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あの人”を初めて見た時の衝撃を、私は今でも、言葉に表す事が出来ない。
あんなにたくさんの人の中で、あの人のいるところだけ、光が射しているみたいだいった。
綺麗な瞳。綺麗な髪。まるで昨日の事みたいに、鮮やかに思い出す。

あんな人が、この世に存在するなんて。


あの日からずっと、私の心の中には、一人の上級生が住みついてしまっている。


「・・・遥、次の授業美術室だよー。もうみんな行っちゃうよー」
「んー」

今日も今日とて、私はぼんやりとあの人のことを考えていた。
もともと授業なんて、大して真面目に受けてたことなんてないんだけど・・・・最近は特にヒドい。

「ねー、遥ってば」
「あー・・・、いいよ。先行ってて。てか、いいよ別に、いちいち誘わないで。
合わせんのだるいから、一人で行くし」

そろそろ移動しなきゃいけないってのはわかってるんだけど、もう少しあの人について一人でぼんやり思っていたい。
それに、いちいちみんなでダンゴになって行動するのって、超めんどい。便所とか、一人で行けよっつー。

私のそういう態度に慣れっこな友達は、呆れたようにため息をついた。


「遥って、ホントは男子なんじゃないのー?」
「あー、自分でもたまに思うわ、それ」


みんながキャッキャとはしゃぐ声が、どんどん遠ざかっていく。
春の日差しはポカポカ暖かくて、私は机に突っ伏して目を閉じた。

――やばい、こんなことしてる場合じゃないのに。心地よい気温が私のやる気を奪っていく。
そういえば、あの人は今頃・・・何してるんだろう。
こっそりパクッてきた、高等部の時間割を広げてみる。・・・体育か。この時期って、高等部も体力テストをやるのかな?
運動、どうなんだろう。おっとりしてそうだし、体も小さいし、少なくとも活発そうには見えない。

本当は美術サボって、こっそり見学にでも行きたいんだけど・・・さすがにバレたらヤバいだろう。
思い立ったら行動せずにはいられない私、先生に怒られるのは日常茶飯事だから、それ自体は別に構わない。
だけど、お説教、反省文、正座と、ここ最近の先生のお仕置きは少しずつレベルアップしている。いろいろ積み重なってるし、そろそろママにチクられるころかもしれない。当分は大人しくしてないと・・・


「・・・行くか」

独り言ともに、私はリコーダーと楽譜を抱えて教室を出た。
廊下の大窓からは、隣の敷地にある、高等部の校舎が見える。
あそこに、いるんだ。あの人。
あの時は赤だった制服も、今はもう青か。早く、その姿を見たい。それで、私があの人を・・・


音楽室へ向かう間、私は数日前の、あの日の出来事をゆっくりと思い返していた。


*****

「みずきちゃん、マジで?」
「うん、だってこんなチャンスはもう巡ってこないんだよ」

3月下旬。
私とみずきちゃんは、中・高等部の正門の前にいた。
私たちは3つも年が違うけど、妙に気があうから、こうやってたま~につるんだりすることがある。
今日はなぜ、こんなところにいるのかというと・・・ごめん、私にもよくわからない。

中等部1年のみずきちゃんが、私を初等部の昇降口まで迎えにきたのはさっきの出来事。
そして、こう言われたんだ。“私と一緒に、楽しいところに行こう”って。

うちとは違ってお金持ちで、でっかいおうちに住んでるお嬢様のみずきちゃん。だけど、すっごい変わってて、変な遊びばっか持ちかけてくる、おかしな子。
そんなみずきちゃんが、こういう誘いをかけてくるときは、間違いない。何か面白いことが起こる。

そう信じてついていくと、連れて行かれたのはここ、大きいお姉さんたちの学び舎の真ん前。
着いた途端、みずきちゃんはくるっと振り返ってこういったんだ。“高等部の卒業式、見たくない?”と。


「いや~・・・さすがに無理でしょ」

校門の前では、“風紀委員”“環境委員”という腕章をつけた上級生たちが、変質者の侵入を防ごうと目を光らせている。

「いいですか、今日は絶対に、いい式にするんですから!外部の方をお入れする場合は、招待状を必ず拝見すること!」

輪の真ん中で、キャンキャンと黄色い声で指示を飛ばしている、他の人とは違う赤い腕章の人。


「こえ~・・・」
「あ、あの人?ウフフフ~、あの人はねぇ、中島さんといって、すでに来期の生徒会幹部に内定している、優秀な方なんだよ」
「へー・・・」
「ご覧の通り、風紀委員長さんも兼務しているの。
中高等部の先輩たちって、制服もオシャレに着崩してるでしょ?でも、あんまりやりすぎる人が出てこないのは、中島さんの厳しい風紀チェックのおかげなんだよ。
で、その横。環境委員の腕章つけてて、ニコニコしてるポニーテールの人ね。
あの人が、鈴木さん。ほわーんとしたオーラが素敵じゃない?鈴木さんはね、時期生徒会の、副会長っていう噂。
学園祭のBuono!のステージだと、あんなに激しいパフォーマンスなのに、普段はあのおっとりした・・・ああ、そっか、遥ちゃんは学園祭遊びに来なかったんだっけ」
「興味ないし」
「もったいないなあ」

ああ、本当に素敵な人たち・・・とみずきちゃんはうっとりした声でつぶやく。・・・わからん。全然ついていけない。

「ま、とりあえず、中島さんはあんな可愛い顔なのに怖い人ってのはわかったよ。鈴木さんはおっとり系ね」
「・・・もー、冷めてるなぁ。
ま、いっか、生徒会幹部の魅力はまた今度教えてあげる。じゃあ、そろそろ行こう!」
「は!?」

そうやって、話すだけ話した聖ちゃんは、満足そうな顔で私の腕を取って、ぐんぐんとその風紀部隊へと迫っていく。

「待って待って!ヤバイよ!」
「何が?」
「私、まずいんだって!今月悪さいっぱいしたからさー、初等部に連絡入ったら困る!」

教室のドアに黒板消し挟んだり、理科の実験でわざと爆発起こしてみせたり、その他余罪多数。
昨日なんて、ムカつくこと言ってきたクラスメートと取っ組み合いのケンカになって、止めに入った先生に超怒られた。
極めつけに、こうやって大事な高等部の卒業式に侵入しようとしたとなったら・・・そりゃもうただじゃすまないだろう。


「大丈夫だってば」
「無理!ここで待ってるし」
「何でー?」

腕を引っ張るみずきちゃんと、踏ん張る私。
2人で意地になってウーウーと唸っていたら、噂の中島さんがこっちに向かってズンズンと歩いてきた。


「うわっ来た、ヤバイヤバイ!」

「・・・あれー、みずきちゃん?」

だけど、意外なことに、中島さんはみずきちゃんにフレンドリーに話しかけた。

「中島先輩こんにちはー。・・・ほら、遥ちゃん!挨拶して」
「・・・っス」
「ス?」

雑な私の挨拶に、その大きな目が若干光ったような気がしなくもない。・・・が、忙しいタイミングだったからか、別に注意とかはされなくて、中島さんは再びみずきちゃんを見た。


「みずきちゃん、何かあった?なんでも力になるからね?」

なんだ、知り合いなのか。
そうじゃなきゃ、変人のみずきちゃんとはいえ、上級生の風紀委員にこんなフレンドリーにはできないか。


「先日も少しお話ししたんですが、私、今写真クラブに入っておりまして。
今日の卒業式を撮影させていただくよう、顧問の先生から言われて参りました」
「あ、そうなの?それじゃ、いい写真撮って、卒業生を喜ばせてあげてね!キュフフ
えーと、あなたは・・・」
「彼女も部員です。初等部だけど。紹介します、工藤遥ちゃんです。ね?」
「えぇ!?あー、そうらしいっすね」
「ふーむ・・・」


特徴的などんぐり眼で私をじーっと見る、風紀委員長さん。
反射的にガン飛ばし返しそうになるけれど、ここはグッと堪えておあいそ笑い。・・・メッチャほっぺ引き攣るんですけど。


「・・・ま、みずきちゃんの後輩なら、大丈夫か。どーぞ、入って!あと15分ぐらいで式始まっちゃうから、先生たちにちゃんと挨拶して、立ち位置とかしっかり確認してね!」
「はい、わかりました。いい写真が撮れる様に、頑張りますね」

おっとりとお辞儀を返し、校門をくぐるみずきちゃんに続いて、私もついに敷地内に侵入する。

「ねー・・・ほんとに顧問の先生に言われたの?」
「・・・・・・・普段いい子にしとくのって、やっぱ大事だよね」
「うへっ、こえーな、みずきちゃんは!」

こういうとこが面白いから、みずきちゃんとの付き合いはやめられん。
まあ、何だかんだいって、私だってまったく卒業式に興味がないってわけでもない。
よくあるじゃん、テレビドラマとかで見る、めっちゃ熱い卒業式。ああいうノリ、嫌いじゃないし。
ま、おとなしめなうちの学校で、そんなのが見れるのかは謎だけど。

「今年の卒業生はね、魅力的な人がたくさんいるから。一人一人、じっくり解説つきで紹介してあげるから」
「うわ、いらねー」


体育館につくと、既に在校生は後ろの方に着席していた。
中等部は、希望者だけが参加するってシステムらしいけれど・・・館内には、赤い制服の生徒もたくさんいる。
紺色の紐リボンに、丸襟ブラウスの私はあきらかに浮いていて、ステージに近づいてく間もジロジロ見られているのを感じる。

みずきちゃんはあんまりそういうの気にならないみたいで、私の手首を掴んだままどんどん進んでいく。

「○○先生、こんにちは。
中等部の譜久村です。写真クラブの活動で・・・」

近くにいた先生に、丁寧に挨拶している姿は、やっぱりお嬢様で優等生。
私なんかと友達なだけあって、かなりおかしな子だけど、みずきちゃんって見てて飽きないと思う。色々な顔を持ってる。

「ヌフフフ・・・今日は超絶美人の御尊顔を、合法的に撮りまくれるファンタスティック・デー。
フィルム1000枚で足りるかな?遥ちゃん」
「なんかもうあなた、どうしようもないっスね」

卒業式なんかより、みずきちゃん見てた方がよっぽど楽しそうだな、と私は残念な友達を眺めながら思った



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