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「千聖様、おはようございます!」
「ごきげんよう」
「おはようございます、千聖お嬢様」


教室に行く途中、何人かの下級生に声を掛けられる。
以前、私の“親衛隊”をお名乗りになっていた上級生はもう卒業し、現在は下級生が、そういった名前のグループを継いでいるという。・・・私のことを気に掛けてくださるのは嬉しいのだけれど、少し、気恥ずかしい思いもある。

「・・・ちしゃと、早く」

舞はさっきよりも苛立たしげに、私の手を引っ張る。

「ちょ、ちさまいktkr」
「あの舞様を振り回せるのって、千聖お嬢様だけだよね!」

せっかく話をしてくれた下級生の声が、遠ざかっていってしまう。


「もう、舞・・・何を怒っているの。そんな態度を取ったら、怖がられてしまうわ」
「・・・ふん、どこが怖がってんだか」


舞は自分の知らない人が、私に話しかけることを極端に嫌がる。
理由を聞いたこともあるけれど、“聞かなきゃわかんないの?”と怒られてしまった。

いつも私のことを考えてくれて、私を守ってくれる舞。
だけど、頭の良くない私には、こうして舞の頭を悩ませている原因が良くわからないのだった。


「・・・舞」

少し大きめの声で呼びかけると、階段の途中で舞が止まる。

「今日のお昼は、二人で食べましょうか」

そう呼びかけると、その大きな目が、さらに見開かれる。


「・・・でも、生徒会は」
「ウフフ。定例会議は放課後だから、昼食会はキャンセルさせていただきましょう。
給水塔でいいかしら?」
「・・・栞菜に見つからないように、気をつけてよね」


もう、舞は笑顔になっていた。
よかった。最近は2人っきりで過ごす事が少なかったから、舞もそれで苛々してしまっていたのかもしれない。
お昼までに、話すことを整理しておかないと・・・。そんなことを考えながら、舞と手をつないでいると、「千聖様」と後ろから名前を呼ばれた。

「あら・・・」


初等部の丸襟ブラウスに、紐リボン。
すっきりと、和風なお顔立ちのその下級生を、私は知っていた。

「ごきげんよう、宮本さん」
「わあ、覚えていてくださったんですね!うれしい」
「お手紙、よくくださるでしょう?
いつも同封している、あの・・・プリクラというのかしら。写真のシールで、お顔を拝見しているから」


そこまで話して、ふと、舞の方を見る。
お昼の屋上での約束があるからか、さっきのように不機嫌な顔はしていないみたいだ。
口をキュッと引き締めて、宮本さんの顔を、じーっと見つめている。舞が何かを思い出そうとする時の癖。本人が嫌がるから言わないけれど、獲物を狙う猫を思わせる。

「今日は千聖様にお願いがあって、高等部の先生に許可をいただき、お邪魔しました」
「お願い?どんなことかしら」

とても綺麗な言葉遣いで、初等部の生徒とは思えない落ち着きぶり。
そういえば、宮本さんはお手紙も上手だった。
丁寧な字で、その日あった珍しい事を簡潔に、感想も添えて文章に起こしていた。

「萩原さんがいらっしゃるのに、このようなお話は恐縮ですが。千聖様。私と・・・」


「ちょっと、かりん!!」

宮本さんが何かを言いかけたとき、今度は他の初等部の生徒が、叫ぶような声とともにずんずん階段を上がってきた。
栗色の髪。くっきりとした二重瞼が、やけに艶っぽく、大人びて見える。小柄で華奢な体とアンバランスで、その危うさが不思議と魅力的に感じられた。


「あの・・・?」

そのハスキーな声を、どこかで聞いたことがある気がして・・・もう一度聞きたかったのだけれど、彼女は私とは目を合わせてくれず、一礼して宮本さんの首根っこをつかんで階段を下りてしまった。


「ちょっと、遥ちゃん!なにすんのよ!」


何だか、慌しい。
せっかくわざわざ会いに来てくださったのに、ほとんど会話も出来なかった。
今日いただいたお手紙の中に、宮本さんのもあればいいのだけれど・・・。

「・・・ちしゃと」
「え?」

そんなことを考えていると、ずっと黙っていた舞が口を開いた。

「・・・まあ、とにかくお昼、忘れないでよね。舞、多分先に行ってるから」
「ねえ、舞。今のお2人」
「ね、わかった?」
「・・・ええ」
「じゃ、舞中等部の方戻るから」


――怒ってはいない、と思うけれど、何とも言えない笑顔を浮かべた舞は、手をひらひらさせて、この場を離れていってしまった。

歩きながら電話でもしてるのか、声だけが響いてくる。


「あ、有原?ちょっと調べてよ。オメーの脳内℃変態ロリコン美少女図鑑にさ、ミヤモトカリンとクドウハルカ・・・」



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