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雑誌の取材の空き時間。
控室にいるのは、私たち娘。9期メンバーのみ。
そのせいか、先輩たちがいるときよりも、まったり、いや、だらーんとした緊張感のない雰囲気になってしまっている。

「うー・・・」
「でさー、あの雑誌で特集してたスカートが・・・」
「ぬー・・・・」
「えりぽん、ちょっと待って」

テンション高い衣梨奈を片手で制して、私はさっきからうなり声をあげてる香音の頭をちょんちょんと突付いた。


「どうしたの?」
「むー・・・」

テーブルに伏せて、目線だけこっちを見るその仕草は動物・・・犬っぽくて、思わずわしゃわしゃって髪の毛を撫で回したくなる。

「ねえ、どうかしたの?」
「いやー・・・」

いかにもかまってほしそうにしてるくせに、何も言い出してくれないものだから、退屈になった私は、頭の中で連想ゲームを始める。

香音っていっつも明るくて面白いな。さっきも思ったけど、そう、犬みたいだ。元気な犬。バタバタバタって大き目のしっぽをふって、はしゃいでるやつ。そうだ、犬っぽいといえば・・・


「あのさ!里保ちゃん!岡井さんのことなんだけど!」
「うえっ!?」

いきなり体を起こして、大きい声を出すもんだから、きょどってしまった。

いや、それだけじゃない。今香音ちゃんが口にした名前は、ちょうど私の頭に「犬っぽい」で浮かんでいた人だったから。タイムリーな出来事に、思わずにやにやしてしまった。


「あれ、笑ってるってことは、知ってるの?」
「え?」
「里保ちゃんも見ちゃった系?」

いたって真面目な顔で、私の手をガシッと掴む香音。

「・・・いや、私のは思い出し笑いだから。なんも見てないよ」
「何何何?見ちゃったって?岡井さん?何のこと?」

放置状態だった衣梨奈も話に加わってきて、やっと自分のターンになったから、香音ったら嬉しそうな顔しちゃってる。


「何かね今トイレ行ったら、洗面所に岡井さんと萩原さんがいたのね」
「・・・香音ちゃん、岡井さんの話?」

すると、今度は聖が横から口を挟んで止めてしまった。

「岡井さんのこと、でしょ?」

端で一人、嗣永さんのグラビア写真に見惚れてたはずなのに、今はなんだか怖い顔をしている。


「え・・・そうだけど・・・」

明らかに動揺している香音。私は大丈夫だよって背中をなでてあげた。

「どうしたの、聖ちゃん。この話、ダメ?」

問いかけても答えは返ってこなくて、気まずい空気が流れる。

こういう時、衣梨奈ならおかまいなしに喋り続けるんだろうけど、香音はわりと空気を読む。
聖・・・どうだろう。娘。メンバーとして結構親密に付き合ってるつもりだけど、どんどん印象が変わる不思議な子。マイペースだとは思う。笑いのツボや興奮するタイミング、今みたく怒り出すポイントもよくわからない。


「・・・何かまずいの?岡井さんの話」

スタッフさんとかマネージャーさんに怒られてる時みたく、ションボリしてる香音ちゃん。
いっつも明るい子が、元気を無くしちゃうのって、なんだか・・・嫌だ。

「そんな怒らなくても。私香音ちゃんの話聞きたいな」

もう一度切り出してみると、聖はハッと息を呑んで、それから、軽くため息をついた。

「違う・・・怒ってないよ」
「え・・・」
「ごめんね、ちょっと私」

聖はケータイ(と写真集)を持って、外へ出てしまった。
香音は完全に青ざめてるし、こりゃ気まずい空気・・・


「・・・・え、でも怒ってたよねー?怖くない?てか聖ちゃん見た目ほどおっとりじゃないよねー?まーそれはいいんだけどさーてかどうしたんだろう?」

・・・にはならなかった。“KY”という衣梨奈の公式(?)キャラが、今はとても頼もしく感じられる。

「ていうか、さっきの岡井さんの話聞きたいな!何かあったの?それとも何か話したの?」

そのテンションに助けられるように、香音ちゃんの顔に笑顔が戻ってきた。

「はい、これ!」
「おーありがとー里保ちゃん!むぐむぐ」

差し出したチョコと飲みかけのサイダーをごくごくと摂取すると、香音は唐突にこんなことを言ってきた。


「2人ってさー、岡井さんのことどういう人だと思ってる?」
「どう・・・」
「岡井さんいいよねー!コンサート観に来てくれたとき、私のイメージカラーのサイ振ってくれたし」
「うん、私も好き!」

そのまま2人は岡井さんトークで盛り上がっている。

岡井さん、か。

まだ全然、2人で話したことなんかはないんだけど、明るい人だなって思う。
背は低いけれど存在感があって、いつも楽しそうな輪の中心で笑っているイメージ。
同じ℃-uteの萩原さんや中島さんとよく一緒にいるみたいだけど、通りがかりのベリーズのメンバーさんにちょっかい出されてたり、満遍なく好かれてる感じ。
あとは・・・さっきも感じたけど、香音ちゃんに似てるとこがあるのかも。ムードメーカーなところとか。

「岡井さん、優しいよねー」
「わかる!いっつも気配ってくれるし」
「モベキマスの全体ミーティングの時とか、もっと前で聞いたほうがいいよ!って場所を譲ってくれたりして」
「うちらが加入したての時さ、一緒に写真を撮ってくれたよね」
「それ、ブログに載せてくれたんだよね」


――だめだ。話してると楽しすぎて脱線してしまう。
これが9期の良いとこでもあり悪いとこでもあり・・・って、注意されたばっかりだった。
今は聖ちゃんもいないし、楽しくてはっちゃけすぎちゃう2人に変わって私が。
そう思って、トークの修正を図ってみる。

「・・・あー、あのさそれはまあいいとして、香音はさっきなんであんなに考え込んでたの?岡井さんのことでしょ?」

すると、香音ちゃんの顔がまた強張る。

「あー・・・何か、でも、うん」
「何?気になるじゃん!言いかけてやめるのって一番やなんだけど」


衣梨奈ちゃんの言い方は結構キツい感じだったけど、香音はそれで踏ん切りがついたのか、「・・・これ、うちらだけの秘密にしてほしいんだけど」と真面目な顔をした。

「わかった誰にも言わない!」
「うん、大丈夫だよ」

ま、私たち以外誰もいないんだけど、ナイショ話の基本として、3人で丸くなってすみっこに移動する。


「岡井さんって、明るいじゃん」
「うん」
「元気じゃん」
「だね」
「どっちかって言うと男らし・・・男の子っぽいでしょ?」
「香音、もったいぶらない!」

結構短気な衣梨奈からの横槍に、慌てる香音。

「あ・・・だから、私見ちゃったんだけど!岡井さんが、お嬢様言葉で喋ってたの!萩原さんと!ふざけてる感じじゃなくて、ガチで」
「お嬢・・・」

予想もしてなかったその発言に、私と衣梨奈はキョトンとしたまま絶句した。
言ってる意味が、わからない。

「・・・やっぱり、その話か」
「「「あっ!」」」

しまった!せっかくの密談だったのに、後ろを取られていることに気がつかないとは!

いつのまにか戻ってきていた聖が、腕組をして私たちを見下ろしていた。



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