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「ひっく」

ピアノの横に併設されたマイクを通して、真野ちゃんのすすり泣く声が会場に響く。

「ちょ、え?真野ちゃん?」

舞台はナマモノ、とはいえ、予想外すぎる出来事に、私は慌てて真野ちゃんに駆け寄る。


「ごめ、なさ・・・ひっく」

必死で取り繕おうとするも、ほっぺを滑り落ちる涙は止まらない。

ステージ上では常に落ち着いて、安定したパフォーマンスをお客さんに見せたい私も、この不測の事態にはさすがに動揺を隠せない。

背中をさすって、スポーツドリンクを差し出して。


「・・・まーの、さんっ」
「まーの、さんっ」


お客さんたちからの、遠慮がちな真野ちゃんコール。・・・今年のお客さんは、やたら一体感があるなあ。
袖から心配そうに見守る千聖やくまいちょーに、ジェスチャーで指示を出そうとすると、「・・いいです、大丈夫です」と
ようやく落ち着いた真野ちゃんから、小声で告げられた。


「本当に?無理しなくていいんだよ?」

ももらしくもない、何て梨沙子あたりからクレームが入りそうだけれど、私は真野ちゃんには特別優しいと思う。
いつも一生懸命な子だし、こうやってBuono!の生演奏を買って出てくれたりする気づかいやさんだし、・・・まあ、なんていうか、私の友達の中では一番癖がなくて人間らしいというか・・・。


「少し、マイクをお借りしても?」
「あ、うん、どうぞ」

目を真っ赤にしながらも、いつもの凛々しい表情に戻っていく真野ちゃん。
大きなため息を一つつくと、マイクを手に、ステージの真ん中に向かう。


「皆様・・・お騒がせして、申しわけありませんでした!」

潔く頭をさげる姿が痛々しくて、私は慌てて隣に駆け寄る。

「ちょ、そんなマジにならなくてもぉ」
「言わせてください、嗣永さん。
ピアノ奏者として、このような素敵なステージに立たせていただいたにも関わらず、私の失態でアンコールの流れを止めてしまった事、深くお詫び申し上げます。
二度とこのようなことがないよう、気を引き締めてピアノ演奏をさせていただきたいと・・・」


――重い、重いよ真野ちゃん。
そんなに深く反省するような出来事でもないっていうのに、悲痛な面持ちの真野ちゃんからの真摯すぎるお詫びで、まるでまるでどっかの企業の不祥事会見のような雰囲気になってしまっている。

舞美とはまた違うタイプだけれど、真野ちゃんはいつも全力で、とても真面目に物事に取り組む。
号泣してしまった自分を、心から恥じているんだろう。
ドライと評される私としては、どう励ましたらいいのかよくわからず、お客さんと真野ちゃんを交互に見遣ることしかできない。


「・・・さきほどの消失点に、とても感動してしまって、それで私」

やがて、真野ちゃんはポツポツと話し出した。


「とても、とても強い愛情が、会場中を取り巻いているように感じました。
歌っているのは雅さんだけでしたけれど、皆さんでその愛を受け止めて・・・あ、愛理さんも、もも、ちゃんも・・・やさしい顔して、ヒック、踊ってて、赤いサイリウムも・・・ヒック、綺麗で・・・」
「真野ちゃん・・・」


舞台裏にスタンバイしていた真野ちゃんは、今日、みやと千聖の家のメイドさんの間に起きた出来事を知っている。
だからこそ、余計に感じるものが大きかったんだろう。情に厚く、人の気持ちを大切にする真野ちゃんらしい。


「わ、私、参加出来てよかったなぁって・・」
「うんうん、ありがとう、真野ちゃん」
「Buono!の一員でよかったなぁって・・・」
「うん、・・・はいい?」

おいおい、何を言い出すんだこの子は。


「あ、あのね真野ちゃん。Buono!はもぉとみやとあいりんのぉ」
「皆さんも、そう思いますよね?Buono!でよかったなぁって、今日、思いましたよね?」

ウォー


「いや、ウォーじゃなくて!」
「ももちゃん、みやびさん、愛理さん、そして私たちオーディエンス。みんながBuono!そう思いません?」

ウォー


「私たちは同じ宇宙船地球号に乗って、Buono!と言う名のサンクチュアリを目指すのです!今日はその第一歩!みなさん、乗船の準備はできましたかー!」


真野ちゃんの呼びかけに、惜しみない拍手で応えるお客さんたち。
即席で真野ちゃんボードを作って、掲げる人まで出てきてしまった。・・・ちょっと、もぉのお客さん取らないでよっ!

だけど、さすが生徒会長さんだけあって、不思議なカリスマ性で、観客席をまとめ上げ盛り上げている。感謝していいんだか、なんなんだか・・・。今年のステージは、予定調和を破壊する要素がとても多い。悪い気はしないけれど。


「ご清聴、ありがとうございました。」

真野ちゃんは粛々と再び頭を下げ、ピアノの位置まで戻っていった。


「・・・さー、それではアンコール2曲目になりまーす!」

ほどよく場内もあったまったところで、私たちはステージの真ん中に移動する。


「ケッケッケ」

隣の愛理が、噛み殺しきれない笑い声を漏らすのをキャッチした。

「ちょっとぉ~」

クレームをつけようとする私を制するように、愛理はバックバンドを軽く指さす。


「・・・・・・・えーっ!!!!!」

目を向けたその場所にいたのは、小さな体でおっきなギターを抱える、三日月目のいたずらッ子だった。

「ウフフ、ももちゃん」

ステージ上だっていうのに、アイドルももちだっていうのに。私はあんぐり口をあけて、千聖を凝視した。



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