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朝、僕はいつもこのバス停に立っている。
ここで、その時が来るまで、次々とやってくるバスをスルーしつつ、じっと待っているのだ。

そして、今日もやって来た。
向こうから寮生の方々が歩いてくる。

今日一緒に歩いてきたのは、お嬢様、舞ちゃん、お姉ちゃんと愛理ちゃん。
前列でお嬢様と舞ちゃんが、後列でお姉ちゃんと愛理ちゃんが並んで歩いていた。


近くまで来ると、愛理ちゃんは真っ先に僕に気付いてくれた。
愛理ちゃんの瞳にいま僕が映っているんだ!なーんて、思わずちょっと自慢したくなるじゃないか、こんな幸運。
それに対して僕はあわてて頭を下げる。
会釈するのが精一杯だ。やっぱり彼女を直視できない。まぶしすぎる。
そんな愛理ちゃんと、ついこの間会ったばかりなのにまた会えるなんて!
なんか僕と愛理ちゃんの距離が確実に縮まってはいないでしょうか(←そんなことはありません※筆者注)。 

更に嬉しいことに、愛理ちゃんが僕を見たことで、その隣のお姉ちゃんも僕に視線をくれたのだ。
そして、視線をくれるだけでなく、僕に微笑んでくれた。
でも今の感じは、愛理ちゃんの知り合いの人だから微笑んでくれた、っていうそんな感じだった。
やっぱり、僕はまだお姉ちゃんには憶えてもらえてないのかな。
それでもいつも笑顔のお姉ちゃんを見ていると、それだけで元気を頂けそう。その笑顔を見て、気分が明るくならないわけが無い。

そんな2人から視線をいただけるとは、今日も最高のスタートだ。ありがとうございます。

お嬢様と舞ちゃんは?

2人は僕のことなど、全く気付いてもいないようだった。
前を歩く2人が目の前まで来たとき、その理由がすぐに理解できた。
目に入ってきたのは、それはそれは異様な光景だったから。

僕は驚いてしまった。こんなに異様な光景を目の当たりにすることになるとは。


何が異様かって、激しく言い合いをしていたのだ。
お嬢様と舞ちゃんが。

お嬢様のこんな激高している姿は初めて見た。


「なに?まだ怒ってるわけ? しつこいなあ」
「当たり前じゃない! 本当に怖かったのよ」
「本当にちしゃとってお子ちゃまだよね。もうすぐ高校生になるとは思えないでしゅ」
「舞だって子供じゃないの! あんな子供っぽいイタズラを考え付くこと自体信じられないわ」
「ちしゃとのレベルに合わせてあげてんの。ふんっ」
「フガフガフガなんで舞はそんな意地悪なの! もういいわ!」

お嬢様でもこんなに感情を露にすることがあるんだ・・・
あんなに優しそうで柔和な笑顔しか見たこと無いのに。

舞ちゃんも普段は絶対にお嬢様に見せないような表情をして対抗している。
僕にはたまに見せてくれる、見られた者を凍りつかせる、この鬼のような表情(僕は結構それも快感なんですけどね)。
だが、お嬢様は全くそれに怯むことなく、むしろ舞ちゃんの上を行くような不機嫌オーラを全身から発していた。

尋常でない2人のやりあい。

僕は狼狽してしまった。
これ、どうすればいいんだろう。


さらに異様だったのは、2人のその後ろを一緒に歩いているお姉ちゃんと愛理ちゃん。
彼女達は、前で言い合ってる2人には全く関心がないかのように、フツーにふたりでにこやかに会話していること。

ちょっと、ダメでしょ。お姉ちゃん達。ケンカしてるお嬢様と舞ちゃんの2人を止めないと。
そんな無関心なのはどうかと・・・

***

小一時間前、寮の食堂で朝食のときの会話。

朝から緊張感ただよう雰囲気に、寮生もみんな黙ったまま朝食を口に運んでいる。
えりかちゃんなんか、さっきからずっと俯いたままだ。

その緊張感をつくりだしているのは、この2人。

「・・・・」
「・・・・」

お互いあからさまに顔を反対側に向けるぐらいなら、隣りの席に座らなければいいのに。



「ねぇ愛理、お嬢様なんであんなに怒ってるの? 舞もだけど?」

隣の舞美ちゃんが小声で尋ねてきた。

私はその理由を知っていた。
栞菜がお嬢様から聞いた顛末を私にも話してくれたから。

それを舞美ちゃんの耳元でささやく。

「あのね、昨晩のことなんだけどね。昨日舞ちゃんがお嬢様の添い寝係する予定だったのね」
「うん、知ってるよ。それ舞がとっても嬉しそうに私にも言ってきたから」
「それでね、寝る前に2人でホラー映画を見たんだって」
「ぴったりくっつき合って見てたんだろうね。かわいいじゃないか」

「問題はここからなんだよね。見終わって寝る前にお嬢様がトイレに行ったんだって」
「あ、ひょっとして」
「分かった? そう、そのひょっとして。舞ちゃん、お嬢様の入ってるトイレの電気を消して真っ暗な中に閉じ込めた・・・・」

「やっぱり・・・」
「うん、やっぱりって感じだよね」

「イタズラせずにいられないんだから舞は。それでお嬢様はどうしたの?」
「私の部屋に現れたのは怒りで身を震わせるお嬢様。そのせいなのか、私と過ごした一夜はいつもよりも情熱的で以下略だったかんなグヒョヒョ」
「かんちゃん!」

栞菜的にはこの状況は願ったりかなったりなんだろう。楽しそうな顔を隠そうともしない。
なっきぃが小声でそれをたしなめる。

「・・・まぁ、そういうこと。お怒りになったお嬢様はすぐに栞菜の部屋に行って、そのままそこで寝たんだって」
「なるほど。舞が不機嫌なのは、栞菜と添い寝の役を交代させられたからか」
「逆ギレとも言うけどねケッケッケッ。あとはいつもの売り言葉に買い言葉。そして、今はご覧の通りの状況」

険悪な雰囲気の中で、めぐが妙に楽しそうな表情で給仕をしている。
今のあの2人を刺激するようなことはなるべく避けて欲しいのに・・・ めぐったら、もう。

「舞ちゃん、お嬢様の添い寝なんて嬉しかったんだと思うよ。それで変なテンションの上がり方しちゃったんじゃないかなぁ」
「きっとそうだねー。舞、テンションの上げ方間違えちゃったんだね」
「怖がったお嬢様が自分に抱きついてくるとでも思ってたんだろうね」
「策士、策に溺れる・・・か。まぁ、それも舞らしいじゃないか」
「うん、舞ちゃんらしいよね」
「なるほど、そういうことか。でも、まぁいつも通りのことだね。安心した。あの2人のことだもん、すぐに仲直りするさ!」

***

お嬢様はまだ納得がいかない様子だった。
普段はなかなか口ではかなわない舞ちゃんを、今は怒りの勢いで何とか言いこめようとしている。

「千聖のことをそこまで言うのなら、昨日あのあと舞は一人で寝たんでしょうね」
「もちろんでしゅよ。ホラー映画見たぐらいなんともないでしゅ」
「あら、そうだったの。じゃあ、舞美さんが一緒に寝たっていうのは誰のことだったのかしら」
「な、何のことでしゅか?」


えっ!? 舞ちゃんは舞美ちゃんの部屋で寝たの?

さっき舞美ちゃん、舞ちゃんが何で怒ってるのかって私に聞いてきたんだよ?
舞ちゃんが不機嫌な理由を知らなかったっていうのか。珍しく舞美ちゃんの部屋で舞ちゃんが一緒に寝たって言うのに?
舞ちゃんの様子がおかしいとは思わなかったのかな舞美ちゃん。

でも、そこに全く気付かないっていうのも何か舞美ちゃんらしくていいな。
それに、そんな天然な舞美ちゃんだからこそ、舞ちゃんも安心して舞美ちゃんの部屋に行けたのかもね。

目の前で言い合いしているちさまいコンビを、舞美ちゃんが優しい笑顔で見守っている。


・・・ちょっと待って?

舞ちゃんが昨日お嬢様の添い寝係するはずだったっていうのは、舞美ちゃん知っていたんだよね。
そのお嬢様と添い寝しているはずの舞ちゃんが夜中に一人でやって来たんだから、いくらなんでもおかしいって気付くはず。

・・・そっか。

きっと舞美ちゃんはその時点で気付いてたんだ。
舞美ちゃん、本当は全て分かってるのに気付いてないふりをしているだけなんじゃない?

舞ちゃんの気持ちを全部分かってたんじゃないのかな。
だからそんな舞ちゃんの心に余計な負担をかけないように、何も言わずに部屋へ迎え入れて、何も聞かずに舞ちゃんと一緒に寝たんだ、たぶん。
うん、間違いない。だいたい、いま何も言わないことこそ舞ちゃんの気持ちを分かっているってことの証明そのものじゃないか。

これは舞美ちゃんの優しさだったのかも。
舞美ちゃんは自分の天然っぷりを利用したんだ。妹のように思ってる舞ちゃんのことを思いやって。

見てないようで、ちゃーんと見てるんだ。
自分のことよりも周りの人のことをまず第一に考える、そんな舞美ちゃん。
かなわないな、舞美ちゃんには。ここ一番で頼りになる心強い先輩。

さすが舞美ちゃん。
そんな舞美ちゃんが卒業してもこの寮にいてくれるって、それを聞いたとき本当に嬉しかったんだよ。
もう生徒会長ではなくなるけど、これからも頼りにしているからね、私達のリーダー。


「なに?愛理? わたしの顔に何かついてる?」
「ううん、なんでもないよ舞美ちゃん。ケッケッケッ」



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