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薄黄緑色の着物に身を包んだお姉さまは、普段と違ってとても大人っぽい。
簪で結った髪、紅を乗せた小さな唇。まるでお人形のようだ。
1月1日、元旦。
私たちは大御爺様のお屋敷へ、新年の御挨拶に伺っていた。
少し緊張気味の私とは違って、千聖お姉様ったら涼しい顔でお抹茶にお口をつけている。


「まあ、明日菜ったら。千聖のお顔に何かついているのかしら?そんなにジッと見て」
「・・・いいえ、そういうわけではないのよ」

おかしな子ね、何て笑いながら、お姉様は私の頭の花飾りの位置を直してくれる。

「ちしゃとおねーたま、みおんのかみもかわいくして!」
「ウフフ、そうね。海夕音も千聖と同じ髪型にしましょうか」

桜貝のように、薄いピンクの爪。丸くて可愛い指が、海夕音の細い髪を器用に纏め上げていく。
お姉様は日頃からヘアスタイルには結構こだわっていて、お姉様のファンの生徒が真似をするほど可愛らしくクオリティが高い。
お裁縫やお掃除はあんなに大雑把なのに・・・我が姉ながら、つくづく不思議な人だと思う。


「お姉様、あとで私のも・・・」
「あら、今日の明日菜は甘えんぼうね。ウフフ、少し待っていてね」
「ええ」

ああ・・・本当に、いつもこんな大人っぽいお姉さまならいいのに。それなら、私ももっと思いっきり甘えたりできるのに。

「ねえ、お姉・・・」
「おい、千聖ねーちゃん!羽つきやろうぜ羽つき!」


――もう、空翼ったら!


せっかく女の子だけの和やかな空間だったのに、すでに袴の裾を汚したやんちゃな弟が、縁側からドカドカと足を慣らして上がりこんできた。


「悪いけれど、空翼。今、千聖お姉様は・・・」
「やろうぜ、千聖ねーちゃん!」

だけど、空翼は私のことなんて丸っきり無視で、一直線に千聖お姉様の方へ向かっていく。
・・・ふん、別にいいけれど。今日の大人っぽいお姉様じゃ、空翼なんかの相手はしていただけないはず。
そう思って、二人の様子を横目で伺っていたのだけれど・・・。

「まあ、羽つき・・・」
「さっき運転手とか執事ともやったんだけどさー、弱くて相手になんねーの。ねーちゃん得意だろ?こういうの」
「だ、だめ!」

とっさにお姉様の前に立ちはだかるも、その子犬のような目がキラキラし始めたのがわかって、私は焦り始めた。


「何で邪魔すんだよ。どーせ明日菜ねーちゃんは一緒にやってくんねーんだろ」
「当たり前でしょう。千聖お姉様だって、今は私たちと・・・」

「・・・羽子つき、楽しそうね」


――ああ、もう!

予想していた通り、空翼の提案したお正月のスポーツは、お姉さまの余所行き顔を終了させてしまったらしい。
着物の裾をつまんで、勢い良く立ち上がるお姉様。


「お、お姉様!晴れ着が汚れてしまうわ」
「あら、それはかまわないのよ。上等なお着物には、後でのお食事会の前に着替えるわ。これは普段使いの着物だから」

もう返事をするのも面倒くさいといった感じに、お姉様は草履を履いて、空翼と中庭に出て行ってしまった。


「1回落とすごとに墨で顔にラクガキだからな!」
「まあ、楽しそう。空翼、手加減は無用よ!」


カコン、カコンと羽をつく音が響く。


「わははは、ねーちゃんまた落とした!じっとしてろよ、パンダにしてやる!」
「うーっ」

キリッと凛々しいそのお顔が、空翼の落書きでひどい有様になっていく。
だけど、お姉様も負けていない。

「空翼ったら、見事な空振りね。ウフフ・・・執事長のようなお髭をたくわえさせてあげる」

小学生のように、キャッキャとはしゃぐ2人。
もう、どうしてこうなってしまうのかしら。せっかくのおしとやかモードなお姉様が・・・何よ、あんなに楽しそうに・・・


「あしゅなおねーたま、みおんもあれする!」
「え・・・」

ふてくされてると、海夕音がぐいぐいと私の手を引っ張った。

「でも・・・」
「あしゅなおねーたまも、あれしたいでしょ?いっしょにやるの!したいでしょ?」

――ああ、小さい子ってすごく察しがいい。
あんまりストレートに言われたものだから、否定することもできず、私と海夕音も庭園へ足へ運ぶ。


「ちしゃとおねーたま、みおんとあしゅなおねーたまも!」
「まあ、頼もしいわね。3人で空翼を成敗しましょう」
「は?かかってこいよ、全員墨だらけにしてやるからな!」


威勢のいい空翼が、強烈なスマッシュを叩き込んでくる。
腕まくりをして、着物の裾を器用に足で払いながら、私と海夕音を庇って羽を打ち返す。
凛々しくて、たくましい腕。小さな背中なのに、すごく頼もしい。


「ちしゃとおねーたま、かっこいい」

うっとりつぶやく海夕音の声に、思わずこくこくとうなずいてしまった。


「はい、明日菜ねーちゃんスカ!」
「あら、明日菜ったら。ウフフ、千聖がお顔に落書きするわね」
「ちょっとお姉様、私たち味方チームウフフやめてくすぐったいわ」


早々“大人のお姉様”キャンペーンは終了してしまったようだけれど、やっぱりこっちのお姉様のほうがいいかもしれない、何て私は密かに思ったのだった。



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