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授業の合間の休み時間。
数学のプリントを持って、席に戻ると、珍しく岡井さんが眉をしかめているのに気がついた。
なんか、あったんだろうか。いつもポケーッとしてて、ストレスとは無縁そうな人なのに。

無言でちょんちょんと肩を突付いたら、びっくりした顔で振り向いた。


「あ、ごめん」
「いいえ、こちらこそ。・・・少し考え事をしていて。何か、御用かしら?」
「んー、別に用事ってわけじゃ・・・何か、元気ないのかなって」

そう言ってみると、岡井さんはなんとなく寂しそうな顔で微笑んだ。
何か、子犬系の顔だから、雨に打たれた捨て犬を見たような気持ちになる。・・・お嬢様にむかって、失礼かもだけど。


「あのさ!今日、放課後、夏焼先輩が学園来るらしいよ!ついでにもももね。軽音部と会うらしいから、またBuono!やるのかなって、親衛隊のみんなと話しててぇ」
「まあ、そうなの?いらっしゃるの?」

ちょっと、目の輝きを取り戻す岡井さん。話題のチョイスは正解だったみたいだ。

夏焼先輩、もも、愛理で結成している、アマチュアアイドルユニット“Buono!”。
活動時期は主に学園祭。その完璧すぎるパフォーマンスは、学内や姉妹校、周辺の学校にとどまらず、地元のフリーペーパーとかでも取り上げられるほどのクオリティ。
夏焼先輩とももはもう高校を卒業してしまったけれど、署名活動とか(超頑張った・・・)ファンの声に応えてくれて、何度か再結成を繰り返している、伝説の三人組なのだ。

閑話休題。

「すぎゃさん、素敵な情報をありがとう」
「いえいえ、なんてったって同じ夏焼ファミリーの一員ですから。イヒヒ」

実は岡井さんたら、ステージ係でBuono!に係っていくうちに、夏焼先輩のファンになってしまったというのだ。
夏焼先輩の歌声が好きで、見た目も性格も憧れるなんていうから、ただいま先輩ファン(キリッ)として、いろいろレクチャーしている最中。
それにしても、こんな超絶レベルのお嬢様をとりこにするとは、さすが私の神様だ。この世の者とは思えない(以下絶賛の嵐)

「あ・・・ほら、これ。こないだ大学のイベントで、夏焼先輩が歌った時の写真。岡井さん、行けなかったんだよね?岡井さんの分もプリントしといたから、あげるね」
「そんな、気を使ってくださって・・・すぎゃさん、本当にありがとう。さっそく何かお礼を・・・」
「いいよいいよ、同じファン同士じゃないかぁ。それより、今度一緒にイベントのDVDでも見ようよ」
「すぎゃさん・・・」

岡井さんは他の親衛隊の子たちと違って、あんまりガツガツしてないとこがいいと思う(私が言うのもアレですが)。
競い合う感じになっちゃうと、せっかく好きな人のことを話してても、なんだか疲れちゃうもんね。


「これと、これと・・・ほら、これ。こっちの夏焼先輩とか、岡井さんごのみじゃない?イヒヒヒ」
「あら・・・」

タンクトップとショートパンツで、大胆におへそをチラリさせながら、笑顔でジャンプしているその写真。
でも、なぜか岡井さんはしょんぼりしてしまった。長い睫毛を伏せて、「・・・細い、わね」とつぶやく。

「へ?何?」
「みやびさん、とてもスレンダーでいらっしゃるわ」
「ああ、うん。かっこいいよね、スラッとしてて。でも、何でそこでへこむの?」

岡井さんは黙って、首を振る。
さすが不思議ちゃん魔女だ。何を考えてるのか、さっぱりわからない。喜怒哀楽がはっきりしてるのは知ってたけど、ポイントが独特すぎて・・・。
とりあえず、私は慎重に次の言葉を待った。

「・・・舞が、正しいのかもしれないわね」
「へえ?」

つん、つん。

岡井さんはなぜか、自分のおなかを指でぷにぷにと押していた。
その悲壮な顔と、行動のこどもっぽさのギャップがシュールで、思わず笑いそうになるのをあわててこらえる。

「・・・もし私が、みやびさんと同じ格好をしたら、おなかがみっともない感じになってしまうかもしれないわ」
「同じ格好って、夏焼先輩のコスプレしたいの?」
「そういうのも、楽しいかもしれないわね」

ふーん。なかなか、好奇心旺盛なようで。

「でも、別に全然太ってないじゃん?」
「昨日、舞とめ・・・村上さんに言われたのよ。食生活が乱れていて、体重が増えているんじゃないかって。
その時は反発したのだけれど、たしかに、ふだんより少し増えてしまってるというか」

うーん。そうなのかなあ。
毎日学校で会ってるから、そう言われてもぴんとこないんだけど。
舞ちゃんとかめっちゃ細いから、自分基準で考えたら、大体の子は太いってことになっちゃうんじゃないの?


「だからね、私、ダイエ」
「あ、待ってその話はしたくないなあ」

私は両手を岡井さんの目の前に突き出し、遮った。

実のところ、私も最近お父さんとお母さんから、ぽっちゃり傾向を指摘されているところだったりする。
ミソラーメンのおいしい季節だから、お気に入りのラーメンやさんに毎日熊井ちゃんと寄り道しているツケが回ってきているんだろう。(熊井ちゃんは全部縦方向にいくのがうらやましい・・・)

「すぎゃさん?」
「うん、もっと楽しい話をしよう!」

岡井さんは無邪気に人の心をえぐる天才だ。これ以上この手の話を続けていると、思わぬカウンターパンチをくらうハメになるかもしれない。

「そうだ、さっきの夏焼・・・」
「・・・んだからぁ~、言ってるじゃないですかぁ」

いきなり、後ろから誰かにギュッと抱きつかれた。
その手は私の首筋を妙に優しく撫でて、ぞわっと鳥肌が立つ。

「あばばばば」
「まあ、栞菜ったら!」

お嬢様のその声で振り向くと、切れ長な目が特徴的な美人さんが、なんともいえない不気味な笑みを浮かべて立っていたのだった。



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