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「でもそんなこと言ったって、嘘はいけないと思うし・・・見たものは見たんだから、認めようよ!
そう本当に嘘つくとロクなことがないからね。昨日だってさー、私マネージャーさんに」

衣梨奈なりに気を使ってるのか、すごい勢いで関係ない話へ脱線させていく。
でもはっきり言ってそんなことはどうでもよくて、私達的には、このままじゃお二人(というか萩原さん)が大爆発を起こしちゃうんじゃないかって、気が気じゃなかった。


「あー、わかったわかった!もういい!」

でも、衣梨奈の話を無理やりぶったぎった萩原さんは、そう怒っている感じはしなかった。


「千聖、いいよね?」
「え?・・・あー、別に。てか舞なんでそんなむきになってんの?どうせわざわざ言わなくたってさぁ」
「そーやって軽く考えないでよっ。千聖だけの問題じゃないんだからね!」

わーわー、ふがふが。

萩原さんと岡井さんは、私たちを置いてけぼりにして言い争いを始めた。

「なっ・・・なにしてんのぉ?」

すると、次にトイレに入ってきたのは、中島さん。
私達と岡井さんたちを交互に見比べて、目を丸くしている。


「え、ちょっとやめなよー!9期困ってんじゃん!」
「はぁ?いきなり口出ししないでよっ」
「お前に関係ないだろっギョカイ!」

ギャフン、ならぬギュフンと中島さんを黙らせた2人。
何度かこのトリオ芸は見させていただいてるけど、いつもながらお見事。

「聞いてよなっきぃ!舞が私のお嬢様化のことを大げさにさぁー9期たちにさぁ」
「は?何で舞のせいにするの!あれで舞たちがどんだけ苦労したと思ってるわけ?」
「しょうがないじゃん不可抗力じゃん!千聖がふざけてお嬢様やってるって言いたいの!?」
「んなこと言ってないじゃん!」


キュゥン・・・

叱られて尻尾を丸める子犬のような香音を抱き寄せて、私はため息をついた。
一体、どうしろっていうんだ。
先輩たちの喧嘩なんて、止められるわけがないじゃないか。
大体、もはや私達なんて関係ないのに、いつまでトイレにいなきゃならないんだろう。
日頃から、縦社会とはそういうものだ、とスタッフさんに言い聞かされているとはいえ、なんとも納得がいかない。

衣梨奈はなんとか止めようと「あ」とか「う」とか口を挟もうとするけれど弾かれてしまう。
聖は妙にねっとりした暗い目で、ニヤニヤしながらそれを見ていて、見るからに頼りにならない。

いい加減うんざりしてきたところで、「よしわかった!」と独特の高い声が響いた。


「岡さん!萩さん!」
「「ああん?」」

どこぞのヤンキーマンガのように、同時に中島さんを威嚇する2人。
でもそれはなれっこみたいで、怯むことなくニコニコと提案する。


「え、だからあれでしょ?千聖のお嬢様化の話でしょ?話すか話さないかってことでしょ?」
「そうだけど」

矢継ぎ早に、早口で話す中島さん。外見はどっちかというと大人しそうなのに、結構ギャルっぽい話しかたなんだなぁ、なんて思った。

「てかさー、それどうせ話さなきゃいけないじゃん?同じハローの仲間なんだしさー」
「でしょ!?千聖もさっきそう言ったのに舞がさぁ」
「だって千聖どうせ余計な事いってわけわかんなくするじゃん!いつもそうでしょ!」
「はいはい、もう喧嘩しないの!もーしかたないなぁ。2人ともなっきぃがいないと駄目なんだから」

なぜか嬉しそうな中島さん。

「ま確かにー、千聖は誤解を生むようなことよく言うしね!ここはナカジマから説明させてもらおっかな!」
「えっ!」

私は思わず声を出してしまった。・・・さっきまであんなに邪魔者扱いされてたのに、この人・・・。
娘。の先輩たちもそうとうハートの強い人たちが揃ってるけど、そういうんじゃなくて、℃、℃、


「℃M・・・」

「あーそれはありえない!なっきぃに説明させるぐらいなら、千聖がやるし!自分のことだもん。
でもなかなかいい案だったね、やるじゃんギョカイ!」
「でしょー?」
「さすがなっちゃん!フゥー!」


私たちを置いてきぼりに、今度はとっても楽しそうに話している。・・・いや、衣梨奈は「ですよねー!」とか実に失礼な相槌で仲間に入って、馴染んでいる。
娘。なら空気読め!って弾かれるシチュエーションなのに、なんかすんなり受け入れられてるし!
・・・こういう衣梨奈の性格、今はちょっと羨ましく感じたりして。


「生田ちゃんウケるー!グフフフ」
「だって、中島さんには同じKYの匂いを感じます!」
「ちょ、さりげに何言ってんの!もー」
「千聖は香音ちゃんが自分に似てると思うんだけどどうかな?」
「ほんとですか!嬉しいですー」


「ねえ・・・聖ちゃんこういうのも萌えるの?ジュルリなの?」

小声で話しかけると、「え?当たり前じゃんいやーいいなー」とか表情一つ変えずに言われて、何と言っていいのかわからず、一人で苦笑した。


「・・・あーごめんごめんね!放置しちゃって。トイレ、大丈夫?」
「大丈夫です・・・」

その声が耳に入ったのか、やっと私たちの存在を思い出してくれた岡井さん。


「そう?じゃ、ちょっとこっち」

勝手知ったるって感じに、近くの空き部屋に私たちを誘導する岡井さん。

「・・・ま、隠れる意味ないけどね。モベキマスもスタッフさんたちもみんなお嬢様のこと知ってるし」
「舞ウケるーグフフフ!どんだけー」
「何がだよーキュフフフ」
「ぬはははは」
「フヒヒw」

衣梨奈、馴染みすぎ!聖、にやにやしすぎ!

「あ・・・あのーそれで、さっきから言ってるお嬢様っていうのは・・・」

――この人たちは、もしかしたら、いやもしかしなくても、かなりの脱線魔なんだろう。それこそ、9期以上の。
それがようやくわかってきたから、私はおずおずと挙手して質問をさせていただいた。


「ごめんごめん、そうだよね!鞘師ちゃん。さすが優等生だねっ。こないだも新垣さんが鞘師ちゃんのことさぁ」
「ちしゃと、脱線しない!・・・ごめんね、ウチら楽しいとすぐ盛り上がっちゃってさあ」
「い、いえいえ」


あまり上手くない私の愛想笑いにも、萩原さんはニコッと笑い返してくれる。
さっきの殺されるんじゃないかってオーラとは別人のようだ。
きっと、岡井さんのことが大好きなんだろうな。岡井さん絡みだと人が変わっちゃうみたいな。

「じゃあ、話すね。お嬢様の事。
舞となっきぃさ、千聖の説明が変だったら口出ししてね」
「オーケー」
「え、てかそんなら最初から早貴が(ry」
「テメーギョカイ(ry」


*****

「あぁ~・・・・」

楽屋に戻るなり、私はバタッとテーブルに倒れこんだ。


「鞘師?」

先輩たちがびっくりした声をあげるのにも、上手く言葉を返せないほど自分が疲れているのを感じる。

「どうしたのー?マッサージしてあげようか?フクちゃんでもいいよ?」

道重さんが手をワキワキさせながら近づいてくるのを、聖とともに全力で避けながら、私はさっきの話を思い返していた。

“ある日、岡井さんが階段から落ちて頭を打った。
その衝撃で、人格がお嬢様になった。
今は、強いショックを受けると元の人格に戻ることもある。
さっきは9期にお嬢様状態を見られて、びっくりして元の明るい岡井さんに戻った。
仕事中は、いつも元の岡井さんとして振る舞うから、あわせて欲しい。決して外部に口外しないでほしい”

要約すると、こういうことだった。だけど

“鞘師ちゃん、舞ちゃんはね、性格の変わった千聖を受け入れられなくて【以下1万文字略】うおーん、とにかく、℃-uteでよかったよー
うおーん、泣くなよなっきぃー
うおーんうおーん”


と感動の逸話もたっぷり挟みつつ、岡井さんが5回脱線し、萩原さんが6回キレ、中島さんが7回ケチョンケチョンにされながら、結局1時間近い時間をかけて、その壮大なストーリーに付き合わされ・・・いや、えーと、聞かせていただいたのだった。

ハロプロエッグで活動していた聖は、もうとっくにこのことを知っていたという。
戸惑う私たちに、お嬢様状態の岡井さんもめちゃくちゃ可愛いから大丈夫だよ!とピントの外れた励ましをくれた。


「・・・あの岡井さんも、元の岡井さんも、本当にいい人だから。本当に、優しくて心の綺麗な人」

独り言みたいにそうつぶやいたときだけは、ニヤニヤもヌフヌフもしてなかったから、まあ、信じていい・・・んだろう。

それにしても・・・娘。だけでもかなり濃くて変わった人だらけだっていうのに、ハロプロって、スゴい。改めてそんなことを考えた。


「りほりほ~♪捕まえた~♪はい、マッサージ始めるよ!うふふふふふふ」
「ぐえっ」


道重さんに背中をもみもみされながら、私はもう一度小さくため息をついたのだった。


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