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「でね、メールで千聖お姉ちゃんが・・・」

目のまえで紗季が、花音に向かってオーバーリアクションで岡井さんの話をしている。

「いいな~、千聖お嬢様とメールとか・・・ね、憂佳!」
「え?」

いきなり話を振られ、上手く対応できずに花音を見つめ返す。

「だからー、紗季、千聖お嬢様とメールしてるんだって!ありえなくない?」
「へへー、いいだろ。紗季のお姉ちゃんなんだから」


――あれ?なんだろ。得意気な紗季を見ていたら、ちょっとモヤッとした。
生徒会で一緒に活動している紗季は、1ヶ月ぐらい前、姉妹校のある生徒さんと親しくなった。
一人っ子だから、もともと姉妹というものに強い憧れを持っていたらしい。あまり、私や他の年上生徒会メンバーにはそういう素振りは見せなかったんだけど・・・とにかく、その人にアプローチをかけ、妹として認めてもらえたということだ。

あまえんぼうの紗季に、心を許せる素敵な方がいるっていうのは、いいことなのだろう。
だけど、肝心のそのお相手のことを考えたら、私としては手放しに良かったねとは言えないのだった。


「・・・あんまりお姉ちゃんとか、みんなに言い過ぎないほうがいいと思う。紗季、それクラスの子にも、言ってるでしょ。」

軽く注意するつもりだっただけなのに、自分でも少しびっくりすぐぐらい、強い声が口を突いて出た。
生徒会室の空気がピリッと張り詰める。でも紗季は怯むことなく、いつもの負けず嫌いな口調で反論を繰り出してきた。

「なんで?いいじゃん、千聖お姉ちゃんが紗季のこと妹って認めてくれてるんだから」
「だから。それは2人の間だけの話でしょ?そういうことすると、岡井さんの迷惑になるんだからね」
「紗季、迷惑になるようなこと何にもしてないし。憂佳怖い。何怒ってるの」
「別に怒ってない」

だめだ。冷静にならないと。
そう思っても、一度頭に血が上った状態になるとそれは難しい。・・・紗季や花音みたいに、日頃から喜怒哀楽をはっきり表さないから、肝心なときにコントロールがきかないんだろう。
一体自分は、何にそんなに苛立っているのか。落ち着いて考えようとしても、うまくいかない。


「・・・憂佳ちゃん?」


そんな状況の中、心配そうに私の顔を覗き込む、彩花ちゃんの困った表情で我に返る。
すると、紗季に突然詰め寄った自分の態度が少しばかり客観視できてきて、顔が熱くなった。

こっちからすれば、それ相応の理由があるつもりなんだけど、みんなにとってはいきなりの半ギレゆうかなわけで・・・。
紗季は口をへの字にしてうつむいてるし、花音はオロオロしている。
いたたまれなくなって、私は席を立った。


「ごめんね、ちょっと頭冷やしてくる」
「あ・・・」


逃げるように外へ出て、歯を食いしばったまま早足で生徒会室を離れる。
廊下を踏み鳴らす自分の足音さえ、空気が読めていないような感じがして、何だか泣きそうな気分だ。


――紗季に謝らなきゃいけない。そう思ってはみるものの、まさか自分がこんな酷い態度を取るとは自分自身でも予想できなかったから、まだ混乱していて、考えがまとまらない。
テレビドラマみたいに、屋上に駆け上るわけにもいかず(うちの学校の屋上は閉鎖されてるのだ。危ないから)、キョロキョロと挙動不審気味にうろついた後、結局トボトボと自分のクラスへと戻っていった。

・・・誰もいないといいんだけど。

恐る恐る教室のドアを開けると、どういうわけか、私の席に誰かが座っていた。

「・・・憂佳ちゃん。エヘヘ」
「あ、れ・・・」

立ち尽くす私に手招きをしているのは、さっきまで生徒会室にいたはずの・・・


「彩花ちゃん」
「よかった、ここじゃなかったらどうしようかと思った」
「あはは・・・うちの学校、狭いからあんまり行くとこないんだよね」
「彩も、前に青春ごっこしようと思って校舎走ったんだけどね、結局場所なくって教室戻ってきたの」
「・・・ふふ、青春ごっこって」


一瞬、足が凍りついたものの、彩花ちゃんがいつもどおりにしてくれたから、少しは気持ちが落ち着いてきた。
隣に着席して見つめる。彩花ちゃんの綺麗な横顔。見つめているだけで、不思議と心が安らいでいく。

居てくれてよかった。自分のゴチャゴチャに絡まった心を、何も言わなくても理解してくれる。彩花ちゃんにはそんな不思議な力がある。


「・・・でも、さっきね、少し笑いそうになってしまった」
「へ?」

唐突な彩花ちゃんの言葉。
声を裏返らせる私に構わず、八重歯をちょこんと見せたまま彩花ちゃんは話し続ける。


「紗季ちゃんには悪いんだけどね、憂佳ちゃんが急におっきい声出すから。
ほら、お笑いの人でもいるでしょ。キレ芸っていうの?思い出しちゃって。ははは」
「もう、何言ってるの、彩花ちゃん」


すごいな、と思う。
彩花ちゃんの思うが侭、とりとめなく話をしてくれれば、勝手に私が落ち着くってわかってるんだろう。
昔から“隠れ短気”な私のことを、さりげなーく諌めて、守ってくれる優しい親友。

「紗季に謝らなきゃ」

そうつぶやくと、彩花ちゃんは軽く目を細めた。
そして、唐突に「・・・私、憂佳ちゃんのこと好きだよ」とつぶやいた。


「彩花ちゃん」
「うん、やっぱり大好き。えへへ、だから大丈夫!」


何が“大丈夫”なのか、あんまりよくわからないけど・・・味方でいてくれるっていうメッセージなのだろう。


「あのね」


だから、私は話すことにした。
彩花ちゃんならいい、って思えたから。

「知ってるんだ、私。岡井さんのこと。紗季が知り合うよりずっとずっと前から」

彩花ちゃんの目が、少し見開かれた。

私は“あの出来事”を、脳裏に甦らせながら、ゆっくりと言葉を紡いでいく。


今から3年前、中学1年生の春。
私と岡井さんは、出会った。



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