで乗せられる予感がしていたんだ。

988・989・990・

目標としている回数に初めて届くかもしれない。これは行けそうだ。
でも、あせるな、落ち着いていけ。
雑念を振り払い、しっかりと集中できていた。
だから、そのとき彼女がすぐ背後まで近づいて来ていたなんて全く気づかなかった。

991・992・993・

もうすぐだ。でもあせるな、あせるな。

994・995・996・

平常心、平常心、ここが肝心。

997・998・
「ウーッ、ハッ!!」

突然、背後にいた彼女が大きな声で変な掛け声を耳元で叫んできた。

!!!
心臓が止まるかというほど思いっきり驚いてしまって、ボールを明後日の方向に大きく蹴っ飛ばしてしまった。

999・・・

大きく弾んだボールが転々ところがっていった。

記録、999回。
目前にして、大台達成ならず・・・・
呆然として振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべて立っている熊井ちゃん。
そのほえーっとした笑顔を見たら、もう怒る気力も萎えてしまった。

懐かしいなあ。熊井ちゃんに驚かされて大台到達できなかったんだっけ。
今でも僕のリフティングの記録は、そのときの999回のままなんだ。

その後、何回も何回もチャレンジしてみたけど、何回やっても回数が900回を超えると次の901回で何故か熊井ちゃんのことが頭に浮かんでくるようになる、という現象が起きるようになってしまって。
そうなったらもう集中どころじゃなくなって、どうしても1000回を超えることができなかったんだ。

今となっては、もう新記録を作るのは無理だなあ。
今ではせいぜい数十回が限界だよ。
膝に力が入らなくて、だんだん感覚がなくなってきて。
ケガさえしなければなあ。

なんとなく切ない気分になりながらリフティングをしていたら、いつの間にか僕のことをじっと見ている少女が一人いた。


千聖お嬢様!!


「千聖お嬢様!! どうしてこんなところに? お一人なんですか」
「ウフフ、ごきげんよう。いつもの犬の散歩コースに舞美さんと来たんですけど、舞美さんがリップとパインを連れて一人で走って行ってしまわれて。ミニチュアダックスフントは、そんなに激しく走らせるような犬種じゃないのに。舞美さんらしいわ。ウフフフ」

マイミさんって誰だろう?
しかし、お嬢様をひとりにして置いていってしまうなんて、それって無用心ではないのだろうか。
その人、相当そそっかしい人なんだろうな。
でも、そのお陰でお嬢様とお話できてるんだから、まぁ僕にとってはラッキーなことだけど。

「リフティング、お上手なんですね」
「見ていたんですか。お恥ずかしい」
「あんなに何回もできるなんて、すごいわ」
「昔はもっともっと出来たんですよ。あ、疑ってますね。本当なんですって」

クフフと小さく笑うお嬢様。
この笑顔を見れたことで、今日は一生思い出に残る日になりました。

「サッカー、おやりになってるんですか?」
「部活でやってました。去年までですけどね」
「あら、今はやっていらっしゃらないの?」
「右膝をケガしてしまいまして。もう元のようにはプレー出来なくなるって言われたのでやめちゃったんです。あははは」

わざと明るく振舞ってみたが、やっぱりお嬢様の表情は曇ってしまった。
お嬢様にそんな顔をさせてしまうなんて、申し訳ないです。本当に。
僕なんかの話にもそんなに熱心になって下さるなんて。千聖お嬢様ほど心がキレイで優しい方を僕は知らない。

「そうですか、おケガを・・・ごめんなさい、何か余計なことを聞いてしまったみたい」
「いいえ、全然。こちらこそ辛気臭いこと言ってすみません。」
「そんな。今はもう大丈夫なんですか?」

心配そうな表情で聞いてくるお嬢様。その表情に僕は一発でやられてしまいました。
うわぁ、お嬢様のこの表情、正直たまりません。ケガしたことがこんな形で僕に返ってくるとは、人生何が幸いするかわからない。
こんな表情を僕に向けてくれるなんて、今日は一生思い出に残る日になりました。

「日常生活する分には特に。でも膝にあまり負担をかけられないので、気を使いますけどね」
「そうですか。それはご苦労がおありでしょうね」
「それほどでもないですよ、お嬢様。いや、僕のそんなことより、ひょっとして、お嬢様もサッカー好きなんですか?」
「えぇ、サッカーはとても好きです! 見るのも好きだしやるのも好き」

へぇ、サッカーが好きなんだ。なんか意外だな。
お嬢様と言われるような人なんだから、もっとこうインドドア派なのかと思ってた。

まぁ、今は世の中がワールドカップ一色だから、普段は興味ない人もみんなにわかサッカーファンになってるからなあ。
お嬢様もそれと同じ流れかな? にわかファンみたいに「本田△!!」とか言ってたりしてw

「そうなんですか! じゃあ、ワールドカップも見ていらっしゃいますか」
「えぇ、毎日見ています。日本の試合は興奮しましたわ! 
初戦のカメルーン戦のカウンターからの本田選手のゴールは嬉しかったわ、初得点でしたし耐えた時間の後のゴールでしたから。
そのとき本田選手がゴールを決めたあと、真っ先にベンチに駆け寄って控え選手の方たちに飛びついていらっしゃいましたよね。
あれを見て、このチームは選手全員が一緒になって戦っていらっしゃるんだわ、と思いました。
チームにとって何よりも大切なのは、チームとしての団結力ですから。
そういった意味で今の日本代表チームは素晴らしいチームだわ。
それからデンマーク戦で決めた2本のフリーキック。本田選手の無回転シュートには興奮しました。
でも、それ以上に遠藤選手のフリーキックが素晴らしくて。遠藤選手は千聖が一番注目している選手なんですけど(ry」

めっちゃ語りだしたw
お嬢様、詳しすぎる。
言ってることは的を得ているし、よく見てる証拠だね。しかし、これは驚いた。ここまでのレベルとは。本当に好きなんだな。
しかも、本田より遠藤の方に注目しているとか、なんて渋いんだw

「もちろん僕も見てました。興奮しましたよね。お嬢様は遠藤選手が好きなんですか」
「えぇ。日本の攻撃は遠藤選手から始まりますから特に注目して見ています。遠藤選手はミスも少ないし、周りをよく見ていらっしゃるし、まさに日本の心臓にふさわしい動きをされていますわ」
「そうですね。全体が守備から攻撃へ切り替えたときに起点になる遠藤選手がミスをしたら致命的なピンチに直結してしまいますからね。そこでミスをしない遠藤選手はさすがベテランって感じですよね」
「あら、なかなか詳しいんですね。千聖の話しについてきて頂けるなんて」
「あ、ありがとうございます」
「嬉しいわ。サッカーの話しをしても寮の方はいつも最後まで聞いてくださらないんだもの」

なんか褒められちゃったw
サッカーの話しをするだけでお嬢様にお褒めの言葉までいただけるなんて。
これは美味しいぞ。
まだまだついて行けますよ。お嬢様、遠慮なく語っちゃって下さい。

「あとは注目しているのは森本選手、なかなか出番が無いみたいですけど。途中出場で出ないかいつも期待しているんですけど」

森本とか。やっぱり渋い。渋すぎる。
ふつうミーハーな女の子ファンなら玉田とか内田あたりのイケメンと呼ばれてる選手の名前が出そうなもんなのに。
それなのに、そこで出る名前が森本なんだw
よくわからないが、さすが千聖お嬢様だ、って感じがする。

「お嬢様は外国のチームではどこが好きなんですか」
「アルゼンチンです!! 特にメッシ選手は大好き。それからイグアイン選手とテベス選手とのスリートップ。攻撃的でとても魅力的なサッカーだわ。それに何といってもマラドーナ監督。アルゼンチンは大好きです」
「それは奇遇ですね。僕もアルゼンチンが一番好きなんですよ!」

お嬢様と2人っきりでのお話し。
心が癒されていく。お嬢様とお話しした時はいつも、どんどん優しい気持ちになれるんだ。
世の中の人がみんな千聖お嬢様とお知り合いになれれば、犯罪だの戦争なんてものはこの世から無くなるかもしれないのに。

それにしても、本当にサッカー好きなんだな。これは驚いた。
でも、僕もサッカーの話はもちろん好きだから、これは嬉しい。
よーし、今日はまだまだ語り合いますよ、お嬢様!

僕のテンションも上がってきてさあこれからと思っていた時、そこに声をかけて割り込んできた人がいたのだ。
せっかく、お嬢様と2人きりだったのに。
誰だ、邪魔をするのは!

こういう空気を読めないことをしてくる人といったら、どうせ熊ry


「ここでしたか、お嬢様ぁ。探しましたよー」



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