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愛理ちゃんとのやりとりを黙って見ていてくれたり、更に今も一緒に座れだなんて、今日の桃子さんは妙に優しいな。
やっぱり軍団長は大人なんだ。さすがだな。
そんな桃子さんにも申し訳ないから、もう僕は帰ります。

ありがとう桃子さん、なんて思っていたら、桃子さんが愛理ちゃんに話しかけているのが聞こえてきた。

「聞いたでしょ、愛理。この少年は愛理のこと特別に想ってるんだって。人気者だねぇ、あいりん」

僕の耳がピクッと反応する。
前言ちょっと保留。

桃子さんのちょっといやらしいその言い方。しかも、何かそんなことわざわざ言わなくてもいいのにってことを言っている。
これはたぶん、わざと僕に聞こえるように言ってるんだ。
それを無視することの出来ない単純な僕は、つい話しに割り込んでしまった。

「桃子さん!」
「あれ? なーんだ、こっちのテーブルにしっかり聞き耳を立ててるんだ。もう帰ります!!とか言ってたくせにw」


僕が振り向いたとき、桃子さんはすっごく楽しそうな笑顔だった。

その表情を見て僕はようやくわかった。
桃子さんは僕と愛理ちゃんのやりとりを黙って聞いていてくれてたんじゃない。
じっとタイミングを計っていたんだ。仕掛けるタイミングを。間違いない。

「少年、愛理のこと好きなんでしょ? いま言ったのはそういうことじゃないの?」

刺激的なセリフで僕を挑発する桃子さん。
僕には分かる。桃子さんが何を言いたいのか。
というか、桃子さんが僕に何をさせたいのかということが。

これはこの前お嬢様とご一緒した時と同じことなんだ。状況も同じなら桃子さんの表情も同じなんだから。
また僕をもてあそんだ挙句に、僕の気持ちを僕自身の口から大発表させようと誘導しているのだ。

なんでそんなことをするのかって?
そんなの、もちろん桃子さんが自分で面白がるため。ただそれだけのために。

そう何度も同じ手を食うものか。
だから、桃子さんの挑発的な質問にも慎重に答える。


「違いますよ」
「なに?好きじゃないの? じゃあ愛理のこと嫌いなんだ」
「まさか! そんなわけないじゃないですか」
「ほら、好きなんじゃん。意味がわからないよ、少年」

だめだ、相手が悪い。
桃子さんの攻撃がじわじわと効いてくる。

でも、僕に愛理ちゃんの前で大発表させようとしているのは、また僕の舞ちゃんへ対する想いなんでしょと早合点したが、そうではないのかな。
いまずっと桃子さんが聞いてくるのは、ひたすら僕の愛理ちゃんに対する気持ちのことだ。
そうか、そっちでイジりに来たか。

今しつこく言ってきてるのは、愛理ちゃんに対して「好き」っていう言葉を僕から引き出そうとしているんじゃないだろうか。

だから桃子さん、「好き」の意味が違うんですよ!
あの時説明したことの繰り返しになるだけなんですが、それをさせようとしてますか。
また長々と言葉の使い分けの違いを説明して、そしてお嬢様への僕の気持ちにも言及せざるを得なくなりry、って。
それをさせるのが狙いなんだろうか。

そんな説明、恥ずかしくてここで出来るわけがない。目の前にいるのはあの愛理ちゃんなんですよ。


お互い振り向きながらやりとりする僕と桃子さんを、愛理ちゃんがテーブルに頬杖をつきながら微笑を浮かべつつ眺めている。
桃子さんの後ろ側に見えるその光景に、また僕は固まってしまう。


・・・無理。

僕の気持ちなんか、愛理ちゃんに知っていただく必要はありません。
僕の彼女へのファンとしての気持ちはさっき本人に直接言った通りだから、それ以上の余計なことは言う必要なし。

愛理ちゃんのこと だ け を考えている僕に対して、桃子さんがそろそろ御立腹のようです。

「こらー!! もぉのこと素通りして、後ろの愛理に見とれるとか、どういうことだ少年!」


そうですよね、ちょっと露骨に見入っちゃいましたから。

「謝りなさい、わたしに」

なーんだ。
いろいろ言ってるけど、僕が他の子に見とれていることに嫉妬してるんだな桃子さん。
ちょっと彼女のことを、かわいいな・・なんて思ってしまった。

「ご、ごめんなさい」


もちろん僕に見て欲しいなんて、そんなこと桃子さんが思ってる訳はないわけで。
ただ単に、他の子に見とれてるのが感情的に気に入らないだけで。
そして、それと同時に自分が優位な立場に立つための言葉のトラップなんだ、これは。

やばいぞ、この展開は。
桃子さんは意識的に誘導している。この会話の展開を。
今ので完全に主導権を桃子さんに握られてしまったようだし。

僕のかなう相手じゃないのだ、桃子さんという人は。

「Buono!のファンとしてあるまじき態度だよ。リーダーに対してそんな態度、許されると思ってンの?」
「許されるも何も、・・・そりゃ自分の推してるメンバーの方に見とれちゃいますよ・・」
「なに?声が小さくて聞こえない! 少年はこれからもぉと愛理のどっちを応援するわけ?」
「Buono!のときですか? 愛理ちゃんですね(キッパリ)」

挑発的な桃子さんとやりとりするうちに、僕もつい聞かれたことにムキになって答えてしまう。

「ちょっと、もぉと愛理のどっちが好きなの。ハッキリしなさい」

その答えは質問される直前に、これ以上無いぐらいハッキリと答えたじゃないですか。しつこいな。
舞ちゃん以外の人の誰が好きかなんて、その議論は意味がない。もうこの話しは終わりにしたい。
それでも容赦の無い桃子さんは、その口調と表情と仕草で僕を徹底してイライラとさせてくれる。
そして、意外な人の名前が出てきたことで、僕のイライラはピークに達した。

「あ、分かった! やっぱり一番好きなのはくまいちょーなんだぁ!!」

頭の血管がピキッ!と音を立てるのが聞こえた。
思わず頭に血が上ってしまい、思いっきり叫んでしまう。

「熊井ちゃんのわけないでしょ! 僕が一番好きなのは舞ちゃんなんですから!!」


僕の発言を聞いた桃子さんの口角がニヤーッと歪む。
その後ろで愛理ちゃんが、その大きな目をさらに見開いていた。


・・・・・


僕は、馬鹿なんだろうか・・・
分かっていたのに、結局同じ手に引っかかってしまうなんて。

いや、違うよ。
恐ろしいのは桃子さんなんだ。罠に落ちないように気をつけていたのに。
分かっていも、桃子さんにはまるで歯が立たなかった。さすが、軍団長・・・


周りのテーブルの人からもクスクス笑われている気配がする。
顔が真っ赤になっているのを自覚する。
この場の空気にもう耐えられない。

「ぼ、僕はこれで失礼します!!」
「えー・・・もう帰っちゃうのぉ? せっかくだから、みやも呼ぼうと思ったのにぃ」

そんな桃子さんのからかいももう僕の耳には入ってこなかった。
あわててカバンを掴んで、二人に頭を下げてその場を後にする。

恥ずかしかった。愛理ちゃんの前であんなこと宣言しちゃうなんて、恥ずかしすぎる。
そして、明日もこのカフェに来て場所取りしなければならいことを考えると、さらに恥ずかしさがつのる。
気が重いなぁ。でも、席取りをさぼったりしたら熊井ちゃんから怒られるからそれは出来ない。
まぁ、明日のことは明日のことだ。

それに、僕はいま意外とそれほど気分は落ち込んでいないのだ。
そう、思いがけず会えた愛理ちゃん。そのことが僕の顔を緩ませる。まさか愛理ちゃんに会えるなんて! 
間近で見る愛理ちゃん、本当にかわいかったなあ。

ひょっとしてもぉ軍団とやらに関わるってことは、それほど悪いことでは無いような気もしてきたのだ。
だって、この間はお嬢様とお会いできたし、今日はこのように愛理ちゃんに会えたのだから。
うん、それだけおいしい思いが得られるなら、軍団と関わることで生じる多少の苦労は我慢できるんじゃないだろうか。


しかし、もぉ軍団がそれほど甘い集団では無いということ、それはこれからの未来が証明してくれることになるのだが、今の僕にはそんなこと知る由もなかったのだ。



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