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「あれ・・・?」

ふと独り言のようにつぶやいた舞ちゃんが、右斜め横に目線を定めたまま、足を止めた。

日曜日の午前11時30分。
私、鈴木愛理と舞ちゃんは、最寄り駅から8駅離れたところにある、この地域では有名なショッピングモールに来ていた。

普段はお嬢様との時間を最優先にして、滅多に遠くへ買い物に出ない舞ちゃん。
だけど、今日はお嬢様が御親戚の集まりへ出かけてしまったから、少し寂しそうにしていた。
それで、お買い物に誘ったら二つ返事で付き合ってくれた、というわけだ。


モールの敷地内は、一足早いクリスマスのイルミネーションで彩られて、舞ちゃんはほっぺを紅潮させ、キョロキョロと見渡していた。・・・とても、はしゃいだ様子だったのに。今は、警戒している猫みたいに、ぴったりと動きを止めてしまっている。


「どうかしたの?」

大きな目がロックオンする方向に目を向けると、店頭で、バッチリメイクを施された、THE・ギャルって感じのマネキンがポーズを取っているお店があった。

「舞ちゃん?」
「うん・・・」

今日の舞ちゃんは、赤を基調にしたバーバリー・チェックのミニワンピにニーハイを合わせて、黒いリボンのヒールブーツというとても可愛らしい格好。モコモコ素材のコートには、お嬢様からいただいたという小さなリボンコサージュが光っている。
まあ、ギャルっぽいっていえばそういえなくもないけど、古着のテイストも入ってるし、ああいう正統派のギャル服とは違うような・・・

「あそこ、行く?」

でも、オシャレ大好きな舞ちゃんのことだし、せっかくのこういう機会だからと、いろんなテイストの店を回りたいのかもしれない。
そう考えて切り出して見ると、舞ちゃんはハッと我に返ったような顔をして、ぶんぶんと首を横に振った。


「いや・・・ううん、違うんだ。ごめんね」
「あれ?でも今すごく熱心に見てたし」

「んー、それは・・・まあ、いいのいいの。
ね、愛理の行きたいとこにしよ?ほら、あのナチュラル系のアクセサリーの・・・」

私の背中をぐいぐい押しながら、その場を離れようとする舞ちゃん。


――もしかして、誰かいたのかも。

そう思ったけれど、口に出すのはやめておいた。
声を掛けないってことは、舞ちゃんにとって“いい人”ではないのだろう。


舞ちゃんは人よりずっとずっと頭がいい。
その分、悪意なんかのネガティブ要素にはとても敏感で・・・人一倍傷つきやすい面もある。人間に対する、好き嫌いもかなり激しい方だ。

あのお店にいるってことは、バリバリのギャル系かな・・・たしかに、舞ちゃんとはあわなそうな感じではあるな。


「で、そうそう、そのお店ね、オーダーメイドでも格安でブレスレットとか作れて・・・」
「んー・・・」


私のお目当ての店に行く道すがらも、舞ちゃんは何か考え込んでいるような様子だった。


こういう時、なっきぃやお嬢様、えりかちゃんがいたら・・・自然に励まして元気付けてあげていたことだろう。
私はそういうの、あんまり上手じゃないからな・・・。ねーちゃんはポジティブすぎて話しにならん!って弟に叱られる事もあるし。

「まーいちゃんっ」

だけど、いや、だからこそ、私はあえて明るい声で話しかけた。

「楽しもうね、今日!」
「愛理・・・」


焦点の合わない感じだった舞ちゃんの目が、パチクリと見開かれる。

「あっちのブースに、可愛い雑貨屋さん出来たらしいよ!なんかおそろいで買おうよ。
あ、でもお嬢様とお揃いのほうが嬉しいかな?ケッケッケ。
あと、ゲート付近のパン屋さん!メロンパンが美味しいって、茉麻ちゃんが。帰りに寄ろうよ。あ、でも、まだ来たばっかだけど・・・」


・・・まあ、あんまり上手いこと励ませてないな、とは思うけど・・・デリケートな舞ちゃんの心が、少しでも軽くなってくれたらいいなと思う。


「・・・アイス、食べたいな」

すると、舞ちゃんは私のボーダーニットの裾をつまんで、唐突に言った。

「えへへ」

少しほっぺを赤くして、ゴロゴロと猫みたいに甘えてくる。


「い・・・いいよ!何がいい?ソフト?アイスケーキ系?」
「愛理におまかせしよっかなー」


おお、デレモードだ!口がこんな感じ(o・ⅴ・)にキュッてあがって、形のいい目がへにょっと折りたたまれて、大変可愛らしい。

少しぐらいは、私の気持ちが伝わったのかもしれない。
舞ちゃんは気まぐれだし、掴みきれない部分もたくさんあるから、こういうのは素直に嬉しいと思う。


「ケッケッケ、何かこういうの、デートみたいだねぇ」

ついつい、調子に乗ってそんなことを言ってみる。
すると、私の腕に絡み付いて、ふにゃふにゃしていた舞ちゃんの動きが急に止まる。

「・・・舞ちゃん?」
「デート・・・デート、ね。そう、デート。ぬふふふ」

みるみるうちに、愛らしい顔がニタァッと歪められていく。
それはお嬢様と居る時の無邪気な笑顔ではなく、
舞美ちゃんにお膝抱っこしてもらってるときの、妹っぽい笑顔でもなく、
強いて言えば、一番近い表情は、栞菜と一緒に若い執事さんをいじめてるときの・・・


「愛理、今日は本当にいい1日になりそうでしゅね」
「・・・ケッケッケ」

嬉しい事言ってくれてるのに、冷や汗が滴り落ちる。
間違いない。舞ちゃん・・・いえ、舞様は何か企んでいらっしゃる。
一体、どこでスイッチを入れてしまったのか見当もつかず、私はズルズルとアイスクリームショップへ引きずられていったのだった。



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