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思えば、友理奈ちゃんというのは昔からとんでもない子だった。
猪突猛進。思い込んだら一直線。泣く子も黙る、スッポンの熊井。
彼女が生きてきた17年の間に、一体どれほどたくさんの人が、その突飛で唐突な行動や言動に頭を抱えた事だろう。


「ギュフゥ・・・」

そして、今まさに、その大変困った状況に巻き込まれているのが、他でもない私。


“うち、生徒会に入りたい!”


昨日まではそんな素振りも見せなかったのに、一体何を考えているんだろう。
頼みの舞ちゃんは友理奈ちゃんの味方になっているし、お嬢様も新しいオモチャを手に入れたチビッ子みたいなお顔。

どうすんだ、これ。戦っていくしかないのか、マトモ組の茉麻ちゃんや愛理とともに・・・。かんちゃんは、本能で生きてるからあてにならん!

「ねーねー、なっちゃんってば」
「なっきぃ?お顔をあげてちょうだい。千聖は大きな熊さんと一緒に、生徒会のお仕事を頑張りたいと思うわ」
「私もなっきぃの意見が聞きたいな」
「ヘイヨー悪いヤツは大体友達!」


――ああもう、みんな、わかってないんだ。権力を持った熊井ちゃんの恐ろしさを・・・

昔昔の話だけれど、幼稚園の頃、私と友理奈ちゃんは“どうぶつがかり”になって、おやすみ時間に、園で飼っている生き物の餌やりや掃除をやることになった。
同じ係の中には、乱暴者の男の子がいて、「おれはウサギがいい。おまえらはニワトリのせわをやれよ」と言って私のことを軽く小突いた。
そして、べそをかく私を一瞥した友理奈ちゃんは、表情も変えずにこう言ったんだ。

“なぜ、わたしたちがニワトリにきまったのか。なぜ、あんたがウサギじゃなきゃいけないのか。なぜ、わたしたちがおせわしたいどうぶつをきかないのか。
なぜ、おなじおせわがかりなのに、やれよってえらそうにめいれいしたのか。なぜ、なかさきちゃんをつきとばしたのか。ぜんぶこたえて”と。

幼稚園児に、そんな矢継ぎ早の問いかけに1つ1つ答えるようなスキルなんてあるはずもない。
当然、その男の子も慌てて逃げて行っちゃったんだけど・・・友理奈ちゃんがそれを許すはずもなかった。


帰りのお話の時間に、“○○くんにしつもんです。なぜ、わたしたち(ry”
次の日の朝のお話の時間に、“○○くんにしつもんです。なぜ、わたしたち(ry”
その日の帰りのお話の時間に、“○○くんにしつもんです。なぜ、わたしたち(ry”

男の子はうるせーばーかと反発する。先生は宥めようと右往左往。それでも、友理奈ちゃんは譲らなかった。

だったら、どうぶつのことはあとでいい。それよりなんでなかさきちゃんをつきとばしたのかちゃんといえ、と。
ついでになかさきちゃんも、なくまえにやりかえさないとだめだ、と。そんなことじゃしょうがくせいのおねえさんになっても(ry

そんな調子でくまくま責められ続け、男の子も私もベソをかいて謝らされ(なぜ私が・・・)、友理奈ちゃんはやっとあのほえーっとした笑顔になってくれた。


まあ、ここまでならいい話と言えなくもないだろう。問題は、次に友理奈ちゃんが言ったこと。


「じゃ、うちらがウサギのおせわやるからね!」

当然、なんでだよと反発する男の子。

「なんでって、ウサギがすきだからだよ!ニワトリもいいけど、うちとなかさきちゃんはウサギのおせわをやりたい!」


――人にあれだけ説明を求めておいて、自分はそんな理由・・・しかも、私どっちかっていうとニワ(ry


しかし、もはや友理奈ちゃんの独裁に口を挟めるものはいなかった。
彼女の中では筋の通った行動であり、そうなってしまえば反論したところで無駄なのはみんなわかっていたし、何より、あの無邪気な笑顔。
一点のやましさもない・・・そう、大きな赤ちゃんのようなそれを見せられると、なんかもう、しょうがないなあって思わされてしまう。

だから結局私は、楽しげにニワトリを追いかけまわす男の子を横目で見ながら、ウサギに噛まれつつ掃除を行うこととなったのだった。


「・・・という経験を踏まえ、私は友理奈ちゃんに権力を持たせるのは危険だと言っているケロ!」
「なっちゃん、なげーよ」

私の高らかな演説を、舞ちゃんが冷ややかな目で受け流した。


「ヒック・・・千聖、とても感動したわ。グスン・・・大きな熊さんはやっぱり素敵な方。ヒックヒック」
「わーん、お嬢様ぁ」

毎度感動のポイントがズレまくってるお嬢様と、もらい泣き芸に定評のある友理奈ちゃんは、身を寄せ合ってシクシクと泣いている。


「・・・まあ、わかるよなっきぃ」

そんな中、新会長の茉麻ちゃんは、いつもどおりママみたいに悠然と構えて、私の肩をぽんぽんと叩いてくれた。


「熊井ちゃんはね・・・まあ、なんていうか、熊井ちゃんだから」
「そうなの。熊井ちゃんが熊井ちゃんであるから、私はこんなに危機感を持っているわけ!」

こんなわけのわからんやりとりで、意思が疎通してしまうのが熊井クオリティ。
とにかく、友理奈ちゃんには違う委員会で頑張ってもらわないと。今空きがあるのは・・・・・いや、風紀委員はちょっと・・・

「でもさ、なっきぃ」

すると、茉麻ちゃんはさらに言葉をつないだ。

「まー、わかるんだ、なっきぃの気持ち。本っっ当にね。だけど、思うんだ。
私も、熊井ちゃんに、生徒会に来て欲しいって」
「まーさちゃん・・・」

それは、私にとっては青天の霹靂ともいえるような一言だった。
他の面々ならともかく、これから一緒に生徒会を良くして行こうっていう、そのリーダーが。

「でもでも、それは」

私は気持ちが顔に出やすい。きっと今、すごい渋い表情になってるんだろうな・・・。

「あはは、怖い顔しちゃって」

でも茉麻ちゃんは、それに怯むこともなく、いつものどんとこい!みたいな笑顔で私を受け入れてくれた。

「やりたいって言ってくれる人がいるんだからさ、みんなでフォローし合ってやってこうよ!」
「うー・・・」
「やった、さすがまーさ!うちの情熱を」
「あ、でもね熊井ちゃん。今回は絶対途中で飽きて投げたりしちゃだめだからね!
どうしてなっきぃがこんなに慎重になってるかわかる?生徒会の仕事っていうのは、本当に大切なものだからだよ。
なっきぃは学校を良くしていこうって、生徒会でも風紀委員でも頑張ってくれてるの。たとえ人に怖がられたって、自分の信じた道を進んで行く。それって誰にでもできることじゃないんだよ。
だからって、別に熊井ちゃんに、今すぐ優等生になれとか言ってるわけじゃないけどさ、うちら生徒会の先輩の言う事にも、ちゃんと耳を傾けてよね」

ね、と背中を押され、私は俄かに自分の視界が霞んでいくのがわかった。


「なっきぃ?」

「う・・・うわああん」

――ああ、情けないったら!

何という、まーさちゃん・・・いや、ママの懐の深さ!
そして、私の気持ちを汲み取りながらも、熊井ちゃんの意思を尊重し、なおかつ牽制してくれた。
びっくりしたのと、嬉しかったのとで、涙がボロボロ落ちてきた。
高2にもなって・・・と自分でも思うんだけど、泣き虫なっきぃはまだまだ返上できないようだ。


「まあ、泣かないでなっきぃ。大丈夫よ、千聖がそばにいるわ」
「誰!なかさきちゃんを泣かしたのは!なかさきちゃんを泣かしていいのは(ry」
「いや、泣かせたのは熊井ちゃんでしゅ。てか、そんなに泣かないでよ。どーしたらいいかわかんないじゃん・・・」

みんなも、茉麻ちゃんにつられてママ化して・・・私だけが、ギャン泣きする幼児みたいで恥ずかしくて、さすがにすぐに涙は引っ込んでしまった。

「グス・・・お騒がせしてすみません。
もう私、一生まーさちゃんについていくケロ」
「ええ?また大げさな。
で・・・あのね、私、嬉しいんだよ熊井ちゃん。
何事も定着しない熊井ちゃんが、・・・まあ、さっきのアレは舞ちゃんに読まされたとはいえ、今回は1つのことにしっかり向き合ってやり遂げようとしてる。ママとして、応援しないわけにはいかないじゃないの!ね、なっきぃ!」
「う、うん!」

勢いでうなずいてしまってから、しまった!と気づく。
だけど茉麻ちゃんは相変わらず頼もしく笑ってくれてるから、まあ、いいかな・・・とか思い始めてしまった。


「あのね、なっちゃん」

すると、今度は舞ちゃん。


「舞はさ、ずっと生徒会とは関係なく過ごしてきたじゃん。だからこそ、途中でお手伝いとして関わるようになって、いろいろと見えてくるものがあったのね。
そんなつもりはなくても馴れ合いになっちゃってる部分や、もっと良くなるはずなのに、現状維持で終わっちゃってる議題。そういうの、熊井ちゃんみたいなストレートな人なら、バシッと気持ちよく指摘してくれるじゃん?・・・ほら、舞は意地悪っぽい言い方になっちゃうし」
「あら、自覚はあるのね。ウフフ」
「そこは否定しろよちしゃと!本妻だろっ」
「キュフフ」

みんなの気持ちを受け、私も大分気が楽になってきた。
あとは・・・


「ゆりなちゃん、生徒会の仕事。大変だけど、本当にやりたい?やりとげられる?」
「やる!とげる!」
「よし!」


みんなみたいに、丁寧に言葉を紡いでくれたわけじゃないけれど、熊井ちゃんの目はいつもどおりまっすぐ澄んでいたから、もうこれでいいと思えた(服装は凶悪ラッパーのままだけど)。

「・・・いい、ゆりなちゃん。
私の目の黒いうちは、好き勝手になんかさせないんだからねっ」
「なにそれー?じゃあいつかは青くなるの?」
「くーまーいー!!!」

まったく、今日から矯正プログラム発動だケロ!
後でパソコンルームで資料作らないと・・・なんて鼻息荒く考えていたら、生徒会室のドアがノックされた。


「どーぞー?」

「・・・おじゃましまーす」


おや、珍しい。
くるんくるんのまつげに、栗色の髪の毛のお人形さんみたいな女の子。
遠慮がちに扉を開けたのは、りーちゃんだった。


「あのぉ、なんか・・・まあ、よろしくおねがいしまーす」
「へ?」

一体、何を言ってるんだ。何についての、よろしく?
みんなも、私と同じくキョトンとしている。・・・・ヤツを除いては。


「あー、梨沙子きたきた!遅いよー」
「だからー、私もいろいろ忙しいって・・・て、あれ?」

察しのいいりーちゃん、熊井ちゃんと私達の空気が違うってことに気がついたらしく、慌てて姿勢を正す。

「あの、すぎゃさん・・・大きな熊さんは、何か御存知のようだけれど・・・私、何のことなのか、心当たりがなくて」
「舞もわかんないよ、りーちゃん。よろしく、って?」
「えーっ!ちょっと熊井ちゃん!どういうこと?あばばばば」

テンパり、慌て出すりーちゃん。熊井ちゃんはそれを見て、何度かまばたきをしたあと、「あー、そっか!」とくまくま笑い出した。


「ごめん、言うの忘れてたーあはは」
「な、なんのこと・・・」


私の背中を、冷や汗が流れ落ちる。
長い付き合いだ。なんとなく、勘でわかる。熊井ちゃんはこの後、ロクでもないことを言い出すに違いない。

「梨沙子も生徒会に入ったから!」

「は!?」

これにはさすがのまーさママも驚いて、某新婚さんいらっしゃいのごとく、パイプ椅子から綺麗なずっこけをかました。

「入るって・・・役職は?もう埋まってるんじゃない?」

比較的冷静な舞ちゃんも、さすがに声がじゃっかん上ずっている。
この状況で楽しそうなのは、友理奈ちゃん・・・と、ピュアで純真な私の天使様だけ。


「まあ、すぎゃさんも?嬉しいわ。これからもよろしくお願いします」
「おじょじょ!お待ちください、私には何がなんだか」

キッとりーちゃんを睨・・・んだつもりはないけれど、視線はキツくなってしまっていたらしい。
ちょっとあばあばしながら、りーちゃんは言った。


「え・・・なんか、熊井ちゃんの推薦で、生徒会の広報になれるって聞いたんですけど」
「推薦んん!?」

なっきぃ、落ち着いて。と茉麻ママになだめられつつ、じょじょに頭に血が上っていくのを感じる。


「く、熊、おま、じ、自分が正式に承認されてたわけでもないのに、くま、おま、おま」
「いやー、梨沙子もいたほうが楽しいじゃん!それにさぁ、もぉ軍団が学校支配!って感じでかっこいいし!」
「し・は・い?」
「あとー、みやびと千奈美も補佐でいろいろやってくれるってさ!やったねなかさk」
「ギュフーーーーー!!!!」

ああ・・・私のおたけびって、こんな間抜けな感じなのね・・・なんてどうでもいい感想を抱きつつ、あまりのショックに、私の意識は遠のいていったのだった。



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