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舞ちゃんに決して嫌われたわけじゃなさそうではあるが、あの時の答えがNOであることには変わりないわけで。

でも、それでも構わない。
僕の気持ちをはっきりと伝えることが出来たということで、むしろ何かふっきれた気持ちになっているんだ。
それに、いつかは舞ちゃんも僕に振り向いてくれる日がくるかもしれない。


舞ちゃんたちを見送ったあと、幸せな余韻に浸っていたら、後ろから僕の名前を呼ぶいつもの声が聞こえた。
聞きなれたこの声。

だが、振り向いてその人を見たとき、そこにいるのが誰なのか一瞬分からなかった。

熊井ちゃん・・・だよね・・・
何だ、その目元のやたら濃い化粧は。
今日はまたずいぶんと張り切ってお化粧をされているようで。どこのシャイニープリンスだよ。
この人は、このメイクで学校に行くつもりなのか。熊井ちゃんさすが、としか言い様がない。
濃いメイクをした熊井ちゃんはいつもと雰囲気が違っていて、まあ大人っぽいは大人っぽいように見える。
だが、ひとたび口を開くと、そこはそれ、そのクマクマした口調はやっぱりいつもの熊井ちゃんだった。

「あれー? 今日はずいぶん明るい顔してるけど、いいことでもあったの?」
「熊井ちゃん、おはよう。お陰様で舞ちゃんに会えたんだよ」
「お、舞ちゃんに会えたんだ。どうだった?」
「うん、見てくれたんだよ! 僕のことを舞ちゃんが!!」

興奮さめやらぬ思いで、熊井ちゃんに先ほどの出来事を報告する。何といっても、熊井ちゃんには感謝しているのだ、一応。
そのとき僕はあまりにも嬉しい気分だったので、このマジレッサーに対してつい軽口を叩いてしまった。

「舞ちゃんの気持ち、僕には感じられたよ。舞ちゃんもきっと多少なりとも嬉しかったはず!僕がいつもどおりここにいるのを見て!」
「まぁ、それはないだろうけどね」

自分を鼓舞する意味で希望的観測を口にしてみたのだが、それに対しては大きな熊さん一蹴。正論をキッパリと言われてしまう。
せっかく盛り上がってたのに・・・なんて思いながら、口を真一文字に結んでいじけそうになってしまう。
そんな僕を、熊井ちゃんがじっと見つめる。
だから、その顔でそんな見てくるなよ。怖いよ。
目の前にいる王子様は、唐突に僕にこんなことを言ってきた。

「よし! これからうちと一緒に来て」
「熊井ちゃんと一緒に? って、どこへ?」
「ごちゃごちゃ言わず、ついて来れば分かるから」

何かを思いついたのか。
熊井ちゃんの思いつきとか、何それ怖い!状態だけど、僕には彼女の言うことに反論するという選択肢は無いのだ。
急な展開にとまどいつつも、言われたまま彼女に連れられて歩いていくことになった。

だんだん同じ方向に歩く学園の生徒さんが増えてくる。
この方向ってことは学園に向かっているのか。


女子生徒の流れの中を歩くのはちょっと恥ずかしい。かたや熊井ちゃんは、いつも通りの堂々とした態度で颯爽と歩いている。
この人は学園の通学路を男連れで歩くということさえ、何とも思っていないんだな。
そんな流れに乗って歩き、程なくして学園の正門に着いた。
そのまま正門をくぐろうとする熊井ちゃん、だが僕は当然そこで立ち止まる。

「ちょちょ、ちょっと待って熊井ちゃん!」
「なにさ、急に立ち止まって?」
「僕が学園の中に入れるわけないだろ。もういいかな。僕もそろそろ学校に向かわなきゃn
「大丈夫だよ。こっそり中に入っちゃえば、あとは何とかなるって」

何もしなくても目立っている熊井ちゃんが大きな声でそう言った。
男子生徒が女子校の中に入って、何とかなるわけないだろ・・・
しかも正門から堂々と入ろうとしてたじゃん。そういうの“こっそり入る”とは言わないと思うけど。
この人の思考回路は本当にどうなっているのだろう。一度真剣に考察してみたいものだ。


「だいたい僕が学園に来てどうするんだよ」
「今日の1時間目、たぶん舞ちゃんはサボって給水塔にいるから。そこに行こう」

“そこに行こう”って、僕が学園の中に入れるわけないだろ。何考えてるんだ。

「会いたくないの? 舞ちゃんにさ」

だから、そんな大きい声で聞くなよ・・・

そりゃ会えるものなら会いたい。
でも、だからといって学園まで押しかけるっていうのは・・・
そういうのストーカーって言うと思うんだけど、熊井ちゃん。

「舞ちゃんが本当のところはどう思ってるのか、舞ちゃんに会って話しをするべきだよ、うん!」
「いや、そんなのハッキリとなんかさせなくていいんじゃ・・・ゆっくりと関係を再構築していった方が・・・」
「そんな悠長こと言ってていいの? ことわざでも言うでしょ、急いては事を仕損じる、って!」
「ことわざ間違ってるよ・・・ てか、やっぱりデリケートな問題なんだからさ。舞ちゃんだって、あまり突っ込んで欲しくないと思ってるんじゃ」
「だめだよ、すぐにハッキリさせないと。そういうの、うち落ち着かないから!」

自分の感情の高まりのままに告白した結果、今こういう状態になってるのだ。
再び同じ過ちを犯すほど、僕は学習能力の無い人間では無い。
自分でも冷静な分析が出来たと思うが、熊井ちゃんは僕の訴えを全く聞いてくれなかった。

熊井ちゃんは、僕の考えてることを聞いても最初から最後まで丸ごと無視したあげく、うちが落ち着かない!という僕には関係ない理由で舞ちゃんに会おうとしている。
彼女の頭の中ではどのような素晴らしい考えになっているのか、熊井ちゃんは自分の考えにすっかり心酔しているようだ。
こうなった彼女にはもう何を進言しても無駄なのだ。このまま流れに身を任せるしかないのだろうか。

「大丈夫、まかせて。うちがちゃんと会わせてあげるから」


こんな正門のどまん前でそんなやりとりをしているのだから、僕たちは目立ちまくってる。
熊井ちゃんはただでさえ目立つのに、今日はこの王子様のようなメイクなのだ。
通りがかった生徒さん達がみんなこっちを見て通り過ぎていく。
熊井ちゃんにうっとりとした表情で見入っている中等部の生徒さんまでいるよ。
その子にケイタイで写メられたりしても、熊井ちゃんは全く意に介してない様子だったけれど。
さっきの通学路といい、その動じない姿勢、さすが大きな熊さんです。

まわりが女子生徒ばかりというこの環境、さすがに僕は気恥ずかしかった。

「熊井ちゃん、ここは目立ちすぎるからさ。ちょっとこっちへ」

とりあえず、正門のどまん前ははずそう、そう思って熊井ちゃんを誘導していたら、僕も知っている人がやってきた。

梨沙子ちゃんだ!
りーちゃん、おはよう!!

りーちゃんは今日もかわいい。そのうちまた放課後に彼女と会える日が来るのかと思うと楽しみでならないなムフ。
そしてもう一人、梨沙子ちゃんと一緒に歩いてきたのは、ちょっと恰幅のいい貫禄のある感じの生徒さんだった。
彼女たちに気付いた熊井ちゃん。

「まーさ、梨沙子、おっはよー!!」
「おはよう、熊井ちゃん」

熊井ちゃんが、まーさ、って呼んだこの人。
そういうことか。この人がお姉ちゃんの後任の生徒会長さんだ。茉麻さん。

彼女のその長く美しい黒髪に目を引き付けられてしまう。とても綺麗な髪だなあ、それが強く印象に残ってる。
たぶん、この学園の生徒会長さんには、当然のように日本美人の人が選ばれるんだろう。
さすが、伝統ある女子校だ。

彼女は今この状況を見て、当然思われたであろうその疑問点を僕に質問してきた。

「うちの学園の生徒に何か御用ですか?」

他の高校の、しかも男子生徒がこの時間に学園の正門にいるのだ。誰が見ても怪しいと思うだろう。ましてや彼女は生徒会長なのだ。
生徒会長さんはその職責からか、自分の学園の生徒を守るように熊井ちゃんの前に立ちはだかり、僕に問いかける。
学園の生徒である熊井ちゃん側に立つのはわかるけど・・・
彼女の後ろで守られている熊井ちゃんの方が、僕よりもずっと怪しい外見なのではないだろうか?と思うのは、それは僕の主観だろうか。

僕は彼女の問いに対して、何て説明すればいいんだろう。

(僕は訳も分からず一方的に、熊井ちゃんによってココへ連れてこられたので、その質問はその後ろの人にお願いします)

こういう答えをしたいところだが、それでいいのだろうか。
“熊井ちゃん”とはどういう人かが分かってもらえば話しは早いだろうが、それをイチから説明するのはめんどくさいな。

そう思った僕にとって幸運だったのは、彼女の横には梨沙子ちゃんがいたことだ。
梨沙子ちゃんが生徒会長さんに説明してくれた。

「この人、熊井ちゃんの子分の人だよ、まーさ」
「子分? 熊井ちゃんの?」

だから、僕は熊井ちゃんの子分なんかじゃない・・・

僕が熊井ちゃんと知り合いらしいということで、だいたいの事情を察してもらえたらしい。
茉麻さんは熊井ちゃんという人のことをよく知っているようだ。
今この場所に立っているのは僕の意思ではないということ、つまり僕が決して怪しい人間ではないということを理解してもらえた。
さすが熊井ちゃんだ。“熊井”その名前を出すだけで、全ての行為を万人に納得させることのできる人間力。それが熊井ちゃん。

でも、とりあえず良かった。
もし、この場所に立つ僕を現認したのがなかさきちゃんだったとしたら、申し開きも許されず一方的に不審者扱いされるところだっただろう。
それを考えると、見咎められたのが風紀委員長ではなくて生徒会長だったのは僕にとって幸運だったのかもしれない。


「熊井ちゃんの友達なんだ。でも熊井ちゃん、ほどほどにね色々と」

茉麻さんは熊井ちゃんに向き合うと、大きな熊さんを軽くたしなめる。茉麻さん、まるで猛獣使いみたいw
さらに茉麻さんは熊井ちゃんに温かい視線を保ったままこう言った。

「あと熊井ちゃん、その化粧も。今日は風紀チェックが無かったからいいけど、そんな化粧したりして、またなっきぃの血圧が上がっちゃうでしょ」
「ねー、まーさ、今度一緒に男装喫茶とか行ってみようよ。茉麻は絶対似合うと思うんだよねー、男装。メイドさんたちにモテるよーきっと」

うわー・・・ 相変わらず人の言うことを全く聞いてないよ・・この人。
そんな熊井ちゃんの返答を聞いて、苦笑する茉麻さん。それでも熊井ちゃんに対して温かい瞳はそのままだった。

さすが生徒会長さんになるような人だ。人間が出来てるなあ。
温かく見守るその姿勢といい、まるで熊井ちゃんの保護者のようだ。



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