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・・・それにしても、卒業式って、バカみたいになげーのな。

校歌歌って、校長先生の挨拶(15分も・・・)、来賓がどうのこうのって、めっちゃ退屈な時間がずーと続いている。

「フフフ、予備のフィルムもつかっちゃお♪」

相変わらず楽しそうなヘンタイみずきちゃん、私のことなんて構ってもくれず、あの“ももち”を中心に、在校生席までカメラを向けてパシャパシャやってる。

私はまた、岡井さんの方をこっそり見てみる。
すると、ちっちゃい頭が、コクンコクンと舟を漕いでいた。・・・眠いんだな。

「・・・かわいい」

隣の萩原さんに肩パンされて、ビクッてなって起きるのに、またすぐウトウトしだして、何か赤ちゃんみたいだ。
萩原さんもそのうちあきらめたのか、肩にポッチャマのタオルを置いて、岡井さんの枕にしてあげることにしたようだった。
そっと岡井さんの頭に頭を寄せて、すごく穏やかな顔をしている萩原さん。

それを見ていたら、何か胸がもやもやして、私はたまらず目を逸らした。
すると、何か言いたげなみずきちゃんと目が合う。


「何」
「ふふ」

そのまま、私の顔に向かってフラッシュを焚く。


「まぶしっ・・・てか、何で撮るんだよっ」
「だっていい顔してたから、遙ちゃん」
「・・・いや、してないっしょ。笑ってなかったし」


岡井さんのことを考えて、何か苦しくて悔しくて、そっぽ向いた瞬間の写真とか、可愛いわけがない。
おかーさんにもよく言われる。あんたそうやって逆ギレしてる顔、ほんと不細工だわって。

でも、みずきちゃんは私の顔をまっすぐ見つめたまま、「ううん、すごくいい顔だった」と繰り返した。

「笑ってる顔だけが、いい顔ってわけではないのよ、遙ちゃん」
「よくわかんない」
「ふふ。きっと、そのうちわかるようになるよ」

そんなもんなんだろうか。みずきちゃんみたいに、中等部になったら、今は見えてないものがみえたり、わからないことがわかったりするのかな。
岡井さんを見て、どうしようもなく泣きそうになったりするこの気持ちの正体とかも・・・。


「・・・あとでさ、その写真、ちょうだい」
「うん」


“――続きまして、卒業証書、授与”


「おっ」

やっと、面白そうなコーナーに突入した。
ウトウトしていた岡井さんも体を起こして、まるで何事もなかったかのように、あの茶色く澄んだ目を壇上に向けている。


“生徒代表、第○代生徒会長 矢島舞美”
「はいっ」

少し上ずった、ハキハキした感じの声。

さっきみずきちゃんが解説しまくっていた、黒髪の綺麗な生徒会長さんが、勢い良く立ち上がって・・・膝の裏を椅子にぶつけたらしく、「いたーい!」なんて声をあげてる。


「うふふふふふ」
「みずきちゃんは美人なら誰でもいいんかい」
「・・・誰でもってわけじゃないけど・・・んー、でもとりあえず生徒会と新聞部とぉ」
「あっそ」

ここまですがすがしいほどのヘンタイなら、一周まわってヘンタイじゃない気がしてきた。
まあ、たしかにあの生徒会長さんはものすごい美人だ。心を奪われるのもわかる。
背が高くて、チュウセイ的?っていうの?あんま女の子っぽい可愛さじゃないところが、いかにも女子校でモテる先輩って感じ。


「ちょっと舞美、どっち行くの?舞台には右から上がるんだよ!」
「えっ、ごめんえり!むかって右?それとも私から見て?」
「ウフフ、もー、舞美はしょーがないなー」

そして、黙っていれば冷たそうにも見えるその美貌なのに、中身はなかなかの天然さんのようで。
緊張感に包まれていた場内に、小さな笑いが起きた。


“――右の者は本校に置いて、普通過程を卒業したことを証する”

生徒全員の代表として、壇上の矢島さんが、証書の束を受け取る。

そのまま階段を下りるのかと思いきや、矢島さんはくるりと体の向きを変え、校長先生にお尻を向け、館内の人全員と向き合った。


「私、この学校に入って、本当に良かったです!!」


満面の笑顔でそういうと、深く一礼。

私の位置からだとわかる。その背中は、かすかに震えていた。
みずきちゃんを見る。カメラは降ろして、まっすぐに矢島さんを見ていた。
私たちは自然に手をつないでいた。


「・・・私は、皆さんに支えられて、2期にわたり、生徒会長の任を勤めさせていただきました」

しばらくして、顔を上げた矢島さんは、また喋り出した。

「私、本当にドジというか・・・間抜けているというか。こんな性格だから、本当にそんな重要な役を与えてもらっていいのか、いつも悩んでいました」

うちの生徒会長は、舞美だけだよー!なんて、在校生席から、明るい声のヤジが飛ぶ。
矢島さんはそれを、ニッコリ笑って受け止めたみたいだった。

「・・・でも、かけがえのない友達が、先生方が、先輩が、後輩が、両親が私を励ましてくれて、こうして今、卒業生の代表として、証書を受け取らせていただくという、大役を果たすことができました。
この大好きな学校を、大好きな同級生の皆さんとともに・・・大好きな人たちに見守られながら旅立っていけることに、心から喜びを感じています」

一言一言を、噛み締めるようにゆっくりと紡ぐ矢島さん。

卒業式にありがちな、台本どおりの言葉じゃなくて、ちゃんと自分の思ったことを話しているんだってわかる。
高等部のお姉さんで、生徒会長っていう偉い立場の人なのに、そういう風にできるのってかっこいい。
そりゃあ、2回も生徒会長に選ばれるだろって感じだ。

「皆さんと過ごした大切な日々を、私は一生忘れません。
私がこの学校で授かったもの・・・出会った人々・・・1つ1つの事に御礼を述べたいのですが、たくさんありすぎて、明日までかかってしまいそう。ですので、一言だけ」

言葉を区切った矢島さんは、大きく息を吸い込んだ。

「ありがとうございました!!」

そう、言い終わるか終わらないかのうちに、爆発みたいな音の拍手が場内に響いた。

「舞美ー!かっこいいぞー!」
「矢島せんぱーい!!」


私も自然にみずきちゃんの手を離し、パチパチと両手で大きな音を鳴らす。

――すごい。なんか、ジーンってなった。
うまく言葉にならないんだけど・・・この矢島さんのお話を聞けただけでも、卒業式を見に来てよかったって思えた。

まっすぐで飾らないメッセージ。さわやかな笑顔。マンガのキャラクターみたいな人だ。

そして、そのまま壇上から、とても楽しそうに場内を見ていた矢島さん。・・・だが、突然その目がカッと見開かれた。


「あーっ!!!」


突然の絶叫に、一気にシーンと静まり返る。
両手で口を覆った矢島さんは、「どうしよう・・・」とつぶやいた。

「・・どしたの、舞美!」

さっきみずきちゃんが言ってた“梅田さん”というハーフっぽい美人が、あわてて階段の下まで駆け寄る。


やっべやじうめktkr!と謎の専門用語を使いながら、みずきちゃんが顔を付き合わせる2人をカメラで撮りまくっている。


「あのね、いいですか遙ちゃんやじうめというのは」
「あ、結構です。てか、そんなに写真撮ってどーすんの?在校生に売りつけるの?」
「そんなことするわけないじゃない」
「じゃあどうすんの」
「うふふふ・・・知りたい?あn」
「あ、やっぱいいです」


私たちが雑談してる間に、梅田さんは舞台に上がって、矢島さんの手をガシッと握っていた。


「大丈夫だよ、ウチがついてるからっ」
「えり・・・どうしよう・・・あはは」
「ん?」

よく見ると、困ったように笑う矢島さんのおでこに、ぽつぽつと汗が滲んでいる。
今日なんてちょっと寒いぐらいなのに、よっぽど慌ててるのかな?


「今・・・つい調子に乗ってね・・・言っちゃった」
「え?何を?」
「いや・・・このあとの、“別れの言葉”で言うはずだったこと、ほとんど今言っちゃった・・・あははは」
「まいみぃ・・・あーたって人は最後まで・・・!」


「・・・ぷっ」

もう、何なんだろうこの生徒会。漫才集団かよ。
思わず吹き出すと、近くにいた生徒たちが私を見た。
でももう、止められない。

「あはははは!」

みずきちゃんの背中をバンバン叩きながら笑う。
すると、みずきちゃんもうふふと笑い出して、そのうちに、他の場所からも、次々と笑い声が広がっていった。

今度は、拍手じゃなくて爆笑の渦。
真面目な顔してた校長先生まで、苦笑でその光景に呑まれている。


「舞美ったら、最後までぇ。ウフフ、ここは愛の天使ぴーちっちがぁ」
「まーこんなこともあろうかと!ちゃんと予備の答辞用意してたから大丈夫!あとでこれ読みな!」
「おー、さすが佐紀!佐紀は生徒会の愛の弾丸だね!とか言ってw」
「意味わかんないから!」
「ちょ、もぉのことハブんなよっ!だからぁ、ここは学園のシンボルのもぉがぁ」
「そんなシンボル、ないほうがマシだわ」
「しゃきたんひどい!」



“清水さん”と“ももち”も加わって、漫才のようなやりとりも、場内の爆笑も一向に収まらない。


「あはは・・・」


だけど。

私の笑いは、在校生席に目を向けた瞬間、凍りついた。


現生徒会の、在校生の人達。みんなおなかを抱えて大笑いしている。


何かメモを取りながら、にやにやしてる有原さん。
中島さんはぐったりと背もたれに凭れて、それでもその唇には笑顔が浮かんでいる。
須藤さんと鈴木さんは、何か喋りながら本当に楽しそう。
あの目力の萩原さんも機嫌が良さそうに、ニコニコと壇上を見つめている。

その横で、岡井さんも笑っていた。
すごく優しい笑顔で、胸元で手を握り締めて。


だけどそのほっぺたには、あの茶色い瞳から溢れた大粒の涙が滑り落ちていた。



息が出来ない。

岡井さんは、笑ったまま、静かに泣いていた。




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