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どうすんのそれ、千聖弾けるの?とか、
なんだそのドヤ顔は、とか、
いろんな疑問が頭を駆け巡っていく。


「もーも、集中っ」
「あ、あ、うん」

まさか、みやに注意を食らうとは。
そして、この反応だと、みやと愛理は千聖の飛び入りを知っていたんだろう。・・・やられた。サプライズは、さっきの消失点だけだと思ってたのに。



――ロッタラ ロッタラ ロッタラ♪


イントロのメロディが流れるとともに、観客席から声援が湧き上がる。
おっ、千聖のギターも、とりあえずは無難に音を奏でているみたいだ。ひとまず安心。
去年もかなり盛り上がったこの曲、アンコールに選んで正解だったようだ。


「今日の僕たちが~」


みやの声と、千聖のギターの音。両方に注意を払いつつ、自分のパートにも意識を向けるという、聖徳太子もびっくりな神経の使い方を余儀なくされる。
今のところ、千聖のは見掛け倒しじゃなく、ちゃんとギターを扱っている。

カッと目を見開いたまま、小声で「6の3・・・」「4の2と3の1と・・・」とよくわからない数字をつぶやいているのが耳に入った。・・・なんのこっちゃ。


「今日まで僕たちが 夢中になって探した~」

自分のパートを歌いながら、徐々に感慨深い気持ちが湧き上がってくる。
ああ、今年もいいステージだったな、なんて。

普段は学園随一の変人として名を馳せているこの私が、学園祭の期間だけは本当になってみたかった“私”に変身できる。
それも、大事な友達とともに。

セットリストを完璧にこなせた去年も、ハプニングだらけの今年も、同じぐらい愛しいと思える。
私たちはこのステージに本気で取り組んでいたし、お客さんも声援でそれに応えてくれた。
ステージ係の舞ちゃんやくまいちょー、千聖に有志のバックバンドさんたちだって、私たちのためにずっと頑張ってくれた。
誰か一人が欠けていたら、きっと今日のライブは成り立たなかっただろう。そういう意味じゃ、さっきの真野ちゃんの「みんなでBuono!」という主張もあながち間違ってはいないのかも。
友達以外の、それも不特定多数の人と心を1つに出来る機会なんて、そうそうない。
馴れ合いが苦手で、孤高の存在を気取っている私も、こういう時には強く実感する。・・・私は一人が好きだけど、独りじゃないんだなって。それはいつも忘れちゃいけないことなんだと思う。


「誰かが言った 幸せになるため生まれ~」

愛理の伸びやかな声。

“幸せになるため生まれ、そして誰かを幸せにするため生きていくんだ”

愛理にぴったりな歌詞だな、なんてしみじみ思った。
いつも私やみやに振り回されっぱなしで、大変な思いもたくさんしているだろうに、愛理はいつもニコニコ笑って受け止めてくれる。
それでいて自分の譲れない意見は曲げず、あくまでマイペースに人と寄り添うことができる。
愛理は楽しく生きる方法を、無意識に会得しているんだろうな。素敵なことだ。


「・・・2の4と3の1と4の4」

後ろでは、あいかわらず千聖が必死にギターを奏でていた。
そりゃあ軽音部のメンバーと比べたら、全然まだまだって感じの腕前なんだけれど、とにかく一生懸命なのが音に現れていて、不思議と惹き付けられる。


「3の1と5の6・・・」


――あ、わかった。

さっきからつぶやいている謎の数字。・・・あれ、多分ギターの弦とネックの押さえる位置を確認しているんだ。コードじゃなくて、わざわざ数字で。

「ウフフ」


なんて手間のかかることを・・・。千聖らしいというか、なんというか。袖から見守る舞ちゃんが、子供のピアノの発表会を見に来たママみたいな顔してるから、思わず吹き出しそうになった。


「「どれくらい~♪」」
「っ・・・胸いっぱいの愛を♪」

・・・ああ、いけない。このアイドルももちが、いろんなことに思考をめぐらせていたせいで、ソロパートの入りをトチッてしまった。これは来年の課題だな。


「「「ロッタラロッタラロッタラ♪」」」

“なんでー!!!”

「「「ロッタラロッタラロッタラ♪」」」

“ホントー!!!”


私の一番好きな、お客さんとの掛け合いパート。

みんなが私たちを見て、私たちと踊って歌う事で、楽しいって思ってくれてる。
アイドルやってていいな(アマチュアだけど・・・)って感じるのは、まさにこういう時。



「「「ロッタラロッタラロッタラ♪」」」」


最後のキメポーズ。
私がクネッと体をくねらせ、小首を傾げたところで、歓声と拍手のプレゼントを浴びせられる。
が、そのまま止まることなく、ドラム担当の子が“カチ、カチ、カチ”と拍子を取った。


「「「情熱のkiss~♪」」」


大トリは、オープニングと同じ、“Kiss!Kiss!Kiss!”。
事前調査でも大人気で、私たちも大好きな曲を選んだ。

私たちのイメージカラーの色紙が、天井からパラパラと降ってきて、お客さんのボルテージも最高潮。
熊井ちゃんが親指を立てて、ドヤッて感じのスマイルを見せ付けてきた。


ももちー!ももちー!
あいりちゃーん!みやびせんぱーい!!

私たちの歌声をかき消すかのように、声援が飛び交う。

それに触発されたのか、私の右横にいたはずのみやが、ステージの境ぎりぎりまで歩み寄って、そのままぴょんと観客席の方へ降りてしまった。


「ありのまま 素直な気持ち 全部♪」

ともすれば大パニックになりそうな状況だというのに、お客さんはみやに見蕩れているだけで、その体に触れようなんていう人は一人もいない。
・・・まあ、みやの客席降臨は本日2回目だからね。鬼より恐ろしい親衛隊長の梨沙子様もいることだし、即席の暗黙のルールみたいなのがあるのかも。


「精いっぱい 陽に向かって~」

とりあえず私は私、とマイペースに歌い出したところで、今度は愛理が視界から消えた。


「ケッケッケ~♪」

その笑い声を辿って後ろを向くと、千聖の肩を抱いてこっちへ向かってくる最中だった。


「え、あ、愛理?あの、何を?」

ギターは軽音部にさくっと返却させ、ほっぺをくっつけてマイクを千聖の口元に持っていく。
スキンシップが苦手な千聖に、あんまりベタベタする派じゃない愛理がこんなことをするとは。
でも、私は愛理が何をしたいのか何となくわかった。だから、みやが歌っている最中に小声で千聖にささやく。


「サビ!一緒に歌って、千聖!」
「えっ、えっ?」

サビ前のみやのパートが終わり、照明の色がイメージカラーの3色になる。


「情熱のKiss♪この青春にKiss♪」

私たちのハーモニーに、遠慮がちな千聖の声が加わった。
愛理は満足そうに笑っている。みやならともかく、愛理がこんな粋な暴走をするなんて。
わかっていたんだろう。袖からステージを見る千聖の目が、“ここに立ってみたい”って訴えかけていたのが。
気づいていても、どうすることも出来ない私と、行動に移せる愛理。勇気も優しさも、桁違いだ。
・・・ホント、このまま卒業ってわけにもいかなくなったな、うん。新たな課題も出来た事だし、来年もここでBuono!をやりたい。いや、もう決定したも同然だ。一皮むけて更に可愛くパワーアップしたももちを(ry



「――アイシテル♪」

そうこうしているうちに、みやがステージへと戻ってきた。・・・両手に美少女のお土産つきで。


「ちょっとぉ」
「でへへ。いいじゃん、お嬢様だってステージ上にいるんだし」


右手はアヘ顔の梨沙子、左手は鬼軍・・・もとい、岡井家の目力メイドさん。
お気に入りの2人を調達したみやびは、「一緒に!」なんて言いながら二人にマイクを押し付けた。

「・・・感動のKiss♪この瞬間にKiss♪」

メイドさんは、みやの要請を当然のように受け入れ、妙に場慣れした感じに歌い上げる。・・・なかなか、上手いじゃないの。


「い、いまがんばってグフフwwwだいしゅきムホホw」


――梨沙子隊長は、なんかもう、頑張ってください。いろいろと。


ステージの上に、私たち以外の、というか、この楽しい空間を一緒に造り上げてくれる人がいっぱいいてくれる。
この不思議な状況は、なぜか私を無性にわくわくさせる。
お客さんみんなに見てもらうだけじゃない。一緒に、楽しんでる。もうほんと、みんなでBuono!って感じ。ね、真野ちゃん!


「・・・みなさぁーん!」

私は声を張り上げた。

「一緒に歌って、踊りましょー!われこそはBuono!だっていう人は、どーぞステージに上がってくださぁい!」
「も、ももちゃん?」
「あがってくださーい!ケッケッケ」

愛理ものってくれて、みやがジェスチャーで促す。
後で施設管理の先生に怒られちゃうかも、なんて思いながらも、楽しい気持ちがあふれ出して止まらない。

「へい、いっちばーん!」

テンション高く、千奈美と佐紀ちゃんが駆け上がってくる。・・・御丁寧に、通りぎわに私のお尻をペチッと叩きながら。

「もも、よかったね友達いっぱいできたね!まぁはうれしいよ!」
「・・・お母さんかよっ」

ちょっと遅れてまーさ。

「ほーんと、今年すごいね!あはははは、私もBououono!だ!とかいってw」

「舞美そんなひっぱらないでよー!いいのウチらなんかが本当に上がって?」
「ちょっと待ってよこんなの規律が規則がギュフー!」

とまどう友達を連れてけるだけ引き連れて、全力生徒会長もステージ入り。

「ハァーンお嬢様!今度は栞菜の体をギターにしていいかんなっいい音色でいだだだだ」
「離れろよっ℃変態!ちしゃとは舞の!」
「あはは、うちもBuono!だー!ひーろーいーんー!!」
「それ、Buono!ちゃう!」

生徒会に、新聞部に、もぉ軍団に・・・私にとってはおなじみのメンツがさっさとステージを占拠して、あっというまにすし詰め状態。

ステージに上がっていないお客さんたちも、どんどん前へと詰めていって、オールスタンディングのライブハウスのような状態。
男性のお客さんが気を使って、後ろの方で応援してくれるのが、いかにも女子校の学園祭らしい。

この狂乱状態、お祭り好きの真野ちゃんも実に楽しそうだ。
気を利かせて、軽音部のみんなに合図を送って、再び“Kiss!Kiss!Kiss!”の大サビから演奏を始めてくれた。


「情熱のKiss!この瞬間にKiss!」

もう何人分だかもわからない歌声が、マイクで増幅されて観客席へと投げ込まれる。
お客さんたちも熱唱を返してくれて、会場中での合唱。
体育館の窓がビリビリ音を立てる。
誰もがほっぺを紅潮させ、この瞬間を楽しんでいる。

もし。もし仮に、来年も本当にここに立つことが出来たとしても、私は今日の光景を忘れないだろう。

熱狂は尽きない。
大サビのリピートは止まることなく延々と繰り返され、私は傍らの千聖にマイクを差し出しながら、何度も何度も声を重ね合わせた。



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