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「わ、私にどうしろっていうの」

なんで他人のダイエットのことで、このような理不尽な目に合わなきゃならないんだ。
そう思っていると、「りーちゃん、他人事じゃないんだからねっ」と舞ちゃんの一睨み。

「りーちゃんも負けず劣らず、ぷくぷくぽん」
「あばばば、そりは言わんといてぇ」

もう、舞ちゃんたら容赦ないんだから!
自覚はあったものの、親以外の人に言われたのは初めてだ。
だけどあんまり躊躇せず言うもんだから、カチンときたりはしない。あ、はい、ですよねー・・・みたいな。
意外と気難しいと称される私には珍しい事だ。
それはきっと、舞ちゃんがとても素直でウソのない性格だから。私的には、有原さんみたくねっちょり責められるよりも説得力があるような気がした。


「決めた!ちしゃともりーちゃんも、2人まとめて舞が面倒見るでしゅ!
りーちゃん。今日のお昼ごはん、お弁当?」
「ううん。今日は学食にしようかと」

答えてから、しまった!と思ったけれどもう襲い。
みるみるうちに、舞ちゃんの可愛らしいお顔が、ドS様のそれに変化していく。
残念ながら私はMっ子じゃないので、舞様舞様オシオキキボンヌというわけには行かず、悪寒が体を突き抜けた。


「ちょうどよかったでしゅ。
舞特製のダイエットランチ、りーちゃんにも堪能してもらわないと。
ちしゃと、りーちゃん。後でお昼にね。楽しみにしてろでしゅ。ケッケッケ。
ほら栞菜、行くよ!」
「引っ張るなコラ!ぷにぷにシスターズよ、また後でね!絶対に阻止してやるかんな!グヒョヒョヒョヒョ」

歩きながらケータイを開いて、「ランチ1人前追加でしゅ。はぁ?オメーが学園にもってこいでしゅ!」とどこかに電話する舞ちゃん。いや、舞様。命令口調がナチュラルすぎる。

ザワ・・・ザワ・・・

嵐の如く、学園の有名人が去っていった後、私たちはクラスメートからの好奇の眼差しに晒されることとなった。

「お、岡井さぁん」
「気になさらないで、すぎゃさん。
千聖たちにお付き合いいただくことはないわ。まったく、舞ったら強引なんだから・・・」
「ん、でもいいよ。今日は舞ちゃんのプランに乗っかってみる」

そう言うと、岡井さんは不思議そうな顔をしながらも、曖昧にうなずいてくれた。
・・・まあ、私もお年頃ですし。ちょっとぐらい、ダイエット的な何かを体験してみてもいいんじゃないかと思う(ラーメン立ち寄りはやめないけどね!)。


「さーて、お待ちかねの時間がやってきたかんな!」

それから2時間後のランチタイム。
私たちは舞ちゃんのテリトリー、屋上の給水塔の影に座り込んでいた。

「何で栞菜まで来たんでしゅか」
「はーん、お嬢様在る所栞菜も在りって諺知らないの?」
「そんな諺あってたまるか」
「舞、栞菜、そんなことよりも、千聖はおなかがすいてしまったわ。早くお弁当を出してちょうだい」

岡井さんにせかされて、舞ちゃんはバッグからピンクの小さめなお重を2つ取り出した。いつもの岡井さんのお弁当箱だ。

「ごめんね、私の分まで。本当にいいの?」

「気にしないで。舞はレシピ考案しただけだし」
「調理は?」
「家来が。さっき追加分も持ってこさせたの」
「もう、舞ったら。おとなしいからといって、あの執事をあまり苛めないであげてちょうだい」

メッ、って感じに窘められて、若干嬉しそうな舞ちゃん。私にもやっとわかってきたぞ、この辺りの力関係が。


それにしても、舞ちゃんって家来とかいるんだ・・・。執事さんってことは、男の人なんだよね?全く未知の領域だ。お料理なんか、できるものなのかな?


「さ、開けて開けて!」

舞ちゃんにせかされて、岡井さんとせーのでお弁当の蓋を開けた。



「・・・・えー、と」


・・・何ていうか、プルプルした素材のものが、そこにはぎっしりと詰まっていた。


「初日のメニューは寒天でしゅ。舞特製・超超超低カロリー弁当、どうぞ召し上がれ!」


舞ちゃんは天使のように可愛らしい笑顔で、さも楽しげに私たちを促した。

・・・ああ、そうですね。いかにもカロリーありませんって感じだ。
ピンクやオレンジ、黄緑色に着色されて、星とかハートにくりぬかれた寒天達。お弁当用の串とかいっぱい使って、盛り付け方も可愛らしい。舞ちゃんのセンスか、家来さんのセンスか知らないけれど。
私はおそるおそる、真っ赤なお星様の寒天を口に運んだ。

「どう?」
「・・・おいしい。トマト味?」
「うん。野菜とか果物を磨り潰して、ピューレにしたんだってさ。糖分は一切使ってないみたい」
「それはまた、手の込んだことを・・・」

あれもたまには役にたつこともあるんでしゅね、とつぶやく顔は、完全に女王様だった。


「どう、ちしゃとは?美味しいの?」
「ええ・・・おいしいわ」


あいまいにうなずいた岡井さんは、うかない表情。
目が合うと、すがるような表情を浮かべてきた。

「・・・うん」
「・・・ええ」


何となく、言いたいことはわかる。

たしかに、野菜と果物の寒天は美味しい。・・・これがおやつだったら、良かっただろう。でも今は、ランチタイムなのだ。
くいしんぼうでしょっぱいもの大好きな私たちには、もの足りないどころの騒ぎじゃない。
そもそも、寒天ってお弁当箱いっぱいに詰め込んで食べるものじゃないし・・・食感もぷるぷるなだけで単調だし・・・味は薄目に抑えられてるし・・・



「さぁーて、私もお弁当食べるかんなっ」

そんな私たちをあざ笑うかのように、有原さんはおもむろにランチボックスを開く。途端に広がる、スパイシーな香り。

「・・・まあ、栞菜ったら!」

手のひらサイズの密閉容器が3個。
そこに、本格インド料理屋さんで出されるみたいなカレーが詰まっていた。


「付け合せはタンドリーチキン、チーズナン。美味しそうだかんな。ナマステー」
「あっ、ちょっと栞菜!舞の家来勝手に使わないでくれる?どーせ作らせたんでしょ?ってか、そういうお弁当でちしゃとの気引かないでよね!」


・・・よくわかんないけど、ご愁傷様です、家来さん。


「はーん?最初に言ったはずだよ。私はお嬢様のダイエットには賛成してないんだかんな。お嬢様、辛ーい料理はお好きですよね?寒天なんてやめて、こっち食べるかんな!
バターチキンカレー、グリーンカレー、レッドカレー。おやおや、下の段にはフライドチキンもあるみたい」
「カレー・・・」
「ダメ、ちしゃと!」


虚ろな表情で、栞菜さんのお弁当に引き寄せられる岡井さん。
その襟首をガッと掴んで、引き戻す舞ちゃん。つりあがっていく岡井さんの目じり。・・・ああ、修羅場が始まりそうだ。
私は寒天をもぐもぐ、若干御三方と距離を置いて、給水等の影に避難した。


「・・・少しぐらい、いいじゃない、舞」
「だめ!一口食べたら、もっともっとってなるでしょ、ちしゃとの場合。そんなカロリーの高いもん」
「あら、カロリーは1つの目安にすぎないのよ。カレーはカプサイシンやスパイスで新陳代謝が良くなって云々」
「・・・ったくちしゃとのくせに、そういう知識だけはいっちょまえに!とにかく、屁理屈言わないで今日は寒天!」
「フガフガフガフガ!」

じゅるり。美少女のキャットファイト、最高だかんな・・・

有原さんがケータイのムービーを構えるのを、私は涙目で見守った。寒天を食しながら。
もしかしてこの人・・・岡井さんのダイエット妨害のために、ハイカロリー弁当を持ち込んだんじゃなくて、最初からちさまいバトルをハァハァしながら観覧するために・・・?ああ、もうこれ以上このことについて考えるのは危険な気がしてきた。


「ごちそーさま・・・」


菅谷、じみーに寒天完食。
そのまま3人にバレないよう、抜き足差し足で給水等を降りた。

岡井さんには申し訳ないけれど、私のような一般人には、とても付き合いきれる世界ではなさそうなので・・・。とりあえず、ダイエット的な体験も出来た事だし、ここでドロップアウト!

屋上から階段でおりつつ、私はケータイをパカッと開いて、アドレス帳から番号を呼び出す。


「もしもーし、熊井ちゃん?今日の放課後なんだけど、新しいラーメン屋さん見つけたんだぁ。厚切りチャーシューで、味噌とんこつベースでぇ・・・」



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