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「もう、舞さんったら、イタズラがお好きなんだから・・・」
「えへへ」

千聖は半ばあきらめたように、私にもたれかかってきた。
その背中に手を回しながら、私は腕時計をチラッと確認する。

「ねえ、千聖」

少し声色を変えると、千聖の身体に緊張が走った。

「大丈夫、嫌な話じゃないから」
「舞さん・・・」

穏やかで、だけど煌々と強い光を放つ、お嬢様の千聖の瞳。
私の心を見透かす、大好きだけど、ちょっと怖い瞳。
ひとたび捕らえられたら、どんな言葉を使って自分の気持ちを飾り立てても、何の意味もなくなってしまう。
ようやくそのことがわかってきたから、私は自分の気持ちを飾り立てる事をやめた。
いつでも思ったことを、浮かんだ言葉のままに伝えれば――いや、伝えなくちゃいけないんだ。


「さっきね、千聖、舞のこと何番目に好きかって答えてくれなかったじゃん」
「ええ・・・」
「でもね、舞はやっぱり千聖の1番になりたいの。いつかは千聖がそう答えてくれるようになりたいの」

狭い洞窟だから、自分の声がわんわんと反響して、とても恥ずかしいことを言ってるって思い知らされているようで、顔が火照っていくのがわかる。
だけど、やめるわけにはいかない。
もう時間は迫っているのだ。


「千聖。千聖は今、ばかちしゃとじゃないんだから、舞の言ってる意味、ちゃんとわかってくれてると思うんだ。
舞はどうしても千聖がほしいの。私はものじゃないって言うかもしんないけど、でも舞のものになってほしいし」

千聖は何も言わず、唇をキュッと閉ざして、私をただ見ている。
早く言わなきゃ、言わなきゃと気が先走って、言葉がつっかえてしまう。

「だ、だから、これからも舞は千聖に強引な事いっぱいするかもしんないけど、仕方ないって許してほしいな。
だって好きなんだもん。誰にも渡したくない。
本当はね、千聖が舞美ちゃんと触りあったりしてるの、やだ。
舞には言わない事を、なっちゃんに相談してるのも、やだ。
あ・・・愛理に舞より先に誕生日お祝いしてもらって、無邪気に喜んでるのも、やだ。
そーゆーの全部、舞が引き受けたい。
でもそんなの、舞のワガママだけど・・・千聖がそうしてくれないのも知ってるけど・・・ああもう、何言いたいのかわかんなくなってきちゃった!」

眉をしかめて舌打ちすると、千聖が軽く髪を撫でてくれた。

「ありがとう、舞さん」
「・・・うん」

海の匂いと、千聖の香りが重なる。それだけで、情けないぐらい単純に、私の心は静まっていく。

「・・私、時々ね、とてもさみしくなるの」

千聖は少し唐突に、かすれた声でささやいた。

「さみしいの?」
「ええ。大好きな皆さんと一緒にお仕事が出来て、大切な家族と毎日過ごせて。
なのに、時々どうしようもなく悲しくて、感情のコントロールが出来なくなってしまうの。
もしかしたら、私は本当は誰からも受け入れてもらえていないのではないかって。
皆さんは優しいから、元の明るい千聖に戻るまでの私を、いやいやかまってくださっているのかもしれないって・・・。」
「そんなわけないじゃん」

私は語気を強めて、千聖の手を強く握り締めた。
千聖が微笑する。なぜか胸が痛くなった。

「私は舞さんに好きと言ってもらえると、心が落ち着くの。
私は舞さんの嘘のない言葉が大好き。舞さんの迷いのない立ち振るまいが好き。
まぶしくて正視できないぐらい、まっすぐな眼差しが大好き。
私は舞さんのことが、大好きよ」

だからね、とつぶやくと、千聖は軽くため息をついた。

「だから、大好きな舞さんに、大好きと言ってもらえて、私は勝手に安心感を得ているの。
舞さんの言葉を聞くと、寂しい気持ちが消えていくのよ。
お気持ちに応えられないくせに、安らぎだけは欲しいなんて、本当に卑怯者だわ。私は・・・」
「いいって、千聖。今はそれでじゅうぶん」

私は千聖の言葉を遮った。
また、沈黙。
波の音が強くなって、足元にひんやり水の感触を感じる。
まるで千聖の涙みたいだ、なんて柄にもないことを思った。


「・・・そりゃあね、舞はいずれは千聖の本命になりたいと思ってるよ?
だけど、全然焦ってないし、千聖が舞の存在で少しでも癒されてるっていうんだったら、いいよ。
千聖が今みたいに、遠慮しないで舞に本音を言ってくれのも嬉しい。それに」

私は改めて、千聖をギューッと抱きしめた。


「きゃっ」

柔らかくて硬い、独特の感触。
夢中ですりすりしていたら、どうやら力加減を間違ってしまったらしい。

「う、うわっ」
「きゃあ!?」

椅子状の岩から身体が滑り落ちて、2人して浅瀬に落ちる。
「ぷは・・・あははは、やっちゃったね」
「うふふ、舞さんたら、もう」

水に濡れた、色っぽい姿で微笑む千聖。
そーゆーこと、していい空気なのかなって思ったから、私はまた唇を重ねた。
つながったとこから、千聖の吐息がダイレクトに伝わってくる。


「・・・さっきの話の続きだけど」

唇を離して、雫が滴り落ちる髪を撫でる。


「今日、千聖が何も言わずにここに来てくれて、嬉しかったよ。
夜中にいきなり誘ったし、レッスンの後じゃ疲れてるかもしんないのに、文句も言わないで来てくれてさ。
でね、・・・・あー、もう、時間が!!」

再び腕時計を見て、私は叫んだ。


「舞さん?」
「・・・いーや、もう。千聖。


誕生日、おめでとう」



♪♪♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪♪♪

私が言い終わると同時に、かばんの中のケータイが、大音量でバースデーソングを奏でた。


「まあ・・・!」

6月21日、0時。
聖が17歳になる瞬間、独占。


「もー、もっといろんなかっこいいセリフ考えてきたんだけどさ、ダメだね!やっぱグダグダになっちゃった!」
「舞さん、」
「とりあえず、お誕生日おめでとう、千聖。舞のわがままに付き合ってくれてありがとね」

水に濡れたまま、私たちはいったん岩場に戻った。
私のカゴバッグからは、あいかわらず陽気な音楽が流れ続けている。
0時丁度に設定したアラーム。しばらくこのまま、音楽で誕生日を祝福し続けてもらうとしよう。

「どうしてもね、千聖の誕生日を舞だけに祝わせてほしかったの。
ほんとは家族とか友達みんなに、岡井家で祝ってもらう予定だったかもしんないけど、舞だけが一番最初におめでとうしたくて。・・・千聖と、初めてチューしたこの場所で」
「・・・ありがとう、舞さん。私なんかのために」

目を三日月にして笑ってくれる千聖。

「だ、だって、千聖、愛理に祝われて勝手に喜んでるし!舞ガチで悔しかったの。何で舞の千聖なのにって・・・愛理わかっててそーゆーことすんだもん・・・っていいんだけどさ、それは。
でも舞のちしゃとなんだから、これぐらいやらないと愛理には勝てないかなって」

三日月お目目で微笑まれて、つい慌てて謎の言い訳が口から飛び出す。
すると、千聖ははにかんで、顔を近づけてきた。そのまま、ほっぺたのとこでチュッと音が鳴る。

「口にしてよ、どうせなら」
「それは、恥ずかしいわ。ほっぺたで精一杯」

・・・ま、いいか。お嬢様の千聖らしくて可愛いし。

「本当に、嬉しいわ。舞さんはいつも私を幸せにしてくださる。
これからも、舞さんをもやもやした気持ちにさせてしまうことがあるかもしれないけれど・・・どうか、ずっと千聖と仲良くしてちょうだいね、舞さん」
「あったりまえじゃん!ちさまいだよ?ウチら」
「ええ、ちさまいですものね。ウフフ」

「・・・・というわけで、」

私は洞窟の入り口に目を遣って、手でメガホンを作った。


「舞美ちゃーん、ギョカイの方ー、もう隠れてないでいいですよー」
「えっ・・・」


目を丸くする千聖。
「ギュフー!」とか言って何かが海に落ちる音。・・・ほーら、やっぱりね。

「すごいね、舞!何で居るってわかったの?」

数十秒後、ワイルドになっちゃんの襟首を掴んで洞窟へ入ってきたのは、我らが豪快リーダー。
私が急に呼びかけたもんだから、2人ともびっくりして頭からダイブしちゃったらしく、全身びしょぬれだ。
海に全然会わない、舞美ちゃんの白いフリフリワンピがシュールで、思わず笑いそうになってしまう。

「だって、たまにそこの入り口付近に、懐中電灯の光が横切ってたんだもん。

あと舞美ちゃん、笑いすぎ!ギョカイ鼻息荒すぎ!」
「ふんがー!」

・・・そう、実は、少し前から気がついていた。
人の気配がしてたし、何より、大好きな人達のことだから、何となくわかってしまう。

「まあ・・・千聖はまったく気がつかなかったわ。
やっぱり舞さんはすばらし・・・・え・・・あの、そ、それは、つまり・・・」

千聖の顔が、真っ赤になった後いきなり真っ青になる。・・・何でもすぐ顔に出ちゃうとこ、ばかちしゃとと同じだね。

「ああ、当然見てたんでしょ?舞と千聖がベロチューしたりうなじをかみかみ」
「フガフガフガフガ」
「あはは、大丈夫!そんなに恥ずかしい事じゃないよ、ちっさー。いつも私とだってしてるじゃないか!」

・・・お姉ちゃん 一言多いよ お姉ちゃん(ハギワラ 心の一句)


「・・・探さないでって、メールしたのに」
「だからって、旅に出るって言われて放置するわけには行かないでしょ!」

にこにこしてる舞美ちゃんとはうらはらに、なっきぃはちょっと怒ってるみたいだった。
まあ、そうだよね。こっちが普通の反応なのかもしれない。
「どうしてここにいるってわかったの?」
「何か、何となくそう思ったんだ。
舞がちっさーと一緒に旅に出るなら、ここしかないんじゃない?って」
「えー・・・」

舞美ちゃんは天気の話でもするように、涼しい顔でそんなことを言う。
全然説明になんてなってないのに、舞美ちゃんだから、って思うと、妙に納得させられてしまう。

「まー、やじーがそう言うなら、そうなのかもって半信半疑で着いて来たらさ、本当にいるんだもん。しかもちゅっちゅちゅっちゅしてるし」
「は、別にいいじゃん!舞たちの自由じゃん!今日はお説教される筋合いないから!」
「舞。」

でもでも、とまだいい足りなそうななっちゃんを目で制して、舞美ちゃんが私の足元にしゃがみこむ。

「私ね、思ったんだ。
探さないでってわざわざ言ってる時はね、本当は心のどこかで見つけて欲しいって思ってるんじゃないかなって、
だから、勝手に探しちゃった。ごめんね」

――天然のくせに、サラッと深いこと言う。
いつもどおりの、まっすぐな眼差しでそういわれると、返答に困って何も言えなくなってしまう。


「・・・遅くなっちゃったけど、誕生日、おめでとう。ちっさー」

そして、舞美ちゃんは無駄にイケメンな笑顔で千聖の頭を撫でた。

「え?あ・・・ありがとうございます。・・・ウフフ、いつもの舞美さんではないみたい。とても、凛々しくていらっしゃって・・・」
「なんだとーちっさー!私はいつもりりししりいリーダーじゃないかー!」
キャーキャーとジャレ合う舞美ちゃんたちをよそに、ギョカイ、もといなっちゃんが私の肩を軽く突っついた。

「私は、千聖におめでとうは言わないからねっ」
「は、何でよ」

なっちゃんはぷっくり唇を尖らせて、不満そうなお顔をしている。

「・・・怒ってるの?」
「いーえ、めっそうもない!でもね・・・私、もう祝っちゃったんだもーん!」
「は?意味不明」

「0時になる前に!舞ちゃんより先に!心の中で!千聖におめでとーって言っちゃったんだもん!舞ちゃんより先に!舞ちゃんより先に!先に!早貴だけに!キュフフフ」
「うっぜ・・・なんでそーゆーことするかな!マジ海に還すぞ、このギョカイ!」

子供じみた挑発とはいえ、私はそれを見過ごせるほど人間が出来てない。
先に、祝っただと?この私の気持ちを知っておいて!あれだけ舞×千聖のエロ妄想を聞いておいて!(詳しくはまとめサイトさんを参照でしゅ!)


「だって・・・」
「また風紀がどうのって言うんでしょ!なっとくいかないし!」
「違うよ!そうじゃないもん!でも、でもだって、ウチら三馬鹿でまいだーりん隊なのにさ・・・!こーやってなっきぃだけハブッてさ!ずるいじゃん!うわーん!」
「ちょ、ちょっと・・・」


なっきぃ、ギャン泣き。


最近はめっきり涙を見せることも少なくなって、大人なアタシ(キリッ)みたいな態度を見せることもしばしばあるくせに、なんだかよくわかんないけど、なっきぃは顔を真っ赤にしてピーピー泣きはじめた。

「うわーん!三馬鹿で祝うべきだろうがー!こんちくしょー!」
「さ・・・早貴さん?どうなさったの?」
「えっ!ギョカイものいじめはだめだよ、舞!」
「いじめてねーし!」
「ギョカイじゃねーし!」

天然リーダーの変な突っ込みのせいで、ますますグダグダ。
まあ、℃-uteと言ったらグダグダみたいなとこありますし、通常営業っていったらそのとおりなんだけれども、どうしたもんか、これ。


「・・・じゃあ、走ろうか」
「は?」


変な空気を払拭しようとしたんだろう、舞美ちゃんが、勢いよく立ち上がって妙なことを言う。


「走れば、とりあえずなにもかもどうでもよくなるよ!」
「それは舞美ちゃんだけ・・・あ、ちょ、待ってよ!」

私たちの意見なんて聞きもせず、舞美ちゃんは千聖の腕をひっぱって走り出した。

「ちっさー、かけっこ勝負だ!」
「お受けしますわ。ウフフフ」

ひらひらワンピのお嬢様ルックの2人が、カジュアルなかっこうの私たちを置いて、勝手に男らしい勝負を繰り広げ始めてしまった。楽しそうな笑い声がどんどん遠ざかる。


「ひっく・・・舞ちゃん、うちらもここ出よう」

赤い目のなっきぃが、私を促す。
ひとしきり泣いたらどうでもよくなったのか、ずいぶんすっきりした顔つきで。・・・まったく、気分やなんだから。
「出てどうすんの?」
「やじーがね、近くのビジネスホテル取ってくれたから。
舞、どーせ千聖とここで一屋を明かすつもりだったんでしょ」
「悪い?」
「こんなとこずっといたら風邪引くよ」
「うっ」
「大体、いくらあの時とは季節が違うって言ったって、高波が来るときは来るんだからね」
「うう・・・」
「舞はノープランで突っ張りすぎなんだよ。千聖のことになると、もーなんか思考停止しちゃうんでしょ」

――はい、まったくもって、おっしゃるとおりでありんす。
ヘタレキングのくせに、なっちゃんは私の千聖への思いを冷静に見抜いている。

「だって・・・千聖のこと好きなんだもん」
「知ってるよ」
「好きな人のことだもん。夢中になったってしょうがなじゃん。おなっきぃにはわからないかもしんないけど」
「一言余計!・・・まったく、ちさまいは早貴がいないとだめなんだから」

なっちゃんはなぜか嬉しそうに笑うと、「行くよっ」と手招きをしてきた。
たしかにいつまでもいじけてるのは時間が勿体無いし、しぶしぶながら、私は従う事にした。

「仕事終わったら、愛理もこっち来ることになってるからさ」
「そっか、℃-ute勢ぞろいだね」

暗い海沿いを、なっちゃんの懐中電灯に照らされながら、ゆっくりと歩いていく。

「ケーキとか簡単なパーティー用の食事も用意してあるからさ。・・・千聖には、舞ちゃんからの提案って言うからね」
「舞からの・・・?何で?」
「・・・なんだかんだ言って、一応応援してるんだよ。舞の恋」

なっちゃんは独特の声で笑うと、“いいこと言ってる大人なアタシキュフフ”みたいなドヤ顔を見せ付けてきた。ウザありがとう。

「ま、とりあえずは、だ。舞が18歳になるまでは、℃-ute全員2人の不純同性交遊には口を挟ませてもらうからね」
「はいはい、わかりましたよ」
「あれ、反論しないの?」

私からの℃S罵倒を若干ちょっと期待してたのか、意外そうな顔のなっちゃん。

「いやー、だって、みんなに愛されて認められるちさまいカップルになりたいじゃん。
舞だって、何も肉欲に心を支配されてるわけじゃないんでしゅよ」
「・・・えらいっ、舞!そういうさわやかな交際なら、いくらでも応援するからね!」
「ええまあ」

――さっき、水に濡れた千聖の透けブラに欲情したことは黙っておこう。

「ホテル行ったら差、千聖のこと、めいっぱい喜ばせようね」
「だね!」

“ちっさー、今度はあっちのベンチまで競走だ!”
“次こそは千聖が勝って見せるわ!”

「・・・一生やってろって感じ」

不思議と、嫉妬心は疼いてこない。
みんなが集まってきてくれたことで、千聖をプラスアルファで喜ばせることが出来たのだから、結果オーライってやつでしょ。

「あとで、馬鹿ちしゃとの方もお祝いしてあげないとね」

あっちにも、祝いのキッスぐらいかましてやろう。
風に揺れる清楚なワンピースの千聖も、テキトーファッションの千聖も、舞の千聖には違いないのだから。

今日中にどうにかして、明るいほうの千聖の人格をひっぱりだしてやろう、なんてろくでもない野望をいだきながら、前方の声を頼りに、私は海岸沿いを歩き続けた。


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