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明日菜、明日の準備はできていて?忘れ物をしてはだめよ。」
返事ができない。いろんなことが頭の中で整理しきれなくて、自分がおかしいのかお姉ちゃんがおかしいのかわからなくなってきた。

「明日菜。こっちおいで。」
タイミング良くパパが呼んでくれたから、お姉ちゃんの手から逃れるように体を離した。

「パパ。」
「うん、大丈夫だ。何にも心配ない。」

私はまだ何にも言っていないのに、全てを見透かしたかのようにパパは笑って頭を撫でてくれた。
「明日菜も疲れただろ。お姉ちゃんが無事で本当に良かったな。」
「・・・うん。」



部屋に戻ってぼんやりしていると、お姉ちゃんが「まあ。」とか言ってる声が聞こえた。
ちょっと気になって廊下に出たら、ゴミ袋を両手に持ったお姉ちゃんにぶつかりそうになった。
「何やってんの。」

「整理整頓を。私ったら、どうしてこんなに散らかしていたのかしら。恥ずかしいわ。」
「・・・手伝う。」

ゴミ袋を奪い取って、玄関に運ぶ。
お姉ちゃんの部屋を覗いたら、ママにゴミルームとまで言われていた空間が、すっかり綺麗になっていた。
そして、やっとこのキャラがお姉ちゃんのいたずらじゃないことを理解した。いつも部屋の片付けから逃げまくっているお姉ちゃんが、悪ふざけのために大嫌いな掃除までするはずがない。

「手伝ってくれてありがとう。」
「別にいいよ。布団敷いてくるから、どいて。」

お姉ちゃんを押しのけるようにして寝室に入って、乱暴に布団を敷き始めた。
こんなことが、現実にあるんだ。頭打って性格が変わっちゃうなんて。まるでマンガみたいだ。心臓がドキドキする。

「明日菜ねーちゃんこえー。布団ぐっちゃぐちゃじゃん。」
「うっさいよ。早く寝るよ。」

絡んでこようとする弟を上掛けで押さえつける。ギャーギャー騒いで、全然言うことを聞かない。
「どうしたの、2人とも。お布団が乱れてしまってるわ。」
そこに、お姉ちゃんがひょっこり現われた。弟は標的を私からお姉ちゃんに変えたのか、腰をかがめて突進していく。

ちょ、ちょっと待って。その人は今までのお姉ちゃんとは-



「もう、暴れては駄目でしょう?」
押し倒されてベソかくかと思っていたら、お姉ちゃんはまた弟をギュッと抱いて止めてしまった。
「もう寝ないと駄目よ。また明日遊びましょう。お布団直してあげるわね。」
私達は逆らえずに、お姉ちゃんが手際よく整えた布団にねっころがった。

「お休みなさい。」
部屋の明かりをちっちゃい電球1個だけにして、お姉ちゃんが出て行った。



「ねえねえ、お姉ちゃんのことなんだけどさ。」
隣で寝そべってる弟に小さい声で話しかけた。
「今日のお姉ちゃん、どう思う?キモいよね?もっと男っぽかったよね?」
「それより、さっきちさと姉ちゃんにギューッてされた時顔におっぱいが当たってさあ。やっべー」
「あっそ。」

だめだ。男子って本当頼りにならない。バーカ。
中学生のおっぱいやべーとかずっと言ってる弟を無視して、お姉ちゃんが後で寝るスペースに視線を移した。

枕元に、薄いピンクの可愛いパジャマが綺麗に畳んで置いてある。
昨日まで着ていたTシャツ短パンが恥ずかしいと急に言い出して、ずっと前にママが買ってきたっきり一度も着てなかった女の子っぽいやつを、クローゼットから出してきたらしい。
あのよくわからないお姉ちゃんが、今日は隣で練るのか。いや、それどころかこれからずっと一緒に暮らしていくのかと思うと、なんかげんなりしてしまった。
変わってしまったお姉ちゃんが嫌だというより、自分がこれからどうしたらいいのかわからない。

リビングからはパパとママ、お姉ちゃんの笑い声が聞こえる。

ドアの隙間から覗くと、リップとパインを膝に抱いて微笑んでる姿が見えた。
うちのわんこたちは、結構人見知りだ。ああやって大人しく抱っこされているんだから、犬達から見たら今までどおり、優しくて可愛がってくれるお姉ちゃんなんだろう。
普段と何も変わらない風景の中に、性格だけ別人なお姉ちゃんがすっぽりと入り込んでいる。

あのまま家族になじんでしまうのかな。
パパとママはあんな調子で、弟はアホで、私だけがこうやってグズグズ悩んでいるみたいだ。



「もうそろそろ寝ますね。本当に今日は心配をかけてしまって、ごめんなさい。」
ヤバいな。そろそろお姉ちゃんがこっちに来そうだ。もうとっくに寝息を立ててる弟の方に体を詰めて、寝てるふりをした。
しばらくして、細く開いたドアの隙間から、お姉ちゃんがそっと入ってきた。

「もう、寝崩しちゃって。お腹が冷えてしまうわ。」
私と弟の夏がけを直してから、手早くパジャマに着替えたお姉ちゃんは、すぐに横になって眠ってしまった。
私や弟のスペースが狭くならないように、端っこの方で丸まっている。
それを見ていたら何か切なくなってきて、私は2人を起こさないように静かに部屋を出た。



「パパ。ママ。」
「明日菜。まだ起きてたの?寝られない?」
「ちょっと、話がしたいんだけど。」




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