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お話しがひと段落ついたところで、小柄な上級生がようやく僕のことに言及した。

この人、あの学園祭でライブのステージに立ってたBuono!の桃子さんじゃないか。
その彼女がいま目の前にいるのって、なんか不思議な感じ。
本物の桃子さんが目の前に。恐れ多い気持ちが先立つよ。ちょっと緊張する。


「この方は大きな熊さんの同級生だった方なのよ、桃ちゃん」
「くまいちょーの知り合いなんだ。それはそれは楽しい人生を送れるねぇ、良かったね」

くまいちょお?? 大きな熊さんといい、そういう変わった呼び方が流行ってるのかな。
今のちょっと皮肉っぽい笑顔なのが気になるけど、つまり桃子さんは熊井ちゃんのことをよくご存知ということですね。
えぇ、おかげ様で刺激的な高校生活になりそうで、とても感謝しております。

「今朝の風紀チェック、なかさきちゃんとずいぶん長い時間やりあってたねー、もも」
「いいんちょさん、今日やけに張り切っちゃってるんだもん。たぶんもぉがもうすぐ卒業だから思い出作りしたかったのかもね」

話しを聞いてもらおうとするお嬢様と熊井ちゃんの2人に、それぞれにこやかな微笑みを向ける桃子さん。
とても小柄なのに、そのたたずまいはまさしく上級生。
優しそうなお姉さんだな、なんて一瞬思った。

「この方もBuono!のファンで、この間のライブをご覧になったそうよ、桃ちゃん」
「おー! あのライブを見てくれたんだ!! で、誰のファンなの?」
「え?」
「だーかーらー、3人の中で誰が一番カワイイのか聞いてるんだけどぉ」
「・・・・」

正直に答えていいのだろうか。それとも空気を読んだ方が?

高度な判断を迫られて答えを言いよどんだ僕の代わりに、お嬢様が即答して下さった。
お嬢様の選択した答えは直球勝負。

「この方は熱心に愛理の応援をして下さったんですって」
「ふーん、そうなんだ(棒読み)。どいつもこいつも、愛理愛理ってさあ」


お嬢様、勝負球がストレートど真ん中ではさすがに甘すぎたようです。

しかもお嬢様、これはひょっとして思いっきり地雷を踏んだのではないでしょうか。
あからさまに口を尖がらせる桃子さん。
たった今さっきまでのお嬢様たちに見せていたあのやさしい笑顔はどこへ?

こ、怖い、この人。ステージではあんなにニコニコと愛想をふりまいてたのに。

でも、その質問は愚問だよなあ、誰がかわいいかなんて。
みんなかわいいもん。

そもそも、舞ちゃんよりカワイイ子なんか存在しませんが、何か? なーんて。
そんなこと言ってみたらどうなってしまうんだろう。目の前の人が怖いから絶対言えないけど。

その目の前の人の手前、この場をなんとか取り繕わなければ。
そこで思いついた話題は僕にとって不本意なものだったが、背に腹は変えられない。

「でも、僕の周りはみんなピンクのペンライト持ってる人ばっかりでしたよ。緑サイの僕はその人達にどつかれまくってましたもん」

それを聞くと、桃子さんは怖い顔から一転して、とても楽しそうな表情になる。

「そうなんだ! それは、いい気味だねー。もぉのファンの人はわかってるなぁ」
「終わってから反省会ってのに連れて行かれたら、あの人達ひたすら桃子さんの話題なんですよ」
「そっかぁ。もぉのことそんなに言ってたんだあ。ウフフフ♪」
「桃子さんのことを(嫌というほど)いっぱい聞かされて、僕も詳しくなっちゃいましたよ。好物はウニとカンパチなんですってね」
「それは良かったじゃん、いいことたくさん教えてもらえて! その人たちに感謝しなきゃ!!」

なぜ僕が彼らに感謝しなきゃならないんだろう。
あの日、僕は彼らにそれはいろいろな事をされたのだ。

思い出すと、ちょっと腹が立ってきた。

待てよ、桃ヲタのしたことのその責任は、やっぱり桃子さん本人が取るべきではないだろうかと、ふと思った。
うん、そうだ。泣き寝入りは良くない!

「桃子さんにちょっと申し上げたいことがあるんですが」
「ん?なになに?」
「桃子さんのファンの方々がした行為についてです。あのライブの間、桃ヲタの人達は大勢で僕を囲んでやりたい放題だったんですよ。僕の持ってるのが緑サイだからという理由だけで。ひどいと思いませんか?」
「まーったく思わないよ。だってそんなのピンク持たないのがいけないんじゃん」

「反省会だって、Buono!ライブの反省会って言ってたのに、僕が愛理ちゃんや雅さんの話題を出すと桃子さんの話しをかぶせてきて潰してくるんですよ。それって完全におかしいですよね?」
「全然おかしくないでしょ」
「いや、おかしいですよ。ライブの間はピンクサイで僕の頭を叩きまくったり、聞こえよがしに僕の耳元で大声で桃子コール。
無理やり反省会に連れて行かれたと思えば、酔っ払ったあげくに桃アタックとかいう変なことまでしてきてもう意味がわからない。桃ヲタのこれらの迷惑行為の責任をどう取っていただけるんですか?」


正論だ。
自分の言ったことのあまりの正しさに絶対的な勝訴を確信する。


だが、事態は予想外の方向に進んでいくのだった。


「そンなこと言われても、もぉ困っちゃうゾ・・・」


急にぶりぶりとした口調になる桃子さん。


「でもぉ、それはもぉが一番カワイイのがいけないんだよね・・・   許してニャン!!」


・・・・・・


「・・・も、もっとBuono!というユニットそのものへの忠誠を立てるよう彼らを指導して頂くと同時にですね、桃子さんが責任を持って被害者(僕)への誠意ある対応をs
「ぶー。分かったよー。じゃあ、もぉが責任取って特別に・・・   こゆビーーーム!!」


・・・・・・


「これでいい? これでもうすっかり、もぉにメロメロでしょ! 良かったねー。ウフッ」


・・・・・・


なんなんだ、この人は・・・・


そのとき、ある光景が僕に一発で理解させてくれた。
この桃子さんという人は“すごい人”なんだということを。

それは、あの熊井ちゃんが生暖かい笑顔で桃子さんのことを見ていたのだ。
あの熊井ちゃんが固まってるじゃないか・・・・

そうか、熊井ちゃんにこんな表情をさせるぐらいの人なんだな、この人は。

あー、よく分かりました。
桃子さん、この方はフツウの人ではないんですね。

結局つまるところ、この親玉にしてあのヲタどもありということか。
僕はこれからもずっと緑サイを手放さないつもりだ。

生暖かい笑顔の熊井ちゃんとお嬢様を同一の視界に捉えていて思い出したことがある。
そうだ、舞様からの任務があったんだ。忘れないようにしておかないとな。
熊井ちゃんがお嬢様に何かしようとしたら、僕はそれを全力で阻止しないとならないのだ。

でも、とりあえず今のところは熊井ちゃんの方の心配は無いみたい。
今この場を仕切っているのは、ご覧のように完全に桃子さんのようなので。
熊井ちゃんの心配をしなくていいなんて、何て気楽なんだろう。


そんなお嬢様はと言えば、僕と桃子さんのやり取りを穏やかな微笑みで見守ってくれていた。

「ももちゃんもBuono!のファンの方には優しいのね。さすがみんなのアイドルだわ」
「ちさとも、この子のこと知ってるんだ」
「えぇ。実はね、この方は舞・・・いいえ、何でもないのウフフ」
「ちょっと、ちさとー! 言いかけたなら最後まで言いなさいよ!!」

千聖お嬢様のことを呼び捨てで呼ぶなんて・・・ あの熊井ちゃんでさえ、ちゃんとお嬢様って呼ぶのに。
この人よっぽど偉い人なんだろうか。

桃子さんはついさっきまでの表情とは違った、いかにもお姉さんといった優しく落ち着いた表情に変わっている。
そんな桃子さんのことを楽しそうに見つめるお嬢様。その表情からは桃子さんを信頼しきっているということがよくわかる。

あれ? どこかでこういう表情を見たことあるなと思ったが、そうだあれだ。お嬢様を見つめる舞ちゃんのそれと同じなんだ。
特別の信頼感を寄せている相手にだけ見せると思われるその表情、それが同じなんだ。

お嬢様と桃子さんの間には何か特別の関係があるのを感じる。
そしてそれは、お嬢様と舞ちゃんの2人のそれと似てはいるがまた違う何か・・・


2人のほのぼのとしたやりとりに、すっかり忘れてしまっていた。
横には熊井ちゃんがいることを。
お嬢様が言いかけたけれど気を使ってぼかしてくれたこと、熊井ちゃんはそれを思いっきり口にする。

「なんだー! お嬢様も知ってるんだ!! こいつが舞ちゃんに片思いだっていうこと」

店内に響き渡るような熊井ちゃんの大きい声。
熊井ちゃんにはかなわない。もうどうにでもなーれ☆



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