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「おはよーございまーす。一列に並んでくださーい」


校門に足を運ぶと、学園の生徒がズラーッと列を形成していた。
本日は我が高名物、風紀チェックが行われているみたいだ。


「げっ・・・聞いてないんだけど」
「そりゃあ、事前に公開してたらチェックにならないし」

本日はつけまつげてんこもりな梨沙子、くるんくるんになったそれをパチパチさせて、これ、自前の睫毛ってことでごまかせないかな?なんてとんでもないことを言う。


「ま、あきらめるんだね。せめてなっきぃに当たらないよう、祈ってなさい。
それにねー、いっつも言ってるけど、梨沙子はメイク薄いほうが絶対可愛いんだから。
せっかくそんなかわゆい顔に生まれてさ、しかもまだまだ若いのに」
「ふんっ、なんだよー、まーさったらおばちゃんみたいなこといって!」
「お、おばっ」

口を尖らせてぶーたれる梨沙子。

「もっとさー、茉麻だって制服着崩したらいいのに!それじゃ真面目でつまんなーい」
「私はいいの、これで!ほら、いっといで!梨沙子の番だよ!」

まったく、私のベビーちゃんたら、反抗期かしら!
小型犬のようにキャンキャン吠えながら、係の子の前に赴く姿を見送って、次は私の番。

「おねがいしまーす!」
「いいですか、そこにある除光液でマニキュアを・・・あ、茉麻ちゃん!キュフフ、おはようございまーす」

本日の担当は、なっきぃ。

「今日、寒いねー」
「ねー」

あきらかに問題ナシな私相手だから、チェックも雑談を挟んでのゆるーい感じ。
別に、ビビることないじゃんね。普通にしてればいいの、普通に。
奥の方で、梨沙子が風紀委員の人に一生懸命言い訳している声が少し聞こえて、思わずニヤニヤしてしまった。


「・・・はい、いつもどおり問題なし!
やっぱり制服の着こなしはこうでなきゃ、ね?さすが次期生徒会長っ!」
「あー、やっぱなっきぃももう知ってたんだ」
「ん?生徒会長就任の話?だってみぃたん、ずいぶん前から言ってたからね。後を継いでもらうのは、茉麻ちゃんに決めてるって。
寮のみんなももちろん知ってるし、お嬢様だって。
下手したら、お嬢様のお屋敷のメイドさんたちも知ってるかもよ。みぃたん、本当嬉しそうにいろんなとこで言ってたから。キュフフ」
「・・・私それ、昨日聞いたばっかなんですけど」
「へえ!?うそー」

まったく、みぃたんたら!と頭から湯気を出すなっきぃ。
でも、あの大型犬のようなほえーっとした笑顔の前に立ったら、なっきぃのこの怒りだってすぐ静まっちゃうんだろうな。


「え、じゃあスピーチとか大丈夫?発表、今日なんだけど」
「うん、一応昨日用意して、覚えてきた。つもり・・・」
「そか。私も万が一と思って、簡単に原稿作ってきてたけど、なら平気だね、さすが茉麻ちゃん。もう、それにしてもみぃたんたら・・・ごめんね、あとでクレームいれとくから!」

プンプン怒る顔はどこか可愛らしくて、真面目で規律に厳しい風紀委員長なのに、決して恐れられてはいないなっきぃらしい。
このしっかり者が、今年も副会長としてサポートしてくれるというのは本当にありがたいことだ。

「あら、茉麻さん。ごきげんよう」

そんな調子でなっきぃとおしゃべりしていたら、突然後ろから声をかけられた。

「あ、おはよう!」
「ウフフ、なっきぃ、書類をお持ちしたわ。
千聖の担当場所は、もう終わったから」

お上品な口調の、小さい体の小犬顔の女の子。
大きな青いリボンをキュッと結んだ胸に、バインダーを抱えた千聖お嬢様が、ニコニコしながら立っていた。

「キュフフ、お嬢様。ご協力感謝いたします。
おかげで風紀チェックがはかどりました」
「お役に立てて嬉しいわ」
「え?どういうこと?お嬢様、風紀委員やってるの?」

思わず、2人の会話に口を挟む。

「いいえ、そういうわけではないのだけれど。
ただ、今日は委員の方がお一人欠席なさると聞いたので、お手伝いをさせていただいてるの」
「へー・・・」
「お嬢様ったら、“私、なっきぃをお助けしたいわ!”なんて言ってくださるから、もう嬉しくて嬉しくて。
早起きは苦手なのに、今日はわざわざ私と一緒に、徒歩登校してくださったんだよ!」

2人とも、すごく優しい顔をしている。
去年の今頃は、せっかく放送委員会に入ったのに、全然お仕事を回してもらえないと落ち込んでいたお嬢様。
でも今は、こうして自分から、お手伝いを申し出るような勇気を持てるようになった。
放送委員の方も、学校放送でしばしばその声を聞くぐらいだから、順調なんだろう。

大人になったのね・・・と私はしみじみしてしまった。

赤だった制服も、高等部の青色に変わり、男の子みたなショートヘアーは、ツヤツヤの栗色セミロングになった。
いつも眉を困らせて、捨て犬みたいに不安そうな表情だったのに、最近は凛々しい表情で、人の目を真っ直ぐ見て話すようになった(中身は相変わらずぽわんぽわんだけど)。

誰かが守ってあげないと、どうしようもない感じだったお嬢様は、どんどんたくましく、美しい大人になっていく。
それは嬉しいような、寂しいような、そして眩しいような・・・。

「キュフフフ、茉麻ちゃん、おかーさんみたいな顔してる」
「えっ」

可愛らしい前歯をぴょこんと出して、なっきぃが楽しそうに笑う。

「お母さん、って・・・」

別に、貶す意味で言ったんじゃないのはわかるんだけど。さっきの梨沙子の言葉が脳裏をよぎる。


“まーさ、おばちゃんみたいなこといって!”

「・・・茉麻ちゃん?」

「ねー・・・、私って、おばちゃんっぽいかなあ」

比較的真面目な部類に入る相手にだから言える、愚痴のような相談のような私の言葉に、目をパチパチさせる2人。

「おば様・・・ですか?どうして?茉麻さんは、千聖の叔母や伯母とは、全く違うと思いますけれど」
「あー、いや、そういう意味じゃないんだけど」

どうやら、千聖お嬢様には私の質問の意味がわからないらしい。
それなら、なっきぃ!と思い、視線を向けると、わかりやすく焦った表情で「そそそんなことないよ!キュキュキュフフ」と見え透いた慰めの言葉を送ってくださった。

「あー、やっぱそうだよね・・・」
「いやっ、違・・・」
「梨沙子にも言われちゃった、茉麻はおばちゃんみたいだって」


嘘のつけないなっきぃは、でも、とか違うの、とか言いながら、ますます慌ててしまっている。
私は私で、どんどん自分の声のトーンが落ちていくのを感じた。
だってだって、今日から生徒会長なんですよ!フレッシュ感とかあるじゃない、あれって大事だと思うの。
なのに・・・


「・・・あの、茉麻さん」

あまりにへこんだ顔だったからか、千聖お嬢様がスッと白いハンカチを差し出してくれた。


「すぎゃさんが仰りたいことの意味はわからないのだけれど・・・千聖にとっては、茉麻さんはおば様というより、お母様のような存在だと思います」
「お母さんか・・・うーん」

フォローになってるんだかいないんだか、それでも千聖お嬢様は一生懸命に話し続けてくれる。

「千聖ね、普段ママ・・母と離れてくらしているから、どうしても寂しくなってしまうことがあるのだけれど、茉麻さんとお話していると、心が安らぐわ」
「そ、そうそう!ほんとその通り!生徒会室にまあさちゃんがいると、ああ、今日は安心だなって思うもん。
あれだよ、りーちゃんはさ、どーせ服装のこととかでまあさちゃんに反発したんでしょ?
まったく、嗣永さんほどじゃないけどさ、りーちゃんも結構着崩すようになってきたよね。これはぼちぼち個別指導を・・・」

最後の方は独り言みたくなって、なっきぃの関心は私を慰める事よりも、風紀問題のほうへと向いていったようだった。

「ま、でもまあさちゃんがトップになったなら、みんなまあさちゃんに倣って、ちゃんと制服着るようになるよねっ
本当、頼もしいわ~。
お嬢様も、お化粧は色つきリップだけですよ!今日みたいな格好が一番!」

なっきぃは満足そうにキュフフと笑って、私とお嬢様を見比べた。

ノーメイクで、髪の毛のアレンジは可愛いシュシュで一つにまとめる程度。
リボンは多分、自分には似合わないと思うから、ネクタイ。
スカートは膝がのぞくぐらいにして、靴下は紺ハイソ。靴は無難な配色のスニーカー。指定の鞄にはディ○ニーキャラのおおきめのマスコットを1つだけつける。

そんな感じで、ハメを外さない私の姿は、なっきぃには大変好ましく映るらしい。

お嬢様も大体私と同じような感じで、私との違いはネクタイがリボン、スニーカーはローファー、鞄にはマスコットとかはつけてない。ヘアスタイルは結構こだわるタイプ。
ごく普通の格好なのに全く野暮ったくないのは、そこはかとなく滲み出るお嬢様オーラと、よく整った気品あるお顔のおかげだろうか。


「2人共、模範的で素晴らしいよ!キュフフフ。だからまあさちゃん、本当に気にしなく・・・」


突然、なっきぃの言葉が途切れた。

「どうしたの?」

くりんと丸い両目が、私の肩越し、斜め上に向けられたまま、静止している。


「まあ、ウフフ。今日も個性的ね」

のほほんと微笑むお嬢様も、視線はだいぶ上の方。

何となく、嫌な予感を覚えつつ、私は目線を追って後ろを振り返った。

小柄な2人が首を上に向けているという事は、その対象となっている人物は高身長。
うちは女子校だから、背の高い人は目立つ。
そんな中でも、背だけではなく、あらゆる意味で目立つ人と言ったら・・・


「・・・やっぱり」
「あ、まーさになかさきちゃん!お嬢様も!セイホーオ、YOチェケラッチョ!おはYO!」

膝を曲げ、カクカクと妙な動きをしながらこっちへ向かってきたのは、言わずもがな。
当校随一の変人、大きな大きなベアーさん。

一体、うちの学校はいつから私服登校になったというんだろう。ダ
ボダボのパーカーのフードをすっぽり被り、超ミニスカートの下にシャカシャカ素材のジャージを合わせた熊井ちゃんは、イヤフォンから爆音でヒップホップを垂れ流しながら私達の方へ歩いてきた。どうみても最凶DQNです本当にありがとうございました。


「ごきげんよう、大きな熊さん。今日はシルバーのアクセサリーをつけていらっしゃるの?とても大きなリングね。髑髏のネックレスも、とても存在感があるわ」
「HOO!さすがマイメンだぜ。これは弟からが借りてきたっていうか貰ってきたんだぜ!何か知らんけど泣いてた!」

これにひるまないお嬢様もどうかと思うけれど、隣のなかさきちゃんなんて、もう飛び出そうになっちゃってる。目玉とかいろいろ。

「てかうちさー、今後はヒップホップで食べてこうかと思ってー。うちもそろそろ10万17歳だし」
「熊井ちゃん、その人はヒップホップじゃないから」
「く、く、くまいーーー!!!!!!お、おま、おまおまおま」


私のツッコミも、せっかくのなっきぃの大爆発も、熊井ちゃんには特に何の効果もないらしく、何怒ってんだYOとか言って火に油を注ぐ始末。


「またわけわかんないものに感化されて!いい、ゆりなちゃん!もう最上級生なんですからね!これからは生活態度を」
「あ、そうだなかさきちゃん」


天然なのか、悪い子なのか。
はなっからなっきぃの話を聞く気がない熊井ちゃんは、また話を強引にぶった切る。

「こ、今度はなによゆりなちゃん!」
「忘れてたけど、これからよろしくね」
「は・・・?」

いぶかしむなっきぃ。・・・あれ、もしかして“あのこと”知らないのかな?


「あのね、なっき」
「うち、生徒会入ったから!うちらの戦いはこれからだ!ユリナ先生の活躍に御期待ください!みたいな!あははは」


キュフゥ・・・

もはや半笑いのなっきぃが、音もなく崩れ落ちた。



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