“言葉にしたら壊れそうで怖くて いつもふざけあうことしかできなかった”
向かい合う私とみやびのまんなかで、まだ顔も幼い私たちが、無邪気に戯れているのが見える気がした。
“あの時 君を抱きしめる事が出来たら 運命は変わっていたのかな”
頭の中で、2人のシルエットが、ぴったりとくっつく。
「・・・運命は変えられたのかな」
最後の1節、私は無意識に、その歌詞を口ずさんでいた。みやびの声と、私の声が重なる。
もう何年もこうして声を重ねる事はなかったのに、ごく自然に馴染んで、絡み合って、まるで一人の人間の声みたいに響いた。
ごく短いピアノの後奏が終わり、しばらく体育館は静寂に包まれていた。
みやびは凛々しく前を向いて、愛理と嗣永さんは何処とも判断がつかない場所に視線を泳がせて。
――パチ、パチ
最初の拍手は、後方から聞こえてきた。
振り向くと、満面の笑顔の舞美。それから、目を真っ赤にしているえりかが目に入った。
どうやら、拍手をしてくれているのは、舞美みたいだった。
「・・・えーと、ア、アンコール!アンコール!」
「グスッ・・・、舞美、今の曲がアンコールだよ!」
2人のやりとりに、客席から笑いが起きる。それと同時に、拍手の渦が少しずつ広がっていって、やがて歓声が館内を包み込んだ。
「「「みやび!みやび!」」」
会場総立ちでの、みやびコール。
菅谷さんなんて、もう目を血走らせて、残念美少女に逆戻りだ。
「あのー・・・」
「「「みやび!みやび!」」」
深々とおじぎをするみやびの頭上に、まだなりやまない賞賛の拍手とコール。
真っ赤なサイリウムも、この一体感も素晴らしいけれど・・・だけど、これはみやび一人のライブじゃないわけで。
「ねえ、すがや・・・」
「みやび!オイッ!みーやび!オイッ!!」
――ああ、ダメだ、新しい次元へ旅立って行ってしまわれている。私の力じゃどうしようもない。
「あの、皆さん、ご清聴ありが・・・」
「「「みやび!みやび!」」」
せっかくみやびが挨拶してるっていうのに、菅谷さん以外のお客さんも、全くコールを辞める気配がない。
一体感というのは恐ろしいものだ。いつまでもこの熱狂に浸っていたいという気持ちと、Buono!のライブの終了時間を少しでも長引かせようっていう気持ちが、そうさせるんだろうけど・・・なんて、当事者のくせに、妙に冷静な分析が頭をよぎった。
しかし、こんな暴徒たちを、“彼女”がいつまでも放置しておくはずがなかった。
「・・・さぁーん・・・・・」
「「「みやび!みやび!」」」
「み!な!さぁあーん!!!」
――キーン、とハウリングの音。
その甲高いノイズにも負けないような・・・色で例えるなら、ショッキングピンクにドギツイ黄色のドットを足したような声が、ステージから観客席へと投げ込まれた。
一瞬で静まり返る場内。
モニターに映るのは、ツインテールの痛々・・・いえ、可愛らしい、あのお方。
御自慢の“ももちボイス”で、間違った方向へと向かっていた熱狂を鎮めた彼女は、いつもどおり飄々とした様子で“うふっ”と笑った。
「はぁーい、お静かに!・・・あのですねぇ、みなさーん!たしかにみやのパフォーマンスはすばらしかったですけどぉ・・・、今日は一体誰を見に来たんですかぁー?もぉいじけちゃいますよぉー?」
立見席の方から、うおーももちごめんねももち、とかって、男の人の野太い嘆き声が聞こえてくる。
それにつられるように、愛理のサイリウムを持っていた持っていた人は緑、嗣永さんのファンの人はピンクと、それぞれの持ち場(?)に戻っていく。
――やっぱ、ただものじゃないな。この嗣永さんて人は。
以前うちのかわゆいお嬢様にギャルメイクを施した熊井さんと、残念系美少女の菅谷さんを率いているだけある。
「いいですかぁ?今のはあくまで!特別編ですからぁ。こっからガツンと盛り上げていきますよっ!」
「ケッケッケ、もも張り切ってるぅ」
「では、次の曲いきますよ!真野ちゃんっ、準備・・・って、真野ちゃん!?」
最終更新:2013年11月24日 07:09