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ここを歩くのは、これが2回目。
初めて来たあの時から間を置かず、再びこうやってこの道を歩く。
この先にある、あの場所を目指して。


そして、その建物が見えてきた。
長い林道を歩いてくると、その奥に突然現れるこのお屋敷。

やっぱり、本当にあるんだ。
あれはまぎれもなく現実だったのだ。先日見たお屋敷は、やはり幻なんかじゃなかった。
ま、当たり前のことなんだけど。

そう思ってしまうぐらい、この環境は僕の日常から乖離している。
おとぎの国に迷い込んでしまったのかと、そんな錯覚を覚えそうになるぐらいなのだから。


やはり、このお屋敷は何か無視できないものを感じるんだ。
気になって仕方が無い。
だからつい今日も、門扉から中を覗き込んだり、お屋敷を見上げたりしてしまった。


そういえば・・・・

思い出した。
熊井ちゃんが前に言っていたことを。

あの学園の寮はお嬢様のお屋敷の敷地内にあるって。
寮生の方々が歩く林道の奥にあるこのお屋敷。ひょっとして、ここがそのお屋敷なのだろうか。
ということは、このお屋敷こそ・・・ 


そう考えが次々と繋がりかけていた僕に、後ろからいきなり「君・・・」と呼びかける声。


来た!
さては、またあの執事さんだな。
もう二度目なんだから驚かないよ。
よし、今日はちょっと先制攻撃してやるか。ちょっとワルぶってビビらせてやろうか。
なーんて、ちょっとふざけてみたい気分になる。
だから僕は振り向きざまに「あぁ?」と反抗的な顔を浮かべて、声の主を睨みつけた。

ところが、そこには僕の予想していなかった展開が待ちうけていたのであった。


そこに立っていたのは、執事さんではなかった。

立っていたのは、・・・お巡りさんだった。
鋭い声で誰何される。

「そこで何をしている?」

執事さんだと思ってガンとばしたらお巡りさんだったでござる・・・
笑ってごまかしたくなるが、目の前の相手はあまり冗談も通じなさそうだ。
よりによってこの相手にワルぶったふりをしてしまうなんて、完全に墓穴を掘ってるじゃないか。
早とちりした挙句に、それが思いっきり裏目にでてしまうとは。

別に悪いことなど何もしていないのだけれど、警察官に問い詰められるなんて初めてのことなので、その制服姿を見て緊張のあまり固まってしまった。
詰問口調で先手を取られて、もう僕の方から口を差し挟める余地など最初から無かった。
どうすればいいんだろう。

醸し出している空気が、執事さんとは段違いの威圧感。
そりゃそうだ。相手が相手だけに。僕は完全にテンパってしまった。

「今、この屋敷を覗き込んだりしてたよね」

ヤバイ・・・
それって一般的解釈としては非常に怪しい人に見えるってことじゃないか。
あわてて首を横に振ってみるが、覗き込んでたのがバレバレの状況。

これはまずいことになったのだ。


「どうなの、君。こちらに用事があるって訳でもないよね」
「いや、あの、その・・・」

うまい言い訳を言わなければとあせればあせるほど、何も言葉が出てこない。

こんなとき、熊井ちゃんならどういった反応をするんだろう。
誰が相手でも堂々と自分理論を展開して、無理やりにでも相手を納得させてしまうのかな。
むしろ逆に、そこから反撃(逆ギレとも言う)して相手を責め始めたりしかねない。それが熊井クオリティ。

ダメだ。熊井ちゃんの対応方法では参考にならない。もっと、頭の切れそうな人。
そうだ、栞菜ちゃんだったら・・・ グヒョヒョ・・・
もっとダメだ。なんか、それこそ現行犯で逮捕されそうな気がする。

じゃあ、桃子さんだったら・・・


緊張が過ぎると、人間の脳はどうでもいいことを考え続けて現実逃避をしようとするのだろうか。
そうやって聞かれたことに対し的確な答えを出来ずにいるのだから、お巡りさんは怖い顔を崩さずに僕のことを見ている。

状況は非常にまずい。お巡りさんの心証はかなり悪そうだ。
このまま逮捕されてしまうんだろうか。そうなったら学校も退学だろう。少年院送致。人生オワタ・・・


パニクってしまって、打開策が全く思い浮かばない。
どうしよう。こんなことになるなんて。


そんな絶望のふちにいる僕に、起死回生の救世主が現れた。
そう、まさしく僕にとっては女神のように見える人が、いま目の前に現れたのだ。



「その人がどうかしたんでしゅか」


ま、舞ちゃん!!!

学校帰りなのだろうか、制服姿の舞ちゃんがお巡りさんに対して声を掛けてきたのだ。
僕のことを一瞬見てくれた舞ちゃん、そのとき僕には彼女がまさに天使のように見えた。
僕の窮地を助けてくれるのは、やっぱりこの人、舞様なのだ。
これに運命を感じないほど、僕は鈍感な人間ではない。


「あなたは?」
「この敷地の中にある学園寮の寮生です」
「そうでしたか。失礼ですけど、こちらの方とはどういう関係ですか」
「その人は、まぁ私の知り合いです。何かあったんですか」
「彼がここを意味も無くうろついてるように見えたので呼び止めたのです」
「なるほど。でも、その程度の行為であれば警察官職務執行法第2条における“異常な挙動”の要件を満たしているとも思えないですけど」

それを聞いて、お巡りさんは苦笑してしまった。

「えらい詳しいんだね。勉強熱心なのかな」

あ、何となく雰囲気が変わった。
張り詰めていた緊張感が和らいでいくのがわかる。

今の舞ちゃんのセリフを、男子生徒、例えば僕が言ったとしたら、警察官は「生意気なこと言うな」とか言って更に怒り出すだろう。
同じことをかわいい女の子が言うと、警察官は微笑みながら褒めてくれるのか。
なんだか世の中の不公平さをリアルに感じてしまった。

でも、まぁそれは当たり前だ。「カワイイ」は正義なのだから。


「わかりました。そういうことであれば結構です」

舞ちゃんが僕のことを知り合いと言ってくれたこともあり、お巡りさんは納得をしてくれたようだ。
どうやら、これで何事も無く終われそう。舞ちゃんって凄い。
神様仏様舞様、ありがとう。お陰様で僕は今後も無事に学生生活をおくれそうです。

「ご苦労様です。お巡りさんはこの地域を担当されてるんですか」
「そうです。もし何かありましたら遠慮なくどうぞ」
「そうですか」

それを聞いた舞ちゃん、何か思い当たることがあるのか、お巡りさんにこう言った。

「それじゃお巡りさん、最近は屋根から縄梯子を使って侵入するコソ泥が多いらしいので、パトロールはそれを重点的にお願いしましゅね」
「気を付けておきましょう。貴重な情報もありがとう。本署にも通達を回しておきます」

舞ちゃんに敬礼をしてお巡りさんは去っていった(僕には敬礼なし)。

舞ちゃんが助けてくれた。
そして、さっき舞ちゃんは僕のことを何て言った? もちろん聞き逃さなかった。しっかり憶えてるに決まっている。
知り合い、って言ってくれたんだ! 僕のことを!!

僕のピンチを救ってくれただけではなく、僕のことを知り合いとして認めてくれるなんて。
感激の極みとはこのことだ。今日この日を僕は絶対に忘れないだろう。


お屋敷の前だというのに不思議と人の気配もせず、しんとした静かな空間に戻る。
聞こえるのは風に舞う落ち葉の立てる音ぐらい。

そんな静寂の中で、目の前の舞ちゃんと2人っきり。

「あ、ありがとう・・・助けてもらって」
「ふん、どういたしまして。ちしゃとのお屋敷の前で面倒なことを起こしたくなかっただけだから」

やっぱり、ここが千聖お嬢様のお屋敷!
やっぱりそうだったのか。

舞ちゃんが僕のカバンのポッチャマのアクセサリーをじっと見つめている。
何だろう、今のちょっと考え込んだような表情は。
それから顔を上げる舞ちゃん。

僕と目が合う。
黙って僕を見つめる真顔の舞ちゃんを前にして、僕も緊張で固まってしまう。
その舞ちゃんの表情。僕の心の中まで読みとられてしまいそうだ。
僕を観察し終わったのか、舞ちゃんが僕から視線を外した。

「それじゃ」

舞ちゃんは僕にそう言うと、立ち去ろうと歩きだす。


あ・・


だめだ、この機会を逃したら。

だめだよ。

訳も無くそんな焦燥感に捕らわれる。
待って・・・ 舞ちゃん・・・


その時、この間のライブで聴いた曲、あの雅さんの歌声が頭の中に流れる。


♪あの時 僕に少しだけ勇気があれば 運命は変わっていたのかな


運命を変えられるとすれば、それは今なのかもしれない。
ここが、勝負所なんだ。そうだ、勇気を出さなきゃ。

・・・そう直感した。

雅さんの歌声が僕を後押ししてくれる。 


♪運命は 変わっていたのかなぁ



「あの・・・ 舞ちゃん!」





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