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ぱくぱく、もぐもぐ。

小リスのようにほっぺをふくらませて、お嬢様が目のまえのお皿を次々と空にしていく。


「このハッシュドポテト、とても美味しいわね、えりかさん。ロールパンも、バターが利いてて香ばしいわ」
「そうですねー、サクサクふっくらって感じで。よかったらウチのも、いかがですか?そのかわり、よかったらその・・・」
「あら、フルーツタルトかしら?いいわよ、差し上げるわ」


口の周りにケチャップをつけたまま笑う顔は、まるで小さな子供みたいで可愛らしい。
ついつい甘やかしたくなって、半分に切ったポテトを取り分けようとすると、いきなり手の甲を握られた。


「ん?」

見上げると、片眉を吊り上げためぐぅ。
そのまま、私の手を自分の皿へと押し戻すと、膝をついてお嬢様と目線を合わせる。


「なぁに、め・・・村上さん」

小首を傾げるお嬢様に構わず、大きな双眼で、ジロジロとその肢体を舐めるように見渡すめぐぅ。
失礼な奴だかんな・・・とか言ってる栞菜に、心の中でお前が言うなと突っ込みつつ、殺気溢れるメイド様の動向から目が離せない。


「失礼します、お嬢様」
「きゃあっ!何をするの!やめなさい!」

突然、お嬢様の脇にズボッと手を突っ込んで、その体を持ち上げるめぐぅ。
お使えしてるおうちのお嬢様、というより、重い家具でも持ち上げるような手つき。ああ、メイドさんも力仕事とかあるもんねー、なんてどうでもいいことが頭をよぎる。


「村・・めぐ!どういうつもりなの!私は赤ちゃんではないのよ!」

まるで小さな子に高い高いするみたいに体を揺すられて、お嬢様は真っ赤になっていく。
お嬢様も小柄だけれど、めぐぅも大して背が高いわけじゃないから、何だか異様な光景だ。


「め、めぐ。めぐったら!」

一呼吸置いて、呆然としていたなっきぃが慌てて止めに入る。

「どうしたの、めぐ?」

なっきぃの背後から、ウーッと犬の威嚇みたいな顔をして睨むお嬢様を気にすることなく、めぐぅはしばし黙り込んで首を捻る。


「めぐったら」

沈黙に耐え切れず、私が話しかけると、無表情のままめぐは「・・・・・・2kg」とつぶやいた。


「え?」
「肥えたな。どうもいつもと質感が違うと思ったら」


質感って、あんた。


「な、何を言っているのめぐったら!私は別に」
「めぐはお嬢様に厳しいんだよー」
「・・・ていうか、えりかもじゃね?」

キーキー騒ぐお嬢様を無視して、めぐは私をロックオン。


「うっ」
「どうなの?」
「えりかさん!めぐをやっつけてちょうだい!命令よ!」

17歳とは思えない幼い口調で、私に檄を飛ばすお嬢様。
片や、閻魔大王様のように厳格な表情で、私の回答を待つめぐぅ。・・・ごめん、梅田泣きそう。


「・・・えーと、でも、最近、ごはんが美味しい時節柄、いかがお過ごしでしょうかって感じでぇ」
「ああん?」
「いや、だからふよふよぷくぷくぷにぷに、そとはカリカリ中はふっくら・・・ああ、ウソウソ!最近自分でもちょっとぽちゃっとしてるなって思います、はい!うわーん!」

めぐぅの無言の圧力に負け、涙を流しながらの自爆。


「まあ、えりかさんたら!」
「うう・・・ごべんなさい、お嬢様ぁ。ウチが敵う相手じゃありません・・・」


そう、めぐぅの言うとおり。
最近私は、私服のスカートのチャックが上まで上がらないという大変恐ろしい自体に見舞われているのだ。

原因はわかっている。そう、食欲だ。恐るべし、食欲の秋!
私一人ならともかく、かわゆいお嬢様も育ち盛りの子犬のごとく、ぱくぱくとご飯を召し上がるもんだから、お互いに歯止めが効かなくなっているんだ。

「・・・で、でも、そんな気にするほどのことじゃ・・・だってそれでもウチらたぶん標準よりは軽いし・・・」
「そういうわけにはいきません。
えりか一人ならともかく、見なさいこのお嬢様のだるだるボディ!なんですか、この二の腕は!プニプニあごは!このたやすくつまめる脇腹は!」
「うーっ」


鬼軍曹から逃れようと、暴れるお嬢様。
負けじと押さえつけるめぐぅ。もはや取っ組み合いだ。・・・とてもメイドさんとお嬢様の関係には見えない。


「・・・まあまあ、確かにめぐぅのいう事も一理あるケロ、お嬢様」
「もう、なっきぃまで何を言うの!」

お嬢様の味方をするのかと思いきや、2人の間に割って入ったなっきぃは、意外なことにめぐぅについた。

「え、えりかさん・・・」
「ひーん、お嬢様ぁ」

身を寄せ合って怯える私たち。
℃Sなめぐぅは超楽しそうだし、なっきぃは風紀委員長の顔になっている。

「だって・・・2人とも、最近の自分たちの食生活を省みてほしいです!」

なっきぃはオレンジ色の手帳を取り出して、高らかに読み上げる。

「・・・例えば、昨日。
朝、お砂糖とバターたっぷりの食パン2枚に、焼オニギリ。スクランブルエッグとベーコンもたくさん食べてましたね」
「そ、それは・・・ひどいわなっきぃ、千聖を観察していたのね!」
「見てたの!しどい!」
「私は心を鬼にして言ってるケロ!・・・昼、ミートスパゲティにフライドポテトにチーズフライ・・・夜ご飯は、ラ、ラーメン2杯!春巻き3本!肉まんにデザートは杏仁豆腐と揚げダンゴ!ギュフー!」

・・・あ、ウチがおやつに作ったキャラメルバナナパフェはバレてないみたいだ。夜食のルマンド&コーラも。
首をすくめたお嬢様が、こっそり私に笑いかけてくる。

「・・・えへっ」
「・・・・・どうやら、余罪はまだあるようですが、すでにここまでで許容範囲超えてますよ、お二人さん」
めぐぅはギロッとこちらを睨みつけると、「とにかく、今日から甘やかしは厳禁ですから」と高らかに言い放った。

「えり、専門学校のファッションショーでモデルやるんでしょ?今のままでいいわけ?乗るぜ、腹の肉が衣装の上に!」
「ぐぐ・・・」

めぐぅは容赦なく、的確に私の現状を指摘する。

「私は、えりかのために言ってるんだからねっ」

・・・反論の余地なんて、あるものか。
甘やかされればズルズルとそっちへ流されていくタイプの私は、反面正論を突きつけられるのに弱い。
めぐぅみたいに、余計なことを言わずにシンプルに説教するタイプには、もう全面降伏しかない。


「・・・わかった、ウチ痩せるよ」
「もう、えりかさんたら!」
「わかってもらえてうれしいです。では、そんな今日から生まれ変わる2人のために」
「ちょっと何を勝手なことを千聖はフガフガフガ」


めぐぅはスタスタと食堂の大扉まで歩いていって、おもむろにドアを全開にした。


「・・・・・えー」
「2人のために、専属コーチにお越しいただきました!」


「えりー、お嬢様、よろしくねっ!あはは!」
「ふふん。ギチギチに絞ってやるでしゅ。フヒヒw」

そこに立っていたのは、いつものモサフリジャージのあの人と、全然似合わないタイトな黒スーツに身を固めた、我が寮随一の℃S様だった。




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