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「どうなの、なっちゃん。
熊井ちゃんだって、生徒会の事真剣に考えてるってわかったでしょ?」
「う・・・うん」
「いや、チョット待った!」

懐柔されはじめたなっきぃを制すべく、私はバシッと右手を突き出した。

「これはおかしい」
「な、なんでしゅか茉麻ママ。やぶからぼうに」

私は視線を熊井ちゃんへ向ける。
相変わらず、女剣士のような勇ましい真顔をキープしているようで・・・だけど、長い付き合いだからわかる。こんな熊井ちゃんは、まずありえない。

いつだったか、お母さんに聞かれたことがある。
茉麻の高校の友達の熊井ちゃんって、一体どんな子なの?と。
聞くたびに印象が違って、よくわからない、と。


たしかに、熊井ちゃんほど気が変わりやすく、マイペースな子も珍しい。
ガングロギャル、ラッパー、チーマー。最近はワルの匂いのするものに関心を持ってるらしく、それは今日のように、態度や服装に露骨に表れる。

だけど決して、流されやすいというわけではない。
むしろ、こんなに自己が確立している人も珍しいんじゃないかと。
熊井ちゃんはどこで何をしていても、あくまでも熊井ちゃん。
根底に確固たる己があるからこそ、全く異質なものを自分の中に取り入れるという高度な遊びが出来るんだと思う。

だから、お母さんにはこう答えた。「熊井ちゃんは、熊井ちゃんというジャンルの人だよ」って。

和名:熊井友理奈 熊井目・熊井科 希少種。
それで私のお母さんまで納得させてしまうんだから、やっぱりすごい子なんだ。

閑話休題。

「さて、熊井ちゃん。一体何を企んでるの?ママに言ってごらん?」

さっきの、なっきぃを説得すべく行われた熊井ちゃんの演説。
あれ、いかにも怪しい。すごく引っかかる。


「考えすぎでしゅ。熊井ちゃんは今度は真面目な生徒会役員に憧れただけだし」
「だとしても、あんなボキャブラリー、熊井ちゃんが持っているはずがないもの。おかしい」
「いいえ、私は心から今期の生徒会の在り方について述べているのです。
私、熊井友理奈は必ず、この組織に新しい風を吹き入れる存在となるでしょう。現幹部の皆さんと手を取り合い、学校とは何か、生徒会の役割とは何かということを考えたいのです。」

あっけにとられてるなっきぃや私を放置して、まだ演説は続く。
お嬢様なんて、口を半開きにしたまま、ワクワクした表情で熊井ちゃんを見ている。それはさながら、動物園の珍獣コーナーに見入る小学生のごとく・・・さすが、面白い生き物大好きっこ!


「この室内で繰り広げられる論争に、時に私たちは傷つけあい、青春の涙と汗に塗れることもあるでしょう。
しかしながら、そこで育まれる真実の愛と友情・・・ああ、なんと尊いものなのでしょう。それ故に舞は・・・あ、やべ。じゃなくて、ゆり・・くま・・えーと」

しかし、突然のハプニング。
よどみなかった口上は、熊井ちゃん本人のとんでもないミステイクによって止まってしまった。

「ああん?」

当然、なっきぃの眉間に皺が寄る。

「ゆりなちゃん、今なんて?」
「違うよ、全然違うよ!」

慌てる熊井ちゃん、詰め寄るなっきぃ。

「今舞って言ったよね!言ったよね!」
「気のせいだよ。夢でも見ていたのではないでしょうか!なかさきちゃん疲れてるんだよ。ゆっくり休むがいい」
「ごまかすなすぐ!」

「ウフフフ」

すると、唐突にお嬢様が小さなお口をハンカチで押さえて笑い出した。

「なーに?」
「いえ、あの、ウフフフフいやだわ大きな熊さんったら」

よっぽどツボにはまったのか、体を丸めて咳き込み出す始末。

「もう、しょうがない子。大丈夫?」

どうも、小柄で子犬感のある彼女といると、口調がママになってしまうから困る。
何度か背中をトントン叩いてあげ、落ち着きを取り戻したお嬢様は、スッと目を眇めて私を見た。

「ん?」

魅力的な三日月スマイル。
普段なら心が和んで、一緒にニコニコしちゃうところなんだけど・・・だんだんわかってきた。この無邪気そうな笑顔もよくよく見ればバリエーションがあって、今何かは若干イヤーな色が浮かんでいる。


「あー・・・ちしゃと、気づいちゃった感じ?クフフ」
「だって、舞の・・・ウフフ、これは言わないほうがいいのかしら?」

いつもの品あるお嬢様の仮面はちょっと脱いで、舞ちゃんと目を合わせて含み笑い。
あまり、私といる時にはこういう等身大の女の子って感じの顔を見せてくれないから、ほほえましく感じてしまう。
こういうところが、おばちゃん(by梨沙子)なんだろうなぁ。

「お、お嬢様!なんですか、隠し事はなしですっ私とお嬢様の中じゃないですか!」

でも、なっきぃはそこまで懐柔されてはいないらしく、鼻息荒くお嬢様に詰め寄っていく。

「お嬢様!」
「もう、そんなにお顔を近づけなくても。・・・ほら、なっきぃ、見て頂戴。舞の頭の上」

丸っこくて可愛らしい、お嬢様の指が示した先にあるのは、卒業生から寄贈された大きな鏡。
少し上の方に掲げられたそこには、正面――つまり、私となっきぃとお嬢様の背後にある、ホワイトボードが写っている。・・・びっしりと文字が書かれた、ホワイトボードが。


「まさか・・・」

私は後ろを振り返った。


“本当にこのまま、前の生徒会のカラーと同じでいいのかな? たしかに(ry”


おや・・・さっき聞いた覚えのある言葉が、ボードにつらつらと並んでいる。

“否定された場合→いいえ、私は心から今期の生徒会の在り方について述べているのです。私、熊井友理奈は必ず(ry”


「もー、熊井ちゃん!どこにも“舞”なんて書いてないでしょー?何で間違えちゃうかなぁ」
「でへへ、ごめんねー。舞ちゃんが考えたセリフ、って思いながら読んでたら、つい名前出しちゃって」


――つまり、こういうことか。
(わかってたことだけど)さっきの熊井ちゃんの見事な演説は、舞ちゃんがホワイトボードに書きなぐったのを読んでいただけだ、と。真顔でカッと目を見開いていたのは、字を追うのに集中していたからだろう。


で、お嬢様は向かいにいる舞ちゃんと熊井ちゃんをじっと見ているうちに、二人の背後の鏡に映るホワイトボードが気になり、ちょっと振り向いたら・・・ということなのかな。


「あはは・・もう、しょうがないなあ」

何かからくりがあるのはわかっていたけれど、簡単すぎて逆に気がつかなかった。
イタズラ、大成功!みたいな顔でハイタッチしてる2人を見ていたら、怒る気にもなれないというもの。


「キュフゥ・・・」

それはなっきぃも同じみたいで、もはや激怒する気力も失せたのか、半笑いで机にほっぺをくっつけている。

「ねー・・・なっちゃん。
こんだけ熊井ちゃんが生徒会入りたがってるのに、やっぱり反対なの?
そりゃあ今の筋書き考えたのは舞だけどさ、熊井ちゃんだって実際やる気だからここにいるわけだし」



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