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“えー、それではただいまから、ビンゴ大会を始めたいとおもいまーす!”

臨時で設置されたスピーカーから、新聞部の徳永さんの可愛らしい声が響いた。


「愛理、もっと前に行きましょう」
「あ、はい」

促されるままに、特大のビンゴパネルの前までお嬢様と一緒に移動する。
好奇心旺盛かつ負けず嫌いなお嬢様、なにげにこのビンゴ大会に闘志を燃やしているようだ。
校庭にいる大多数の生徒さんたちも、この催しに参加するらしく、にわかに辺りがざわついてくる。
私はふと、舞ちゃんたちを目で探した。
人がいっぱいいるとはいえ、いればなんとなくわかるかなぁなんて。
でも、舞美ちゃんやえりかちゃんたちの姿は見えたというのに、舞ちゃんや栞菜、それに、なっきぃはいないみたいだった。
もぉ軍団さんたちのとこにもいないようだし・・・めぐぅとみやはもう、2人の世界って感じで、1つのビンゴを片手で持ち合ってて、あんなとこにお邪魔できるはずもない。


「ねえ、お嬢様・・・」
「愛理、集中するのよ。こういうゲームは、運だなんて思っていては駄目。気迫で幸運を引き寄せるのよ」

――ふむ。今はこっちに集中したいってわけか。
よくわからないポイントで、ものすごい集中力を発揮するのはいつものこと。
今は構ってもらえそうにないから、私もビンゴに集中することにした。


“あー・・・で、今年の景品なんですけどぉ・・・えーとぉ”

軽妙なMCを披露していた徳永さんが、ふいに言いよどむ。

何か、手違いでもあったのだろうか。
去年のビンゴ大会は、学食無料券1ヶ月分とか、・・・恥ずかしながらBuono!グッズとか、結構盛りだくさんだった。

今年は景品なしとか?あるいは、ガクッと景品のクオリティが下がってしまったとか・・・。

徳永さんの露骨なトーンダウンを受けて、俄かに生徒もザワザワし始める。


“あー、えーっと!ありますよ?景品は。ちゃんとそれなりに素敵なものも、ね”

「も?」
「ああ、もう、景品は何でもいいのに。早くビンゴゲームを始めたいわ。ね、愛理?」

・・・みんなとはまったく違う理由で、そわそわしている方もいらっしゃるみたいですけれど。

“えー、じつはさっきですね、ビンゴの景品が一部変更、いや追加となりましてぇ”

追加なら、いいお話だと思うんだけど。なぜそこで言葉を濁すのか判らない。
しばらくもごもごと何か言っていた徳永さんは、「あー、もーめんどくさいっ!とりあえずステージをご覧ください!」といきなり声を張り上げた。


カードとにらめっこしていたお嬢様も、反射的に顔を上げる。


「まあ・・・!」

特設ステージには、長机が連なっていて、そこに大きなぬいぐるみやら、ゲーム機やら、景品のグッズが並んでいる。
そして、その横には・・・


「・・・ケッケッケッケッケ」


絶句するお嬢様の横で、私は乾いた笑いを漏らした。
一体全体、これはどういうことだ。


“えー、つまりこれが、いや、この方たちが、追加の景品となっております”

苦笑気味に徳永さんが指さす先にある、いや、いるのは、頭に大きなラッピングリボンを巻いた、舞ちゃん・栞菜・なっきぃの3人だった。

ざわざわ程度だったざわめきが、ついに驚きの「えーっ!!」という悲鳴に変わる。
舞美ちゃんたちも何も知らなかったらしく、首を捻ったまま3人を凝視している。


「・・・一体、どういうことなのかしら」

さすがに度肝を抜かれたのか、お嬢様が首を傾げてつぶやく。


“えー、静粛にお願いします!じつはうちもよくわかんないんですけどぉーって、ちょっと!なにすんだよっ”

言いかける徳永さんから栞菜がマイクを奪ってつなげる。


「まあまあ皆さん、落ち着いてほしいかんな。
これには深い事情がありまして」

さらにそのマイクをぶんどった舞ちゃんが、じつに、じつにわざとらしい笑顔でウフッとはにかむ。・・・可愛いけど、怖いです、舞様。

「今回の学園祭が大盛況だったのは、ひとえに皆さんのおかげであると、生徒会一同深く感謝を申し上げる次第でありましゅ。
その御礼と言ってはなんでしゅが、生徒会メンバーを代表して、舞たち3人が、ビンゴ当選した生徒さんの言う事を、1つ何でも聞いちゃうぞキャンペーンを行う運びとなりました!」


――えーっ!!
――すごーい!!!


拍手と歓声が上がる中、聞いてない聞いてない!と首を振る茉麻ちゃんや佐紀先輩が目に入る。
もちろん、私だって知らなかった。当然、お嬢様も。
それに、生徒会からの・・・って、つい先日、補佐としてメンバー入りしたばかりの舞ちゃんが、なぜ。
ダメとは言わないけれど、なんだろう、これ、一体。


“ビンゴの景品は、1等とかそーゆーのはないんで。
1列そろえた人から、好きなのを取っていってください!以上!”


あからさまに疲れた感じの徳永さんが締めて、とりあえず説明終了。


「ねー、すごくない?」
「あの中島先輩が何でも・・・って、何でもだよ?」
「どーしよう!ほんとやばい!私、どうしよっかな。有原先輩かな、それとも・・・」


まあ、よくわからないけれど、周りの声を少し聞いてるだけでも、かなり好評なのは伝わってきた。
清水先輩たちがいるあたりでも同じ感じになってるらしく、とりあえず静観することにしたみたいだ。・・・別に悪いことしてるわけじゃないしね。


「ウフフ、面白いことを考えるのね、舞たちったら」
「そうですねぇ・・・でも、はたして思い通りになんていくかな?舞ちゃん。ケッケッケ」
「え?愛理、何か?」
「いーえ、お嬢様。ビンゴ、始まりますよぉ」


“では、まず最初!番号は32番!該当のマスがある人、開けてくださーい!”
「32・・・千聖のには、ないようね。愛理は?」


ビンゴカードをまじまじ見つめるお嬢様のつむじを眺めながら、私はムフフと笑いを噛み殺した。
なんとなく、わかってしまった。なっきぃはともかく、舞ちゃんと栞菜の意図。

2人はおそらく、お嬢様に選ばれようとしている。どっちがお嬢様の景品となれるのか。それを競い合うためだけに、こんな暴挙に出ているといっても過言ではないだろう。

それが証拠に、ステージ上の2人がじーっと見つめているのは、私の斜め前、一心不乱にカードと台上の数字パネルを見比べるお嬢様。

さっき徳永さんが言ってたように、景品は何等とか、番号が割り振られているわけじゃない。
だから、じっと待つつもりなのだろう。見事列をそろえたお嬢様が、自分たちのどっちかを選んでくれるのを。

なっきぃは・・・どうかな。多少舞美ちゃんとか、お嬢様に選んでもらいたいっていう色目もあるかもしれないけど、純粋に生徒のお役に立とうっていう気持ちのほうが強いんじゃないかと思う。
そこを見越して、舞ちゃんと栞菜は、なっきぃを説得して仲間に引き入れたに違いない。2人だけじゃ、どうにも怪しいもんね。純タイプの優等生が、一人いないと、こういうことは。


“はーい、次!45番っ!どうですかー?ビンゴした人はー?”
「・・・まだ開かない。私、悔しいわ、愛理」
「ケッケッケ、私は2つ開きましたよー。まだまだ、これからです」


――だけど、舞ちゃんも栞菜もわかっていないんだ。
お嬢様以外に自分たちのことを選ぶ人なんていない!なんて思ってるみたいだけど、実は隠れファンが多かったりするのだよ、君たちには!

舞ちゃんなんて特に・・・普段が普段なものだから、いつもは声をかけられずに遠巻きにしてる子だってたくさんいる。
隠してるけど、バレンタインも結構な数の匿名チョコを貰ってるの、知ってますぞ。ケッケッケ。


“はーい、じゃあ次、11番・・・あっ、ビンゴですか!おめでとーございまーす!どうぞ壇上へ!”


そのうちにちらほら数字をそろえる生徒が出てきて、景品を取りにステージへ上がっていく。


「おめでとー!景品、どーしますかー?」

最初にマイクを向けられたのは、和風美人って感じの子。
大人っぽくて、同学年~上級生に見えるけど・・・どうだったかな。制服は赤だから、中等部か。どっかで、あったことがあるような?

彼女は物品の景品には目もくれず、私の残念なお友達×3へ顔を向ける。
美少女図鑑をアップデートしてるのか、異様な目つきの栞菜。舞のこと間違ってもえらぶんじゃないでしゅよ、とばかりに威嚇する舞様。
その横を颯爽と横切ると、迷わずスッと白い手を差し伸べる。


「・・・中島先輩、お願いします!」
「私!?」

物腰柔らかく、でもまったく臆することなく、その子はにっこり笑ってうなずいた。
――その笑顔で思い出した。たしか、初等部との交流会で、なっきぃとペアを組んだ子だ。バレンタインにチョコを貰ったケロとも言ってたっけ。

「み・・・みずきちゃん。私でいいの?別に、学内で会えればいつでも話せるよ?もし何か悩んでるなら、こういう機会じゃなくても相談乗るし。普通に景品貰ったほうが」

気づかいの人、なっきぃの大慌てトークにも笑顔で首を振り、「中島先輩が欲しいんです」と繰り返す。
・・・なにそのイケメン発言。本当に、積極的な下級生が多いものだ。なっきぃ、顔赤くしちゃって。

「じゃ、じゃあ、今度1日デートでもしよっか」
「はい、ぜひ!」


無事にカップル(?)が成立したのを受け、俄然熱気が高まる場内。


普通に景品狙いの子はもちろん、舞栞菜狙いの生徒もいるんだけど・・・あの“おめー、空気読むでしゅ”みたいな殺戮ピエロ的圧力には尻ごみするようで、指名はなかなか入らない。

「・・・もう!見て、愛理!千聖の、もう少しなのに!なかなか揃わないのよ!」

こちらにも、ヒートアップしてぴょんぴょん跳ねてる御方が一人。
見ればリーチの列が4本もできているのに、最後のマスを埋める数字が一向にやってこないらしい。

「わかりますよ、こういうのじれったいですよね」
「悔しいわ。大きな熊さんやすぎゃさんは、もう列をそろえたみたい」

見れば、「わくわくたんけんセット」と書かれた大きな箱(それ初等部の子用じゃ・・・)を持った熊井さんと、みやびグッズに囲まれて顔面を崩壊させてる梨沙子の姿。
そんなつもりは毛頭ないのだろうけど、その幸せそうな表情は、お嬢様の闘争心を煽るようだ。


「ケッケッケ。まあまあ、私と一緒に頑張りましょう、お嬢・・・」
“じゃ、次の数字いきまーす!はい、26番!”

――あ、やっちゃった。

励ましの言葉を送っている最中、読み上げられた数字によって、私のビンゴカードは斜めに穴をそろえてしまった。

「・・・愛理」
「あ、あはは~・・・」

なんとも気まずい沈黙。
それでも持ち前の社交性をフル稼働させたお嬢様は、口の端をヒクヒクさせながら、「おめでとう、愛理」と言ってくれた。涙目で。


「あ・・・じゃ、じゃあ、私、景品を。あの早くお嬢様のカー§4%#Q=*;!」

慌ててカミカミになりながらステージへ上がろうとして、階段にスネを打つ。・・・うう、痛い。

「ふふん。ちょっとカッパさーんなにやってんのー?大丈夫ー?」

ケラケラ笑いながらからかってくる景品さんの、小生意気な笑顔。
ふと、私はあることを思いついた。・・・ブラック愛理、降臨。


「おーめでとー!景品は決まってますかー?」

徳永さんにジェスチャーで“OK”を送ると、そのまま一直線に足を速める。


「ケッケッケ♪」

そして、私はその細い肩をポンポンと叩いた。


「ん?なんでしゅか?」
「私、舞ちゃんにしまーす!!」



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