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私と彩花ちゃんしかいない、放課後の教室。
彩花ちゃんは、私の話が終わった後も、しばらく黙って外を眺めていた。


「・・・何か、こうやって改めて口に出すと恥ずかしいね。
私がその場でちゃんと対処できていれば、大事にいたらずに済んだはずなのに」

自嘲気味にそうつぶやくと、彩花ちゃんの視線が私の方へ戻ってきた。


「・・・憂佳ちゃんは悪くないよ」

それは意外なほど、強い口調だった。

「でも・・」
「悪くない。誰かが悪いんじゃなくって、運やタイミングが悪かっただけだよ」

真剣な眼差し。
彩花ちゃんはいつもマイペースで、その心がどこに向かっているのか、よくわからないことが結構あった。
だけど今、彩花ちゃんは真剣に私のこの問題を向き合ってくれている。
綺麗なアーモンド形の目。視線を逸らせなくて、そこに映りこんだ私と見つめ合ってしまう。
そして、彩花ちゃんは私の手を取ったまま、神妙な口調で喋り続けた。


「・・・岡井さんとは、その後、会えた?」
「ううん、ダメだった。控室に戻ったら、お父さんは居てくれたんだけどね。
岡井さんはちょうど、私と入れ違いぐらいに、荷物持って帰っちゃった後だったみたい」

――何で引き止めてくれなかったの!とか言って、お父さんを半日シカトの刑に処したんだっけ。

「じゃあ、もう全く連絡は・・・」
「それがね・・・何て言ったらいいのか」

私はブレザーのポケットに入れておいたシステム手帳から、1枚の手紙を抜いた。

「これ・・・」


“○○学園高等部に進学しました”

綺麗なピンク色の便箋の上に、愛想のない、ゴシック体の黒文字の印刷文字が躍っている。


「・・・つい最近、岡井さんから届いたの」
「そうなんだ」

彩花ちゃんは神妙な顔で、手紙を透かしてみたり、においをかいでみたり。


「ふふ、私と同じことしてる」
「いやー、何か隠し文字とか、暗号があるのかなって。わざわざ送ってくれたにしては、そっけないから」
「こういう、時候の挨拶みたいなお手紙を、毎年送ってくれるんだ。
お正月、クリスマス、暑中見舞い・・・でも、いつもこんな感じで、手書きではないの。本当に、これだけ」

うーん。

彩花ちゃんと私は、同時に唸った。

この手紙のことを、人に言ったのは初めて。
いつも独特の考え方をしてる彩花ちゃんなら、何か思いつくかなって思ったんだけれど・・・ちょっと、難しかったみたいだ。


「ちなみに、憂佳ちゃんは、返事を出してるの?」
「うん。ただ・・・」
「ただ?」

――ああ、ちょっと言いづらいな。
私は一旦言葉を切って、深く深呼吸をした。
まさか、こんなにたくさん打ち明けごとをすることになるとは。
少し心の整理をしたいところなんだけど、彩花ちゃんは相変わらずジーッと私の発言を待っている。

「・・・私も、返事、同じように印刷文で出してる。同じように、挨拶の言葉だけつづって」

彩花ちゃんが、目を丸くした。


「彩花ちゃん、私ね。あの・・・。岡井さんにひどいことして、もうこれ以上嫌われるのが怖くなっちゃったの。
傷つけた直後は、すぐに謝ろうって思ってた。でも、時間が経ってしまって、岡井さんの方から手紙をくれるようになって・・・これって、許してもらえたのかもしれないけれど、余計なことを書いたら二度と返事がこないような気がして・・・。
私の気持ちを何にも伝えないまま、今、ギリギリで繋がってる状態」


自分のメールアドレスや、携帯の番号。
何度も書こうと思って、結局綴れなかった。
初めて自分から、勇気を出して声を掛けた友達だったから、例えこんないびつな状態でも、絶対に断ち切れたくない縁。
だけどわかっている。いつまでも、こんなままではいけないっていうのは。だけど、私は・・・


「・・・彩、何か、岡井さんがうらやましいな」

ふと、彩花ちゃんがつぶやいた。


「どうして?」
「だって、憂佳ちゃんに、ここまで思ってもらえるなんて。
彩結構、ヤキモチ妬きだからね。花音ちゃんや紗季ちゃんにだって、嫉妬することあるのに、岡井さんはもっともっと憂佳ちゃんの気持ちを独占しちゃってるんでしょ?」

彩花ちゃんは、つないだままの私の手を強く握った。

「憂佳ちゃん。憂佳ちゃんは、どうしたい?
岡井さんとのこと、このままにする?何か、違う風にしたい?
私、憂佳ちゃんのこと、本当に好きだよ。彩にできることなら何でもする。憂佳ちゃんが苦しんでるの、見たくない。だから・・・」


「ゆーか!!」

いきなり、背後から名前を呼ばれた。


「あ・・・」

拳を握り締めた紗季が、ずんずんとこっちへ向かって歩いてくる。
真っ赤な顔。さっきの言い争いが、納得できなかったんだろうか。

謝ろうと腰を上げた瞬間。紗季は思いっきり抱きついてきた。


「・・・勝手にいなくならないでよぉ・・・・!」
「紗季・・・」


泣いてる顔を見られないようにか、胸にギュッと顔を押し付けて、紗季は私をポカポカと叩いた。


「ゆうかに、き・・・きらわれ、たっておもった」
「そんなわけないじゃん。怒ってごめんね。紗季が悪いんじゃないの」
「ちゃんと、いってくれなきゃ、わかんないもん・・・!」

――あぁ、そうだ。
本当に、紗季の言うとおりだ。
何も言わなくても、いつか問題が解決するかも・・・なんて、虫のいい話はないのかもしれない。

私は今まで、優しい友達に甘え切ってしまっていた。
少し不機嫌になれば、誰かがフォローにまわって、私の気持ちを汲んでくれた。
だけどそんなの、いつかは変わらなければいけないときが来る。きっと、それが今なんだと思う。
私の味方だと言ってくれた彩花ちゃんのためにも、怖がらせてしまった紗季のためにも。
そして・・・


「・・・あー、いたいた!ちょっと、ケンカしないでよー!っていうか、何でみんなで私のことフツーに放置してんの?
てか、あのさ、考えたんだけど、ちゃんと仲直りしよう。でね、お菓子持ってきたから、今から・・・」

いつもすこーし間が悪いけれど、気配りと調整の天才、花音。
私を支えてくれる、大切な友達。ケンカした後だっていうのに、みんなが集まってくれると、ホッとする。

「あはは、花音ちゃん。もうそれは解決したんだよー」

彩花ちゃんがそういうと、わかりやすく花音のほっぺたがプクッと膨らんだ。


「もー!そーやっていっつも私抜きで勝手にさー」
「花音。・・ね、お菓子もらっていい?あと、そこに座ってくれる?」
「あ・・・う、うん」

大丈夫、大丈夫。
たまには自分から、自分の思いを話そう。3人なら、一緒に頭を捻って考えてくれるはず。一番いい、答えを。


「紗季、花音。
私ね、実はずっと前から・・・」


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