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キャー、矢島せんぱーい
えりかお姉様ー


――あー、うるせーな。

湧き上がる黄色い歓声が癇に障って、岡井さんの顔を見るのに集中できない。

「ねー、みずきちゃ」
「キャー、ももちせんぱーい!」

お前もかよ!


「遥ちゃん、列の先頭ね。黒髪で色白の、さわやか美人さん。あの人が生徒会長の矢島さん。
陸上部では記録をバンバン更新し、学業成績も優秀で・・・それでいて、気取ったところのない素晴らしい方なの。天然で可愛らしい一面も持っていらっしゃってぇ」
「みずきちゃん、よだれ拭いてね」
「その隣。明るい茶髪の、スラッと背の高い方。総務の梅田さんね。ファンクラブまである、大人気の先輩だよ。エキゾチックな美貌と、涙もろくてちょっぴりドジッ子なギャップがたまらんですたいって感じだよね。
で、後ろ。小柄でとても可愛らしい、メガネの先輩がいるでしょう?会計の清水さん。
生徒会3年生のまとめ役で、先生方からも絶大な信頼を寄せられていた方。真面目だけど、それだけじゃなくてね、後輩にも気さくに接してくれるの。悩み事を相談してた後輩もたくさんいたみたい。」

淡々と、しかし口元をニヤつかせながら私に無駄情報を垂れ流すみずきちゃん。写真部のでっかいカメラを構える姿は普段ならカッコよく見えるけど、今は話してる内容が内容だけに、盗撮専門の本格的なヘンタイって感じだ。

「つか、みずきちゃんがそっち系だったとは知らなかった」
「そっち?どっち?」
「言いたくもねーわ」

すると、みずきちゃんは片眉を上げて、ふっと鼻で笑った。

「ふふ。そんな事いってるけど、遥ちゃんだって」
「だから、岡井さんは違うってば」
「おやおやー?岡井さんのことだなんて、いつ言ったかしら」
「なっ・・・」

カッとなった私は、再度みずきちゃんにおっぱいタックルを食らわしたろうと身構える。

「もー、だめだよ。お子ちゃまだなあ」

恒例の遊びだから、私の行動なんてお見通しなみずきちゃん、余裕の表情で私のおでこに手を添えて前進を妨害してきた。

「はーなーせー」
「あのね、遥ちゃんも大人になればわかるだろうけど、胸はそんなに乱暴にしたらだめなのよ」
「だって狙いやすいじゃん。みずきちゃんのでっけーし」
「ああ、そういえば岡井さんもかなり、お胸が豊かなのよ」
「くぁwせdrftgyふじこlp」


みずきちゃんのせいで、手前の先生にシーッ!て注意を促される。
しかも、私の方だけ睨んできてるし!こえーな、みずきちゃん。腹黒め。

それにしても・・・なんなんだろう、みずきちゃんの乳がデカくてもどうでもいいのに(攻撃目標ぐらいにしか思わん)、岡井さんもでっかいんだ、とか思うと、すごくソワソワする。
みずきちゃんにやってるみたいに、タックルやパンチを食らわせるんじゃなくて、つまり・・・(あ、余談だけどみずきちゃんはちゃんとやりかえしてくるよ!バロスペシャルってやつをやられた時は死んだ。)


「あー、遥ちゃん遥ちゃん!見て!」

私がまた、岡井さんに気をとられかけていると、思いっきり背中をバシバシやられた。

「いってえ!」
「ほら、あの人!」

珍しく、声を裏返らせて興奮してるみずきちゃん。
しぶしぶ言われた方向に顔を向けたら、一人の3年生が、歓声の中をクネクネ歩いていくのが見えた。

“ももちせんぱーい!”
“もぉ軍団は永遠ですよー!”
“Buono!やめないでー!!”


見たこともないような、ドぎつい水玉模様のピンクのリボン。
キラキララメが光りまくってるニーソックス。
スカートは白いレースのフリルがたっぷりつけられ、ツインテールの髪を、イチゴのついたヘアゴムでまとめたヤバイ感じの人が、在校生席にご機嫌に手を振っている。


「な・・・なに、あれ」
「うおおおももちももちももち」
「誰だお前」

野太い声で声援を送るみずきちゃん。・・・もう、ほんとダメダメだねこの人。

「いいですか工藤さんあの御方は嗣永桃子様というお名前で在らせられてあのような非常に個性的且つ華やかなキャラクタアで当学園のシンボルとして君臨しそのカリスマ性は(ry」

うわあ・・・どうすんの、これ。
もはや写真クラブというか、アレじゃん。カメラはもう完全にツグナガさんって人の方しか向いてないし、シャッターの音も連写のようにパシャパシャと鳴り止まない。


「ああ・・・美しい小指。桜貝のような御爪・・・キュートでチャーミングなあの笑顔。もう、天使だね。そう思わない?」
「思わねえし」


“キャー、ももこせんぱーい!”

「ウフフ、ありがとぉ♪」

“ももちせんぱーい!御卒業おめでとうございまーす”

「うれしーにゃん♪えいっ、こゆびーむ!」

キャアアア!

――何これ。さっきまではちゃんと卒業式って雰囲気になってきてたのに、このももちとかいう人が引っ掻き回して、自分のステージにしてしまっている。
顔・・・ま、確かにかなり可愛いんだけど、さっきの生徒会長とかウメダって人とかに比べたら、めっちゃくちゃ美人っていうわけでもない。
なのに、その高3とは思えない動きとアニメ声、変なキャラがプラスの要素になって、まるでテレビに出てるアイドルのようにもてはやされて輝いている。
ギュフー!とかいう変な歓声も聞こえる。変人は変人を呼ぶということなのだろうか。



「あはは、もも、それは後でね!列が乱れちゃってる!おさがわががせしました!」

すると、さすがに慌てた様子で、生徒会長さんが戻ってきた。
そのまま、“ももち”の首ねっこを掴んで、ずるずると引きずって行ってしまった。

「ファンのみんな、あとでねー♪もぉ軍団がももちお別れの会をやってくれるから、楽しみにしててにゃん♪」

は?やんないし!とそのナントカ軍団と思われる人の声が聞こえた。・・・ま、そういう力関係の軍団なんだろうな。
しかし高等部というのは、予想以上に濃いキャラクターの集まりだったみたいだ。学校新聞ぐらい読んどけばよかったかな。

それにしても・・・きっと、大事な式がこんな風におちゃらけた風になっていて、お嬢様な岡井さんは不愉快な気持ちになってるんだろうな。

別に自分がそういう空気にしたわけじゃないのに、何かソワソワしてしまって、チラッと岡井さんの方を見る。


「あれ・・・」

だけど意外なことに、“ももち”の後ろ姿を見つめる岡井さんは、とても優しい顔をしていた。
周りの人みたいに、熱狂的に盛り上がってはいないけど、あの茶色い瞳で、まっすぐな視線を送っている。

「あ、お2人はももちさという通名があるぐらいの名コンビだから。不思議なくらい相性がいいんだよ。そもそも2人の出会いは(ry」
「聞いてない 誰もそこまで 聞いてない」

相変わらずキモキモなみずきちゃんはさておき、やっと卒業生全員が着席し、在校生席の電気も灯った。

「あー、もうフィルムが残りわずかだよ。どうする、遥ちゃん?」
「どうもこうもないっすよ」

ま、全然興味のなかった卒業式だけど、少しは楽しませてもらえそうだ。


「一同、起立」

校長先生の声で、空気が変わったような気がした。

“ももち”も、もう笑ってはいなかった。さっきのおちゃらけた態度が嘘みたいに、黙っていると陶器のお人形みたいに無機質な顔になる。
みずきちゃんもシャッターの手を止め、いつものぼんやりとした、何を考えてるかよくわからないけど、綺麗な横顔に戻っていた。

まだ切り替えの上手くできない私を残して、会場中が、これから始まる大事な式に向かって、緊張感を持ち始めているみたいだった。



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