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そんなことを思っている僕に、なかさきちゃんが言った。

「ひとつお願いがあります。お嬢様にあまり気安く声を掛けたりしないで下さい。そういうことをされると周りの目もありますし、規律は守っていただかないと」

その有無を言わせないキツい口調。

うわー、嫌われちゃってるのかなあ。
熊井ちゃん、僕のことをうまく言ってくれなかったのだろうか(←実はちょっと期待していた)。

続けてなかさきちゃんが僕に言ったこと、それには耳を疑った。


「あと、嗣永さんの関係者だか何だか知らないけど、友理奈ちゃんを惑わすようなことはやめて下さいね!」

嗣永さんの関係者って・・・ なんだそれ?
誰が熊井ちゃんを惑わしてるって?
この子は何を言ってるんだろう。

「ああ見えて友理奈ちゃんは優しいから、誰の言うことでもすぐ聞いちゃうんだから」

それじゃあ、まるで僕が熊井ちゃんをそそのかしてるみたいじゃないか。
なにかとんでもない思い違いをしていないか、彼女。
熊井ちゃん、僕のことをなかさきちゃんに何て言ったんだよ。

「友理奈ちゃんがかわいそう」
「は?」
「昔のことをいつまでも。そのことにつけこんで付きまとってくるって」

おいおい、さっきから何のことを言ってるんだ!?
全く意味が分からないことをなかさきちゃんが言う。

大体考えてもみてよ。弱みにつけこまれるとか熊井ちゃんのキャラじゃないでしょ。
もしも昔のことで脅迫されるようなことがあるとしたら、それはむしろこっちの方だよ。いくつネタを掴まれてると思ってるんだ!

それだけでも心外なのに、彼女が続けて言った言葉、それは僕にとって正に晴天の霹靂だった。


「それに、お嬢様が親切なのをいいことに色々と情報を聞き出してるんだって。お嬢様を利用するなんて、最低!」


なかさきちゃんは親の敵でも見るような目付きで僕を睨む。

熊井ちゃん、この子に一体何を言ったんだよ。完全におかしな事になってるじゃないか。
なかさきちゃんは僕に対して完全に悪いイメージが定着してしまっているようだ。

「あとは間違いなくお嬢様の財産目当てで近づいてきてるね。なっきぃ、もっともっと怒った方がいいかんな」

腹立たしいのは、僕の目の前で栞菜ちゃんがこのように余計なことを言ってなかさきちゃんを煽っていることだ。
なんなんだ、この人の僕を挑発するような言動は。


「お嬢様も何でこんな人に気軽に話しかけられるんだケロ」


こんな人呼ばわりされてる・・・
でも、ここはしっかりと反論しておこう。

「でも僕はですね、昔から人当たりはいい方で知られてるんですよ。クラスの女子からも“カッコよくって話しやすくて”とよく言われてますし」
「その顔でカッコイイとかオメーそんなこと冗談でもよく言えるな。鏡見たことあんのか?今だって何だそのニヤケ面は」

もちろん、これは場を和ませようとボケてみただけなのだ。お約束のツッコミありがとう栞菜ちゃん。
頭の中の構造がどうなってるのかよく分からない彼女だが、栞菜ちゃんはやっぱり男子とのやり取りに慣れていて、こっちとしてもやりやすい。

なかさきちゃん、これで笑顔になってくれるだろうか。

だが、彼女には男子のそんな冗談も通じなかったみたいで、僕に初めて笑った顔を見せてくれるどころか、まるで品性下劣な男でも見るような顔で僕を見ている。
そこまで汚ないものを見るような目をしなくても・・・

でも、この表情いいなあ。
真面目な彼女からそんな目で見られること自体に快感を覚えそうにもなる。

しかし、ここまで貶められた扱いをされると、もう何か開き直ってわざと嫌われるようなことをしてしまいたい衝動にかられてしまう。
どうせ悪印象を持たれてるんだろ、もうヤケクソだ。
なかさきちゃん、覚悟。


「何で話しかけるかって、それは僕に惹かれるところがあるからじゃないですか。お嬢様にとって」
「はああぁ?」
「お嬢様は僕の言うことをいつも丁寧に聞いてくださいます。なかさきちゃんの言うことに対してはどうですか?」
「・・・・・・」
「そういえば昨日もお嬢様、なっきぃに細かく注意されたから不貞腐れてたね。まぁ、お嬢様の逆ギレは珍しくも無いけど」
「だって、それはお嬢様が・・・」
「なるほど。お嬢様のなさることをいちいち頭ごなしに注意とは。それではお嬢様がかわいそうですね」
「何だその勝ち誇った顔は」

軽くなかさきちゃんをイジってみました。栞菜ちゃんが話しに乗ってきてくれることも期待して。
男子特有の調子こいた発言に栞菜ちゃんのツッコミも決まって、上手くオチたんじゃないだろうか。変な感じになっていた空気もこれで一掃だ。
いいテンポのやりとりができた。栞菜ちゃんありがとう。

なんだかんだで栞菜ちゃんは空気を読んでくれるんだよな。
案外優しい奴なんじゃないか、有原。いいところあるじゃん。


今の流れで多少は打ち解けられたんじゃないかな。
僕に対して必要以上に警戒心を持たなくていいってこと分かってもらえただろうか?
どうですか、なかさきちゃん。


・・・僕はちょっと分かっていなかった。

なかさきちゃんが男子生徒のことをわかっていないように、僕もまた女子校の優等生のことを分かってはいなかったのだ。
そしてもうひとつ、有原栞菜という女の子の恐ろしさも分かっていなかった。


冗談を軽く受け止めてくれる栞菜ちゃんとは違って、なかさきちゃんは僕の発言を言葉通りの意味に真面目に捉えていた。
プルプルと震えている彼女、顔を真っ赤にして僕の言ったことに甲高い声で反論してきた。

「私はお嬢様のことを本当に真剣に考えているんです。それで私が悪者になったとしても、お嬢様の為になるならそれは本望なんだから!」
「さすがだかんな、なっきぃ。お嬢様の為になることが何といっても一番重要なことだからね、たとえその場は嫌がられたとしても。
なっきぃがそう思ってるのは、きっとお嬢様も分かって下さってるよ」
「栞ちゃんもそう思う? 分かってもらえて嬉しい」
「もちろん。私もそれをいつも実践してるんだから。私が毎晩している行為は全てお嬢様の為を思ってのry」
「本当? 栞ちゃんもそう思ってるなんて! 良かった。私だけが一人で張り切りすぎてるのかと思って悩んでたんだ」
「もちろん分かってるさ。でも男なんかには決して分からないだろうね、お嬢様のことを本当に思うってことがどういうことだか」

何だその勝ち誇った顔は。

もう一刻も早くこの場を立ち去りたいと思ってるのがありありと分かるなかさきちゃん。
彼女はツンとした表情で僕の前から去って行った。僕に次の捨て台詞を残して。

「嗣永さんにも言っておきますけど、あなた方はお嬢様に関わらないで下さい!!」

桃子さん?
さっきもあったけど何で桃子さんの名前がいきなり出てくるんだ? 何の必要があって何を桃子さんに言うんだろう?
なかさきちゃんは訳の分からないことを言う。混乱してるのかな。


結局、今日もなかさきちゃんに笑顔になってもらえなかった。

気が付けば、僕は栞菜ちゃんの挑発に乗せられて自爆してしまったということか。
彼女の方が一枚も二枚も上手だった。
意外と優しい奴、と思わされてしまったこと悔しすぎる。僕の一人合点もいいところじゃないか。
僕の言動は全て彼女の脚本通りの展開だったんだろう。僕は彼女の手のひらの上で踊らされてたのか。

しかも、僕の発言を利用して自分の行為の正当性もアピールしているようだ(毎晩何を実践しているっていうんだろう)。

なんて頭の切れる人なんだ。
栞菜ちゃん、恐るべし。

なかさきちゃんの後を追うように栞菜ちゃんが踵を返したときの、人を上から見下しているようなあのいやらしい笑い顔。
夕闇の中で見たその表情、しばらくは忘れられそうに無い。



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