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「どうしたの。」
テレビを消して、パパとママは私が喋りだすのを待ってくれた。

「お姉ちゃんのことなんだけど。」
「うん。」

「あの、お姉ちゃんは・・・・・・頭が変になったの?心の病気とか。これから、そういう病院に通ったりしなきゃいけないの?」

声が震えた。
こういうことは簡単に言ってはいけないことだと、前に学校の先生が言っていた。
「明日菜。」
「私、お姉ちゃんをバカにしてるわけじゃないよ。でも、絶対に今お姉ちゃんはおかしい。パパもママも何にも言わないけど、そのこともおかしいと思う。」
瞼の裏がじわっと熱くなってきた。怒られるかもしれない。でも私は下を向かないでパパとママをまっすぐ見つめた。

ママが席を立って、私の隣に移動してきた。
「・・・・明日菜。言いづらいことを言わせてしまってごめんね。明日菜はお姉ちゃんが心配なんだって、ちゃんとパパもママもわかってるよ。」
「うん。」
緊張が解けて、じわっと涙がこみあげてきたから、慌てて思いっきり鼻をかんだ。

「お姉ちゃんのことだけど、パパと相談してしばらく様子を見ようってことになったの。
学校もそうだし仕事もこれから忙しくなるらしいから、病院へ行く時間を増やすよりも家でゆっくりできる時間を作ってあげたいと思ってる。」
パパがうなずいて、話を続ける。
「性格は変わったけど記憶には問題ないみたいだし、どっちみちしばらくは傷の手当てで通院はするから、何かあったらすぐ見てもらえるよ。」
「でも、でもさ。お姉ちゃんのファンの人はお姉ちゃんを嫌いになっちゃうかもしれないよ。今までと違いすぎるもん。」

お姉ちゃんは「少年」なんてあだながついてるぐらいボーイッシュなキャラだったから、全然違うお嬢様っぽいキャラになってしまったらきっとがっかりする人もたくさんいると思う。
キュートのメンバーだってあんなに戸惑っていたんだ。これって結構大変なことなんじゃないかな。
「そうだね。その話は、さっきお姉ちゃんともした。でもやっぱり、お姉ちゃんは自分の性格が変わったことがわからないみたいなんだ。
部屋が汚いとか、自分なりにいろいろ違和感はあるみたいなんだけど。
ファンの人と接する時はなるべく元の性格に近いように振舞いたいから、もともとどういう性格だったのか教えて欲しいって言ってた。
だから明日菜にも、お姉ちゃんのこといろいろ助けてあげて欲しいな。」
「うん・・・・・。わかった。でもやっぱり私は、元のお姉ちゃんがいいな。パパとママはそう思わないの?」
「思わないよ。ママにとっては、どんな千聖でも千聖に変わりないから。千聖が元に戻りたいっていうなら、いくらでも協力するけどね。」
パパもうなずいている。
そういうものなのか。私はまだ子供すぎて、ちょっとよくわからない。
「さあ、そろそろママ達寝るよ。明日菜も明日学校あるんだから、眠くなくてもゴロゴロしてなさい。」
「うん。お休み。」

抜き足差し足で寝る部屋に戻ると、相変わらずお姉ちゃんは幼虫みたいに小さく丸まって眠っていた。

「もっとこっち寄っていいのにな。」
私はタオルケットを体に巻きつけて、こっそりお姉ちゃんの背中に引っ付いた。
お姉ちゃんは体温が高くて、赤ちゃんのミルクみたいなちょっといいにおいがするから、
今までも内緒でくっついて寝たことが何度かあった。
今日のお姉ちゃんにも同じ事して大丈夫かな・・・としばらく様子を伺っていたら、
「明日菜。」
「うっわ」
もそもそと体の位置を動かして、お姉ちゃんが振り向いた。
「ごめん。あっち戻るから。」
「いいのよ。ここにいてちょうだい。」
お姉ちゃんは私の髪を何度か撫でて、優しく笑った。
ちょっとドキドキする。ずっと私より子供っぽいと思ってたのに、年齢よりずっと大人の女の人みたいに感じた。
「明日菜、もし私が何か不愉快なことをしたら、すぐに言って頂戴ね。
なるべく家族に迷惑をかけないように気をつけるから。」
「何で。迷惑って。別にいいよ今までどおりで。だって」

・・・家族でしょ。

そう言いかけて、私はママがいってた「どんな千聖でも千聖に変わりない」という意味がちょっとだけわかった気がした。
「明日菜?」
「とにかく、これからもいつもと同じだよ。お休み!」
全部言葉にするのは恥ずかしかったから、強引に遮って自分のスペースに逃げ込んだ。

「・・・・ありがとう。」
ちょっとだけ涙声でお姉ちゃんが呟いた。もう。泣かれると困っちゃうよ。
これからお姉ちゃんがどうなっていくのかわからないけれど、私がいっぱい守ってあげなきゃ。
「じゃあ今度こそお休み。」
「おやすみなさい。」
手を差し出すと、お姉ちゃんは笑って握ってくれた。いっぱい疲れて、いっぱい悩んだ一日だったけれど、どうやらいい夢が見られそうな気がした。



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