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祭りは終わってしまった。
ずっと楽しみにしていて、実際本当に楽しかった。
学園祭、最高だった

いろいろな人に会えたなあ。
千聖お嬢様。
お姉ちゃん。
えりかさん。
栞菜ちゃん。
愛理ちゃん。
そして、舞ちゃん。
あ、あと熊井ちゃんも。

夢のような三日間だった。今は、真っ白に燃え尽きたようなそんな気分。心にぽっかりと空白ができてしまったような虚脱感。
ちょっと憂鬱な気分になりそうだけど、でも大丈夫。
またいつもの朝、ここで待っていれば舞ちゃんに会えるから。


日常生活が再び始まる。いつもの時間、いつものように寮生の方が歩いてきた。
学園祭のあと初めて見る寮生の方の姿が見えたとき、僕は運命というものを感じずにはいられなかった。
歩いてきたのは舞ちゃんだったのだから。

今日はえりかさんとご一緒にやってきた舞ちゃん。珍しいといえば珍しい組み合わせですね。
舞ちゃん、おはようございます。心のなかでつぶやいてみる。

挨拶なんてできない。絶対に出来ない。胸がはりさけそう。
以前の僕はこう思っていた。
でも今なら、挨拶ができそうな気がする。挨拶できたら何かが変わりそう。そんな気もする。

だから、歩いてきたえりかさんと舞ちゃんにペコッと軽く会釈する。
さすがに声に出して「おはよう」とまではなかなか出来ないけど、やっぱり。

ふたりともそれぞれ僕に気付いてくれた。
すると、えりかさんがさりげなく微笑んでくれた。
目立たないように気遣いしてくれたんだろう。本当にやさしい人だなあ。

そして、舞ちゃん。
先日の給水塔での出来事が思い出される。
僕と舞ちゃんが初めて心を通わせることが出来たあの日。
舞ちゃんと顔を合わせるのはあのとき以来になるのだが、今日は僕に微笑んでくれるのだろうか。
期待に胸が膨らむ。


もちろん、世の中そんなに甘くは無かったのだ。
舞ちゃんは、これ以上ないぐらい冷ややかな視線で僕を見てくれた。

・・・・・あれ?
どうしてそんなに冷たい表情なんだろう。おかしいぞ。

やっぱり今みたいな舞様の表情が舞ちゃんの素の表情だったりして・・・
僕には難しくてよく分からない。
舞ちゃんは一筋縄ではいかないな。

しかし、この舞ちゃんの冷たい表情もまたいいんだよね。
舞ちゃんに冷たい表情をされても、それほどショックを受けない自分がいる。
むしろ、そういう表情をされるとある種の嬉しい気持ちも感じるという、何ともいえない独特の喜びが味わえるのだ。
この複雑な感情は何て説明すればいいんだろう。

これはあれですよ。
多少のことには動じない。それだけの信頼関係を、僕は舞ちゃんとの間に構築したのだ(キリッ

そのまま行ってしまうのかと思ったら、予想外のことが起きた。
僕の前を通り過ぎて数歩行ったところで、舞ちゃんは立ち止まって突然こう言ったんだ。

「えりかちゃん、ちょっと先に行ってて」

舞ちゃんがそう言うと、えりかさんは優しい表情でうなずいた。
えりかさんの後ろ姿を見送ると、舞ちゃんは振り返って僕のほうを向いてくれた。

えぇっ!? 何だろう。今のえりかさんの表情も気になる。なんなんだ。
これは、ちょっと、というか、かなりドキドキする。

舞ちゃんはカバンの口を開いて、その中から何かを取り出してきた。

何だろう?
ひょっとして僕への手紙とか!?

そうか、ラブレターか! それか!!

僕のほうからそれを出す前に、彼女の方からアプローチしてきてくれるとは!
実に彼女らしい。なんとなく舞ちゃんは積極的なイメージがあるもんな。
やっぱり大切な気持ちを伝えるなら手書きの手紙ですよね、わかります。
そうか、僕のために昨晩は遅くまで一生懸命に文章を考えて手紙を書いてくれたんだな、きっと。
僕のことを思ってそこまでしてくれるなんて!
舞ちゃん、それに対する僕の答えは、もう決まってます。
僕も舞ちゃんのことが大好きです。だから、結婚を前提に付き合ってk


「これ、屋上に落ちてたから」

舞ちゃんの冷たい一言で我に返らされた。
彼女が手にしているのは、一冊の手帳。

あ、それ僕の生徒手帳。

無くしたと思ってずっと探してたんだ。
あそこに落としてきてたのか。



 * * *

「舞ちゃん、どうしたのそれ」
「落ちてたから拾ったんだけどさー、こういうのどうすればいいんだろう、えりかちゃん」
「拾ったとかw ひょっとして奴が昼寝してる間に掏り取ったんじゃないの?」
「すり取ったって何でしゅか。・・・ちょっと待て。昼寝してる間にってどういうことだ、この℃変態。おまえ昨日どういう行動をとってたのか言ってみろ」
「昨日ですかぁ? お嬢様とふたりっきりでデートしてたでしょ。で、火照った体と心を冷やすために屋上で涼んでたりしたんだっけ。お嬢様とのデートの後に」
「二度も言いやがって!」
「まぁまぁ舞ちゃん落ち着いて」

しょうもない言い合いを始めた二人を宥めながら、私はその問題のものを見つめていた。
テーブルの上に置いてあるのは、公立高校の生徒手帳。
栞菜はもうピンと来てるみたいだけど、その手帳の持ち主はひょっとして・・・

「中、見てみた?」

おそるおそる聞いてみると、舞様はぶっきらぼうに答えられた。

「見ないよ、プライバシーに関することだし」
「でもさ、中を見てみないと持ち主のこととかわからないよ」

ちょっと失礼して、それを手に取って見る。表紙をめくると顔写真が貼ってある身分証が見えた。
あ、やっぱり・・・あの子の手帳だったのか。

さらにページをパラパラめくると、とある異様なページが嫌でも目に留まった。

「岡井千聖岡井千聖岡井千聖岡井千聖岡井千聖・・・・・・」

びっしりと文字で埋め尽くされたそのページ。

うわぁ・・・・

あ、舞ちゃん、これ見たんだ。だから舞様の御機嫌が斜めなのか。
お嬢様がらみのことになると、この天才さんはとたんに冷静さを失ってしまう。

本人は決してそれを表情に出したりはしていないつもりなんだろうなー。
でも舞ちゃん、お嬢様のことで不機嫌になってる時はいつもそのお顔を見れば一目瞭然なんだよ。
そんな舞ちゃんが何故かとてもかわいい。
まだまだ中学生なんだなあ、なんて年上ぶって思ってたら舞様にちょっと睨まれてしまった。


でも、これ男の子が書いたような文字じゃないな。
じゃあ誰の字なんだろう、この達筆は。


「もう、舞と栞菜はケンカしないの。仲良くしなさい、命令よ!」

お嬢様登場。
抱きつこうと飛びついた栞菜を、お嬢様の後ろに控えていためぐが排除している。
舞ちゃんがあわてて開いていた手帳を閉じる。

「あら、何をなさっているの?」
「舞ちゃんが落し物を拾ったんだって。これです、公立高の生徒手帳。それで中身を確認していたんですよ」
「それは落とした方もお困りでしょうね。生徒手帳ならどなたのだか分かるんだから、お届けしてあげればいいわ」
「そうだよ。舞ちゃん、返してきてあげなよムフフ」
「うん、それがいいかんな。拾った人の責任だかんなフヒヒ」
「えーっ・・・ やだよ、めんどくさい」

「それなら千聖が返してきてあげましょうか?」
「えっ!?」
「車で向こうの高校に寄ってくればいいだけですから。明日にでも帰りに寄ってきてお返ししてくるわ」
「でもお嬢様、普通の公立高校に黒塗りのリムジンで乗りつけたら、いくらなんでも目立ちすぎませんか」
「そうかもしれないけど、だってしょうがないじゃない。誰かが返しに行かないといけないのだから」

「いい。舞が自分で返す」


 * * *


「探してたんです。届けてくれてありがとう」

「・・・・・」

舞ちゃんはその冷たい表情を崩さなかった。
そして、ゆっくりと舞様が僕にこう言ってくださった。

「熊井さんの字はなかなか達筆でしゅよね」

??

「熊井さんと知り合いなんだ」
「え? は、はい。まあそんな感じで・・・」
「どういう関係なの?」
「小学校のとき同級生だったんです」
「一番最近で会ったのはいつ?」
「学園祭のときに。一緒に模擬店に入って・・・」

取調室で尋問されている被疑者の気分ってこういう感じだろうな、なんてどうでもいいことを思う。
話しの流れで完全に受身になってしまったが、全てバカ正直に答える必要はないということに今更気付いた。
行ったのは舞ちゃんのクラスでしたよ、なんて思わず余計なことまで言いそうになったし。危ない、危ない。
あの時のことが舞ちゃんに知れたらと思うと、今でも冷や汗が出てくるんだ。

「ふーん。 あ の 熊井さんと知り合いねぇ・・・」

舞ちゃんはずっと僕を直視している。
普通誰かと2人っきりで顔を合わせている時って、たまには目を泳がせたりもしそうなものなのに。彼女の気の強さがよく表れてるなあ。
いや待てよ、これは僕が相手だからか? 一瞬でも視線を外したくないと。そうか、そうに違いない!

そう思って一人盛り上がっている僕に舞ちゃんが言った。

「じゃあさ、お願いがあるんだけど」

え? 今お願いって言った?
舞ちゃんが僕に頼み事をしてくれるなんて! 何という光栄。嬉しすぎる。
何でしょう? 何なりとお申し付けください。舞ちゃんのお願いなら例え火の中水の中。

「熊井さんが千聖に悪いこと教え込んだりしないように、熊井さんを見張ってて貰えるかな」

わかります! それはひじょーに心配ですよね。
お任せください。熊井ちゃんの行動を注意して見ていればいいんですね。お安い御用です!
舞ちゃんのために誠心誠意頑張ります!

「はい! 任せてください! 不惜身命を貫く覚悟で任務に邁進させていただきます。舞ちゃんにいい報告ができるようにがんb
「いちいち報告は不要。その都度、現場判断で適宜適切に対処してくれればいいから」

テキギテキセツに対処って、要するに僕に熊井ちゃんを抑えろってことですよね。
舞ちゃんのお願いだから精一杯の大見得切っちゃったけど、そんなこと僕にできるんだろうか。

落ち着いて考えてみると、自分の能力をはるかに超えている任務のような・・・

でもいまさら、無理です出来ませんなんて舞ちゃんに言えないよ。
まあ、いざとなったら熊井ちゃんを抑えるには、あれを使うしかないな。
ドラキュラにニンニク熊井にトマト、ってね。しょうがない、いつも持ち歩くとするかトマト。


「ひとつ言っておくけど・・・・」


「失敗は許さないから」

こ、怖い・・・
これは舞様の命令なんだ。覚悟を決めてやるしかない。
引きつった顔でコクコクと頷く僕に、舞ちゃんは更に続けて質問する。

「それから、もうひとつ。これは確認なんだけど、ちしゃとの“一番”に該当するのは誰だと思いましゅか?」

その質問の意味するところは・・・ 怖すぎる。
質問の内容が非常に幼稚なところがまたなんとも恐怖心を煽る。

「も、もちろん舞様だと思います・・・」
「ふん、わかってんじゃん。それならいいんだよ。わかってるんなら」

これまた怖い・・・・ 本当に怖い・・・・
こんなわざとらしい答えであっても、僕のその答えに一応満足していただけたのか、舞ちゃんはそこで踵を返して学校へと向かって歩き出す。
そのとき、まるでテレパシーを受信したかのように伝わってきたんだ。

(有原に簡単に取り込まれたりするんじゃねーぞ、おまえ)

えっ、舞ちゃんが言ったのかな今の。空耳か? でも確かに聞こえたような・・・

この一連の舞ちゃんのメッセージを総合してみると、学園祭での僕の行動のことを言っているのだろう。
なぜ知ってるんだろう・・・ 彼女には僕の行動がお見通しなのか。だが、そのことに何の違和感も感じさせない。

これが“舞様”か。

今日はまた一段と迫力ある表情だったなぁ・・・
この表情の怖さ、本当にハンパないよ。
舞ちゃんのこんな怖い表情を見られるなんて今日は、
なんてツイてるんだろう!

なんかとても嬉しい気分になった。
舞ちゃんの怖い顔を見られたことももちろん、舞ちゃんが僕にこんなに話しかけてくれるなんて。
まぁ、その内容はともかくだが、そんなことは大して問題ではない。
重要なのは、舞ちゃんが僕と会話を交わしてくださったということだ。

2人の距離がだんだん縮まっているような気がする。
僕は天にも昇る気持ちで学校に向かった。






(o・ⅴ・)<毒を持って毒を制すでしゅ。一石二鳥。
リl|*´∀`l|<(熊井さんの毒性はそんなヤワじゃないんだよきっと・・・)


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