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身動きの取れない寝心地の悪さで、私は目を覚ました。


「・・・・栞菜。」
「むにゃ」

右手を私の頭の下に、左手を腰に回した彼女・・・栞菜は、寝ぼけ眼で私に顔を近づけてくる。


「やめなさい!どうしてそうやって、千聖の体に触れたがるの!」

あまり、体に触れられるのは好きではないと伝えているはずなのに・・・。一緒のベッドで寝ている栞菜は、最近、そういう私の訴えを聞き入れなくなってきた。


「腕まくらもリハビリの一環だかんな、お嬢様。・・・あー、腕が痺れる」
「当たり前でしょう。頭の下に腕を置いたら、そうなるに決まってるわ」

腕をさすってさしあげると、栞菜はなぜかニヘッと嬉しそうな顔で笑った。

「腕まくらは男のロマンだかんな」
「・・・栞菜は女の子でしょう?」


全く、冗談ばかり言って。
栞菜はとても頭がいいから、煙に撒かれて、考えている事がよくわからない。
それはまあ、確かに、栞菜に抱きつかれたり、体に触れられるようになってから、以前ほどスキンシップに抵抗がなくなってきたとは思うけれど・・・まるで子ども扱いをされているみたいだ。


「栞菜、もう千聖は高校生なのよ」
「知ってるかんな」
「そうやって、抱いてあやすようなことはしないでちょうだい。私は高校生なの」

大事な事なので、2回繰り返させていただきました(キリッ)

そう、壁に掛かっている、青い制服は高等部進学の証。
舞がいくら私を子供だと言おうとも、お父様にチビすけなどと呼ばれようとも、私はもう、赤い制服に袖を通す事はない。
だから、これからは上級生らしく、大人の振る舞いを見につけなくては。
生徒会だって、代替わりをして、私も役職に就かせていただくこととなった。
いつまでもあまえんぼうではいられないのだと思う。


「・・・はぁーん、何か考え込んでるその横顔、凛々可愛いかんな!」
「きゃんっ!どうしてそんなところに触れるの!やめなさい、命令よ!」


* * * * *

「いってらっしゃいませ、お嬢様」
「ええ、千聖がいない間、家のことをよろしくね」

いつもどおり、め・・・村上さんに見送られながら、寮の入り口へ足を運ぶ。


「おはようございます、お嬢様」
「ごきげんよう、なっきぃ」

皆さんよりも先に、門扉の前で待っていてくれたのは、なっきぃ。
お見本のような制服の着こなし、スラッとした肢体に、可愛らしいお顔。お人形さんのような美少女とは、なっきぃのためにあるような言葉だと思う。
私は背が低くて、変に肉付きの良い箇所があったりしてバランスが良くないし、比べるのもおこがましいけれど・・・あと1年したら、なっきぃのようになれるのかしら?
栞菜のように、難しい言葉を自然に使ったり・・・その先の未来では、舞美さんやえりかさんみたいな優しくて美しい女性になれるのかしら?

どれも、自分に当てはめてみるとしっくりこない。きっと、わたしのまわりには、魅力的な女性があまりにもたくさんいすぎるから。

「お嬢様、今日は舞ちゃん、総務の仕事が滞ってるとかで、先に行ってるみたいです。栞ちゃんは愛理と話があるとかで・・・」
「あら、そうなの?」
「なので、今日は私と2人で行きましょう。キュフフ」

そんなわけで、私はなっきぃとともに林道へと足を運んだ。
去年までは寮の方3人以上と一緒でなければ、登下校は車を使うように言われていた。
だけど、高等部に上がるのを契機に、私はお父様とじっくり話し合って、幾つか約束を改定してもらうことができた。

「キュフフ、2人で登校って新鮮ですね」
「ええ、本当ね。初めてかもしれないわね」


これもそのうちの1つ。
今年度からは、一人でなければ、徒歩で登下校してもいい、ということになった。
通学以外の外出に関しても、同じく一人でしないこと、行き先を現地から逐一めぐ・・・村上さんに報告するのを守れるなら、構わないと。


「お前も、いつまでも子供じゃないんだよな」

なぜか少し寂しそうに、お父様は笑っていた。
同時に、こうも言っていた。その代わり、ちゃんと責任を果たせる人間になりなさい、と。


高等部1年生、生徒会役員。
まだ始まったばかりの新しいスタートだけれど、今までのようにボーッとしているわけにはいかないと思う。

生徒会長就任の挨拶を堂々と成し遂げ、学校中の生徒の心を掴んだ茉麻さん。
これが天職、と笑って、2期目の副会長に就任したなっきぃ。
言葉は少ないけれど、みんなの気がつかないようなポイントを見逃さず、ゆるりふんわりと議題に上げる、新副会長の愛理。
会計補佐から正規役員になった栞菜も、昨年度同様、そつなく実直に業務を遂行することだろう。
新設となった総務の舞に大きな熊さん・・・斬新な切り口で、学園内の様々な問題に着手していく姿が、容易に想像できる。
すぎゃさんは、広報の仕事をなさると言っていた。新聞部の皆さんも、色々とお力を貸してくださると。


私は・・・一体、何が出来るのだろう。
生徒会役員として、書記として。

あまり考え込まなくていいんですよ、と前書記のえりかさんはおっしゃっていたけれど、私の場合は、誰よりも努力しなくてはいけない。
皆さんと、良い学校づくりを目指していくために、もっとしっかりしないと。


「あら、お嬢様ったら。難しい顔して、どうなさったんですか?」
「・・・なっきぃ。千聖、書記のお仕事、精いっぱいお勤めするわ。制服も青になったんですもの。お姉様学年だわ。後輩をお導きする立場。そうでしょう?」
「まあまあ、そう気張らずに。一歩一歩ですよ、お嬢様」


なっきぃはいつもどおりキュフフと笑って、私の胸元のリボンをキュッと結びなおしてくれた。
そんな仕草だけでも、安心感を覚える。
私もいずれは、こうして誰かのリボンやタイを直す側になりたいけれど・・・気持ちばかりが焦ってしまう。


「あら・・・?」

なっきぃと一旦別れ、靴箱を開けると、そこに手紙が何通か入っていた。
水色やピンクの可愛らしい封筒。私のために選んでくださったのだと思うと、申し訳ないような、気恥ずかしいような気持ちになる。

中等部の頃も、たびたびこうしてお手紙をいただくことがあった。
こんな私に憧れている、などと言ってくださる下級生もいて、改めて、気を引き締めなければと感じる。

今夜、お返事を書こうかしら?
そんなことを考えながら、靴をしまっていたら、「ちしゃと」と声を掛けられた。

「うふふ、舞ね」

振り向かなくてもわかる。
私を名前を口にするときの、独特の舌たらずな声。甘い、ベビーパウダーの香り。
今朝は朝食のタイミングが合わず、お顔を合わせていないから、久しぶりに会えたような不思議な感覚を覚える。

「ごきげんよう、舞。総務のお仕事は?」
「もう終わった。いこ」

舞は私の手首を掴んで、ぐいぐいと引っ張る。

「舞ったら、中等部の昇降口はあっちでしょう?わざわざこちらに来てくれたの?」

そう問いかけると、舞はなぜか眉をしかめた。

「舞?」
「・・・ってか、それ、また全部返事書くわけ?きりないじゃん、そういうの」

私の問いかけには答えてくれず、不機嫌そうな顔で手紙を指さす舞。

「でも、せっかくいただいたのだから、千聖はお返事をしたいわ。下級生からのお手紙なら、尚更。
学校のことでお悩みがあるなら、千聖が上級生としてお答え・・・」
「いちいち上級生って言わないでよ」
「どうしたの、舞」

このところ、舞はあまり機嫌が良くない。
寮やお屋敷で遊んで過ごしているときはいつもどおりなのだけれど、私が学校生活の話をすると、途端にこうして表情を曇らせてしまう。


「・・・青の制服、似合ってない。
ちしゃとは舞と同じ赤でよかったのに」

独り言のようにつぶやくと、もう舞はこちらを向いてくれずに、私の手を引いたまま前を歩き出した。



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